第五話
晴れているときはもちろんのこと、風が冷たく凍えそうなときでも、大雪が降って前が見えない時でも、少年は町にやってきて雪を積み上げていきました。
そうしてできた塊は、縦に積むことが難しくなってきたのか、だんだんと道なりに伸びていきました。
町の人たちは笑います。
いったい何をしているのかと。
道の真ん中に積み上げられていく雪は、邪魔になって仕方がありません。
雪にうんざりしている大人たちは、少年の積み上げた雪の塊をうっぷん晴らしに蹴散らします。
子供たちは雪を少年に投げつけて笑っています。
それでも少年はもくもくと一人で雪を集めては積み上げ、固めては積み上げていきました。
とうとう四季の塔まで雪を積み上げることができた少年は、今度は反対の町の門に向かって雪を積み上げていいきました。
このころになると、町の人たちも気づき始めました。
雪を積み上げて塔の上に登るつもりじゃないのか、と。
まさか、という声があがります。
何せ塔はとてつもなく高く、雪を積み上げたぐらいで登ることができるだなんて思えないのです。
正気の沙汰とは思えません。
家に引きこもりすぎて頭がおかしくなったんじゃないか。
親の酷い死に目をみちまったんだ、そうなってもおかしくはねえな。
それともおふれの賞金に目がくらんだか?
塔に登ったって冬の女王様に出て行ってもらわねえと賞金なんざもらえねえってのによ。
げらげらと笑う声が町に響きます。
指をさしながら少年をあざ笑います。
大人がしているのですから、子供たちも同じように少年を笑います。
母親たちは少年をみると少年のようになってしまうよといいながら子供たちを家の中に連れ帰りました。
少年は雪を積み続けます。
誰に笑われたって少年の耳には届いていません。
手袋の中の指に感覚がなくなっても少年はもくもくと雪を運び続けました。
その日の空は、久しぶりに見る青空でした。
少年はスコップを置いて、晴れやかに笑いました。
とうとう少年の作っていたものが完成したのです。
それは町の門から四季の塔へと続く、氷の道でした。
氷の道は太陽の光を浴びてキラキラと輝いています。
まるで少年の心を表しているよう。
道の周りには少年を馬鹿にしていた町の人たちが集まっていました。
人々は少年に声を掛けます。
がんばれよ!
気を付けて!
お前ならやれるさ!
あれほど少年を罵っていた口は、今では少年を励ます言葉で溢れます。
どうしてかって?
それはね、とても時間がかかったけれど、とても簡単なことだったんです。
嘲笑われながらも少年は毎日休まず雪を積み続けました。
初めは小さな雪の塊でした。
それがだんだんと大きさを増し、長さをつけて、四季の塔まで雪の塊を作り続けました。
すると今度は平らだった雪の塊を斜めに積み上げていくようにしました。
どんどん、どんどん雪を積み上げます。
それはとても言葉には尽くせないほど辛く大変な作業です。
その上、大人には馬鹿にされ、子供からは雪を投げられます。
それでも少年はもくもくと雪を運び続けました。
そして道に沿って積み上がっていく雪の塊はその大きさで町を二分するようになり、町の家の大半を塊の陰が覆うようになると大人たちは笑っていた口を閉じ、馬鹿にするために差していた指に手袋をはめてスコップを持つようになったのです。
一人、そしてまた一人。
少年を手伝う大人の姿が見え始めました。
子供たちも雪を投げつけるのではなく、少年のもとへ運ぶようになりました。
そうして町の人々はいつの間にか少年を手伝うようになったのです。
皆で力を合わせて作り上げた、四季の塔へと続く雪の道は冬の太陽の光を浴びてそれはそれはきらきらと美しく輝いていました。
少年は、靴に付けてあるアイゼンを確認すると、四季の塔をじっと見つめました。
これから滑りやすい雪の道を一人で歩いていくのです。
町の人たちの歓声が上がりました。
さあ、閉じこもってばかりいる冬の女王に会いに行こう。
少年は歩き始めました。