第32話 外の世界への窓
記録院に着くと、アンセルムはすでに第三書庫にいた。
今日は呼び込まれる前に自分で扉を開けた。アンセルムが振り向いて、棚から一枚の用紙を引き出した。机の上に広げる。依頼の内容を聞く前から、準備を始めていた。
「マルグリット・ド・フォンテーヌの証言の要旨を、参照記録として保管したいのです。名前なしで。封印なし、参照番号も出さない形で」
アンセルムがペンを持ったまま、少し間を置いた。確認している間ではなく、処理の形を決めている間だった。
「……第三書庫の中に、位置の番号を持たない区画があります。本来は整理待ちの文書を一時保管するための区画ですが、この案件に限り、そちらに置く形はいかがでしょうか。記録院の台帳には存在しますが、参照するためには物理的に探す必要があります」
「それで十分です」と答えた。
アンセルムが頷いた。「では、内容をお伝えください」
春の天窓の光が、前回より広く書庫の床に落ちていた。季節が進んでいる。羊皮紙の表面が、その光の中で前回より白く見えた。アンセルムが書き取る間、要旨を口述した。書簡の内容。土地の移転。王宮の台帳の数字。虚偽の維持という要求。フォンテーヌ侯爵が態度を変えた経緯。マルグリットが証言者だという記述は、最後まで出さなかった。
アンセルムが書き終えた。紙を置き、インクが乾くまで少しの間待った。その間、アンセルムは何も言わなかった。私も言わなかった。乾いたことを確認してから、アンセルムが紙を折り始めた。
「……お任せします」と言った。
アンセルムが少し顔を上げた。「ありがとうございます」とだけ言った。声の出し方が、前回より一段、落ち着いていた。これまで、アンセルムは「失礼ですが」という前置きを必ず使っていた。今日は使わなかった。前置きがなくなった。それが二人の間で起きている変化だ、と記録した。
記録院を出てヴォワール家に戻った。
自室の机に向かって手紙を書いた。
「先日、記録院において興味深い文書を拝見しました。土地の移転に関する覚書の修正申請について、詳細をご確認いただければ幸いです。ヴォワール伯爵家一同より」
それだけだ。
長く書く必要はない。これは説明ではなく通告だ。「知っている者がいる」、それだけ伝われば足りる。
書きながら一度だけ止まった。「詳細をご確認いただければ幸いです」という一文が、何を意味するかをランベール家が読んだとき、どう動くかを想定した。記録院に確認に行く。記録院で探す。何かがあると知っている状態で探せば、見つける可能性はある。しかし「位置の番号を持たない区画」から探し出すことは容易ではない。さらに仮に見つかったとしても、名前がない。証人がいない。それ以上先には進めない。
進めないことが目的だ。
不正を罰することではない。不正を続けることを選べなくすることだ。選べなくなれば、ランベール家はフォンテーヌ家への要求を取り下げる。フォンテーヌ侯爵は娘を閉じ込めておく理由を失う。その順番で表層の問いが解決する。
封をして、ランベール子爵家宛てに送った。
送った後、少しの間机の前に座っていた。何かをした感覚と、何も変わっていない感覚が、同時にある。記録を預けた後と同じ静けさだった。
翌日ソフィーが来た。
手紙を送った翌日だった。ソフィーに呼びかけたのではない。ソフィーが自分でやって来た。玄関で顔を合わせて、お互いに少し驚いた。手紙を送ったことをソフィーはまだ知らない。ソフィーは昨日の続きで来た、と言った。「マルグリットのお見舞いを続けていいか」を確認しに来た。
「もちろんです」と答えた。
手紙を送った翌日にソフィーが来た。偶然だが、都合がいい。手紙の話とお見舞いの話を、別の日の出来事として扱える。
応接間に入りながらもう一度言った。
「ソフィー。マルグリットのお見舞いを、これから定期的に続けてもらえますか。あなたの母上を通じて。侯爵も、カルヴェ子爵家を無下にはできませ。」
ソフィーが少し首を傾けた。「それって——マルグリットの監視を続けるってこと?」
「いいえ。彼女に、外の世界への窓を一つ残しておくということです」
ソフィーが黙った。
「窓」という言葉を、ソフィーはしばらく口の中で繰り返しているような顔をしていた。「監視」と聞いた瞬間の顔と、「窓」と聞いた後の顔が、違っていた。
それから笑った。
何も言わなかった。笑顔で頷いた。
「ありがとう」とも言わなかった。「わかった」という意味の頷きだけがあった。
その頷きで一段落した。打つべき手は打った。あとは待つだけだ。
ソフィーが帰る前にお茶を一杯だけ飲んでいった。ソフィーがお茶を飲みながら、窓の外を少しの間見た。それだけだった。二人ともマルグリットの件についてその後一言も話さなかった。
数日待つことにした。
待つ間、特に何かをしたわけではない。夜会に一度行った。ソフィーが隣にいた。フォンテーヌ侯爵夫人がその夜会に出ていた。夫人に扇を向けなかった。向ける必要があるかどうかを考えた。今は情報を取る段階ではない。手は打った。結果が来るまでは介入しない。それがこの段階での正しい待ち方だと判断した。
フォンテーヌ侯爵夫人は、その夜、以前よりも笑顔に力が入っていた。扇を開かずにそれが見えてしまった。
動いている。
力の入りすぎた笑顔は何かを堪えているときに出る。堪えている何かが何かは今夜の問いではない。待っていれば結果が来る。
ソフィーがその夜、こちらをちらりと見た。何も言わなかった。その沈黙は、以前ならソフィーの側から情報を補って埋めていた種類の沈黙だった。今は埋めない。二人ともそれを知っている。
夜会の帰り道、春の夜の空気が冷たかった。昼の暖かさとは別の温度が夜に残っている。まだ五月にはなっていない。四月の夜の、昼の熱が引いた後の冷たさだ。ソフィーが外套を少し引き寄せた。引き寄せなかった。
数日待つことにした。
その数日が、どういう形で終わるかはまだわからなかった。




