3045/05/01 話し合いと相談
「少し、そのままお待ちください。バー、シクス、ドゥ、アハト、ちょっとこっちに来てくれ」
ハクロが再び頭を上げると今度はこちらに背を向けて、何人かの名前らしきものを呼んだ。呼ばれた者はそのままハクロの傍に集まり小さな集団を作り、こちらに聞こえないように円陣を組んでひそひそと話し合いを始めた。
(……宿の事で相談してるのかな?)
初めそんな風に思いながら、私はただぼんやりとそれを眺めていた。しかし、ハクロたちの話し合いはすぐには解かれず、変化の見えないそれに興味を失い、意識をそちらから外し、その周囲に回すと違和感を覚えた。
今までどんな時でも向けられていた視線がなくなっていた。ハクロから名前を呼ばれなかった他の大人たちは、真剣な様子でハクロたちを注目していた。
彼らは私に対しての興味を失って、ハクロたちを見ているという雰囲気ではなく。何と説明すればいいのか、優先順位が変化し、そちらに興味、関心が移った様子であった。つまり、ハクロたちの話し合いで何が決まるのか、次の発言を固唾をのんで待っていた。
(何? 何をしているんだ? 何を決めるんだ?)
その明らかな変化に戸惑いを覚えつつ、物音を立てないようにして他の情報を得るために周囲をよく観察していると、そんな中で、ふと気づいた。目の端、隅の方でアールとロックが小さく、何かを手で払うように動かしていた。
(今度はなんだ? どうしたんだろ?)
一旦、二人が奇妙な動きをしていることに気づくと、顔は自然とそちらを向き、二人の方に視線が固定された。私が注目していることに気付いた二人は周囲に悟られないようにしながらも、その動きをさらに細かく、素早く行い始める。
その動きの変化を考える。
(追い払ってる? 虫? いや、違う。なんだ? 呼んでる? トイレ?)
いろいろと理由を考え、観察する。それは、よくよく見ていると払うのではなく、どちらかといえば、何か招くような動きであった。何を招いているのか?
私は一度だけ左右に首を動かして確認する。左右どちらにも人はいない。今度は更に体をひねる、ボキボキっと大きく骨が鳴るが、やはりそちらにも人はいない。
二人は私の奇行に首を左右に振った。そして、それまで以上に大きく、早く手招きをする。その動きを見て、最後に残った可能性、私は自分の方に人差し指を向けた。
二人は大きく首を今度は縦に振った。
それを見て、周りを注意しながら二人の方に向かって私は車いすをゆっくりと慎重に走らせた。




