3045/05/01 提案交渉
私からの命令にアガートラムは即座に反応し、その後すぐに、あの不気味に響いた音は止まった。
「止まった?」 「今度は、何が?」 「いったい、何が起きてるんだ」 「ああ、これ以上は何も起きないでくれ」
音が聞こえなくなって人々が示したのはまずは戸惑いであった。口々に音が止んだことを確認し、そして、これ以上の異常なことが起きないことを切に願っている様子であった。
そんなざわめきを続ける人たちの方に改めてまっすぐ体を向ける。大きく息を吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出し、今からすることを考えつつ、体を落ち着かせる。そして、何度かの深呼吸の後、私は最後に大きく息を吸い込んで話しかけた。
「皆さん! 聞こえますか!」
人々の注目がこちらに一斉に集まった。
その動きに一瞬、たじろいかけたが、私は何とか踏みとどまって、先ほどから伝えたかったことを大声で口に出す。
「まずですね、子供たちを解放しろという話ですが、前にも言いましたが私は別に子供たちを連れ去ったわけでありません。ただ、遺跡で一緒になって、そこからバスに乗って、ここまで来ただけです。そして、その料金を全て立て替えました」
そこまで一気に話し、相手の反応をうかがう。ここまで特に新たな事を言っているわけではなく、ただこれまでの事を並べているだけなので、人々の動き何か各別の変化は見えず、私は言葉をつづけた。
「皆さんが喧嘩しているバス料金の件ですが、一つ提案があります」
ここで一旦、言葉を区切る。改めて、大きく呼吸し、間を開ける。
提案という新たな言葉に人々は少し反応を示す。それは、小さなざわめきであったが、湖面に広がる波紋のように確実に薄く、広く、大きく、人ごみを伝わっていく。
「バスの料金90万分、お支払いが難しいなら、その代わりここにしばらく住まわせて欲しい」
呼吸を整えた後、私は震えそうな声を必死に抑えつけ、そう言い切った。




