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スミレ色の鑑定眼  作者: 猫じゃらし
第三章 白の肖像
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第31話 自由に、なってほしい

 机の上に、紙を一枚広げた。


 翌朝だった。昨夜は机の前に座ったまま、何も書かなかった。紙だけ出して、ペンを持たずに、窓の外が暗くなるのを見ていた。今朝は違う。書く。全体を一度紙の上に置けば、見えていなかったものが見えてくることがある。


 まず確認できている事実を並べた。


 マルグリットは書簡を見た。内容はランベール家からフォンテーヌ家への要求だった。王宮の台帳に記録されている土地の数字が実際より小さい。婚姻後もその虚偽の数字を維持することをランベール家は求めた。フォンテーヌ侯爵は当初怒った。しかし一日で態度を変えた。その後、ランベール家のジュール・ド・ランベールが屋敷を訪れた。翌日、マルグリットの部屋に外から鍵がかかった。婚約に関する覚書の修正申請が記録院に提出されたのは、その前後だ。


 事実を並べると、構造が見える。


 アンセルムが「日付の一致」を指摘したのは、この因果を見ていたからだ。こちらが気づく前にアンセルムが声に出した。あのとき「関係の変化」と記録した。今改めて確認する。正確な観察だった。



 問題は二層ある。


 表層:マルグリットが部屋に閉じ込められている。


 深層:ランベール家とフォンテーヌ家の間に、王宮への虚偽申告という不正がある。


 深層を暴けば表層は解決する。しかし深層を暴くことで、マルグリット自身が証人として表に引きずり出される。


 彼女はそれを望んでいない。「どうすればいいんでしょう」という問いは、「助けてほしい」という意味ではなく、「静かにいたい」という意味だったかもしれない。


 机の上にお茶があった。


 一口飲んだ。いつもより苦く感じた。温度の問題ではない。


 「深層を暴かずに表層だけを解決する」方法があるとすれば、どういう形か。マルグリットを証人にせず、しかしフォンテーヌ侯爵とランベール家の双方が動けなくなる状態を作る。可能かどうかは、可能の形を探してみないとわからない。


 可能だと思った。ただし手順が必要だ。


 まずその手順を組み立てる前に、確認しなければならないことがある。


 マルグリットが「静かにいたい」と言ったとして、それが彼女にとって本当に正しいのかは、決められない。昨夜からずっとその問いが残っている。「正しい解決」と「その人が望む形」は、一致するとは限らない。論理的な解決を組み立てることはできる。しかし「その人が望む形」を決めることは、別の問いだ。


 ペンを置いた。


 これは、ソフィーに聞いた方がいい。


 その判断が来たとき、自分でも少し意外だった。解決方針を固める前に人に聞いたことは、これまでなかった。問いは自分で整理して、答えを出してから動く。情報を集め、整理し、方針を立て、それから動く。


 人に聞くのは情報収集のためで、判断のためではなかった。今回は違う。答えを出す前にソフィーを呼ぶ。それが正しい、と思った。なぜ正しいのかは、今は理由を求めない。求めると、呼ぶ前に答えが出てしまう。



 ソフィーが来た。


 いつもより少し早い時間だった。使用人から声をかけてもらったらしいことが、ソフィーの顔を見ればわかった。急いで来たというより、心配して来た足取りだった。昨日の話の続きが、気になっていたのだろう。


 応接間に向かい合って座った。


 「ソフィー。あなたは、マルグリットがどうなればいいと思いますか?」


 ソフィーが少しの間、黙った。


 長い間ではない。答えを探している間ではなく、言葉を選んでいる間だった。自分の中にある答えを、適切な言葉に変換している。その違いは、顔の表情でわかる。ソフィーの顔は、考えているのではなく、確認している顔だった。


 「自由になってほしい。それだけよ。誰かと戦う必要はない。ただ、自分で歩けるようになってほしいの」


 その答えを、しばらく持ったままでいた。


 見つめた、というのは比喩だ。答えは空気の中に出てから消えた。しかしその質感が、部屋の中に少しの間、残っていた。


 「戦う必要はない」という言い方は、特定の誰かと戦うことを意味していない。フォンテーヌ侯爵でも、ランベールでもない。ただ、自分で歩ける状態に戻ることだけを言っている。その答えは、昨夜まで考えていた「正しい解決」とは形が違う。「正しい解決」は不正を記録に残し、関係者が動けない状態を作る。「自分で歩ける状態」は、それとは別の場所にある。


 ……なるほど。「正しい解決」と「その人にとっての解決」は、違う場合がある。四月の初めにも思ったことだが——ソフィーはそれを、私より速く理解している。これは、どういうことなのか。


 ソフィーが少し首を傾けた。「聞いてどうするの?」


 「方針を決めます」と答えた。「ありがとうございます」とも言った。


 ソフィーが眉を少し上げた。「ありがとう」と言われることに、まだ慣れていない人の顔だった。今は方針の話だ。



 方針が、決まった。


 深層の不正を正面から暴くことはしない。証拠の記録だけを記録院に残す。マルグリットの名前は出さない。しかし何かが記録院にあることだけは、相手に知らせる。それで十分だ。


 やり方は二つある。


 一つ目は、アンセルムに依頼してマルグリットの証言の要旨を参照記録として保管すること。名前なし、封印なし、ただし参照番号は出さない形で。記録院にあるという事実だけを作る。内容は封印しない。読もうとすれば読める。しかし探さない限り出てこない場所に置く。


 二つ目は、ランベール家への手紙だ。一通だけ。「記録院において興味深い文書を拝見した」という内容を、ヴォワール家の名前で送る。それだけでいい。何が記録されているかを明示しない。しかし誰かが何かを知っている、という事実だけを届ける。


 この二つが組み合わさると、フォンテーヌ侯爵もランベール家も、次の動きができなくなる。不正を続けることのリスクが、続けることの利益を上回る。それで十分だ。マルタン男爵の件と同じ型だ。ただし今回は「守る」ための断罪だという点が違う。


 「もう一つお願いがあります」とソフィーに言った。「マルグリット様のお見舞いを、これから定期的に続けてもらえますか。今日のように、お母様を通じて、という形で」


 「それが解決の一部なの?」とソフィーが聞いた。


 「準備の一部です」とだけ答えた。


 ソフィーが頷いた。今回は「わかった」と言う前に、少し考えた。考えたうえで頷いた、という順番だった。最初の頃の速さとは、一拍違う。その一拍の違いを記録した。


 もう一口、お茶を飲んだ。


 今度は普通の温度だった。


 「翌日、アンセルムのところへ行き、その日のうちに手紙も送った」と書いた紙を折りたたんで、机の引き出しに入れた。これは誰かに見せるための記録ではない。自分が今日決めたことの覚書だ。


 翌日、アンセルムのところへ行き、その日のうちに手紙も送った。

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