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スミレ色の鑑定眼  作者: 猫じゃらし
第四章 金の契約
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第41話 整合性、再び

 翌朝、机の上に全部並べた。


 帳簿の切れ端、粉を包んでいた紙、アンセルムが用意した支払い記録の写し、白廊での観察を書き留めた自分の覚書。それから、ヤニクが最初に持ってきた情報。ナタンが「変な仕事を断った」という一語。


 これが今ある全部だ。



 整合性を確認する。


 ムーラン子爵は王宮調達部門を通じて、存在しない物資への支払いを処理している。差額は、偽造金貨の素材製造費と流通コストに充てられている。偽造金貨は霜市場を通じて流通している。王宮発行の金貨と混じって。


 ナタンは素材の供給を「断った」。断ることは、消えることを意味した。


 この構造の頂点にいるのはムーラン子爵ではない。ムーラン子爵はこの仕組みの「処理者」として機能しているだけだ。本当の設計者は、まだ見えていない。



 全体像は見えた。


 しかし「誰が設計したか」は、見えていない。


 ここまでの情報でムーラン子爵を断罪することはできる。王宮調達部門の不正支払いは記録に残っている。帳簿の書式は一致した。粉は偽造金貨の芯材と一致した。ナタンの失踪がある。一本の線が、全部を貫いている。


 それでも、設計者には届かない。


 この「届かない」という感覚を、ミラヴェルは一度だけ確認した。第二章でも、第三章でも、核心の一つ手前で止まった。今回も同じ形をしていることが、むしろ情報になる。この仕組みを設計した人間は、ムーラン子爵を前に置くことで、自分が見えないように構造を組んでいる。


 覚書の端にそれだけ書いた。それ以上は書かなかった。



 整理の途中で、白廊の記憶が戻ってきた。


 廊下の先に見えた二人。ムーラン子爵と、その一歩後ろを歩く少女。少女の視線が、父の背中を追っていた。「見張っている」という感覚が鑑定眼から来たものか、目で見た印象から来たものか、あの場所では分離できなかった。どちらでもある、という答えが最も正確かもしれない。



 カトリーヌ・ド・ムーラン。十七歳。今季のデビュー組。マルグリット・ド・フォンテーヌと同じ今季だ。


 マルグリットは「見てしまった」偶然に、書簡が床に落ちた。カトリーヌは「見ている」意図的に、距離を保って。


 この二つは違う。「偶然見た」と「意図して見ている」の差は、目的の有無だ。


 カトリーヌが何のために父を見ているのか。今はまだ分からない。



 ただし。


 カトリーヌは「知っているから見張っている」という可能性がある。


 知っているとしたら、何を知っているのか。父の仕組みの全部か、それとも一部か。知った上で沈黙しているのか、知った上で何かをしようとしているのか。どれも今はまだ分からない。


 しかし可能性として持っておく必要がある。ナタンは「断った」から消えた。カトリーヌが「知っている」なら、カトリーヌもナタンと同じ立場になる可能性がある。


 その場合、次に確認しなければならないことが一つ増える。


 覚書にカトリーヌの名前を書いた。ムーラン子爵の名前の下に。それだけだ。



 夕方近くヤニクが来た。


 裏口を開けたとき、石段の上に立っていた。座っていなかった。一段だけ上がって、扉の前に立っていた。それだけでいつもと違うことが分かった。


「上がってください」と言いかけた。


 ヤニクが先に口を開いた。


「昨日から、尾けられています。私服です。二人組。近衛の私服と同じ動き方です。おれはそういうのを見分けられますから」


 支払い記録の写しを整理していた手が、止まった。


 一瞬だけ。


 それからまた動いた。


「いつから?」


「昨日の朝から」


「ナタンの商館に行った翌日から?」


「はい」


 四つの言葉が、空白なく並んだ。ヤニクが答えるのに一拍もかからなかった。確認済みのことを渡している速さだ。昨日の朝から気づいていて、確認して、今日ここに持ってきた。


「ナタンの件は?」


「見つかっていません。ただ、知り合いが一人、何か見たかもしれないと言っています。明日、確認します」


「分かりました」


 ヤニクが少し間を置いた。


「おれのことは、大丈夫です」


 弁解には聞こえなかった。報告の延長として、事実を付け加えた言い方だった。ミラヴェルはその言葉を受け取って、ヤニクを見た。


「明日の報告を待ちます」とだけ言った。


 ヤニクが頷いた。石段を下りて、通りに出た。その背中を見送りながら、ミラヴェルは手の中の書類を一度だけ確認した。写しの端が少し折れていた。いつ折れたかは、分からなかった。


 ヤニクの足音が遠くなってから、屋敷の中に戻った。


 廊下を歩いた。自室を通り過ぎた。


 一人になって、フェリクスの部屋のドアをノックした。

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