3045/05/01 交渉演技
私の言葉に対して、誰も反応を返してくれなかった。
決して聞こえなかったわけではないと思う。言い切った後、人々は互いに顔を見合わせ、身振り手振り、先ほどまでより大きく動き、ざわざわと話している。しかし、それらの行動、ざわつきがこちらに向かってくる気配は一切なかった。
「いや、もちろん、何か悪いことをするのではなくて、その、……実は、私は、……そう、き、記憶喪失で帰る場所が分からないんです」
その光景に焦る。順序間違えたのか、頼み方を間違えたのか、それとももっと根本的なところで間違えてしまったのか。
多分、走馬灯ともいうべきなのか。頭のどこか、記憶の中が瞬間的に様々な場面を映し、覚えている限りの言葉、単語が一気に浮かんだ。ほとんど直感的に言葉が出ていた。パッと思い浮かんだ適当な言葉をそのまま膨らまし始める。
「きっ、気づくと、私はびょ、いや、遺跡の中におりまして、そ、そこでこの子たちと出会ったのです。えーっと、ですから、」
「え? タダサンって記憶なかったの? 大丈夫か?」
「ああ! だから、遺跡の外まで案内したら、大人に合わせ欲しい頼んできたんですね?」
「……ちょっと、待って? おかしくない? なんで今言うの? 都合よすぎるような、」
「……ちょっと、静かにしてね。後とで訳は話すから」
セン達からの小さく茶々が入るが大人たちまで聞こえない程度の声で答え、にっこり笑う。三人は胸に沸いた疑問を素直にしまい込んでくれた。
「……その、お言葉が本当でしたら、タダカズトさんがお困りだという事は分かりました。また、ご提案いただいた内容も考えるに値します。しかし、」
そんなバカみたいな事をしていると、ようやく、大人たちの方から反応が返される。その声はやはり代表代行のハクロの声であった。
「町に住まわせるというのは町長の判断が必要です。それにお答えするのは町長が戻ってきてからでもよろしいですか?」
「え、あ、はい。大丈夫です」
そういうものなのかと納得し、返事を返した。張りつめた緊張が少し緩み、私は子供たちに向かって言葉を掛けた。
「では、先に、えっと、みんな待たせたね。帰っていいよ」
「え!?」 「え、いいんですか?」 「はい?」 「はぁ?」
何か子供たちから予想外の反応をされたたが、それ以上に、大きな声が聞こえた。
「はあ? い、いや、いいんですか? タダカズトさん?」
「え、いや、だって、このままみんなで、ここにいてどうするの?」
「」
「どうすればいいの?」
ハクロは理解できない、絶句したような表情でこちらを見てくる。私はその表情を見ながら、同じ意味合いの言葉を繰り返した。




