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スミレ色の鑑定眼  作者: 猫じゃらし
第二章 灰の証言
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第12話 四度目の来訪

 ソフィーが、また来た。


 先月から数えて、これで四度目だ。

 訪問の間隔は最初の十二日から七日に縮まっている。

 訪問時間は平均で一時間四十分。先月より二十分長い。


 これは統計的に見て、何を意味するのか?

 私には正確にはわからない。

 わからないという事実を、私は一応記録しておく。



 三月の午後の光は、窓の角度を変える。


 冬の間、光は低いところから這い込んでくるだけで、部屋の奥まで届かなかった。今は窓から差し込む白い四角が書机の中央にまで伸びていて、書類の細かい字を読むのに蝋燭を引き寄せる必要がなくなった。些細なことだが、些細なことに気づく習慣を手放す理由はない。


 窓の外では、石畳が水を含んで光っていた。


 一月には石畳そのものが見えなかった。雪が積もって、その上に薄い氷が張って、全体が白く均されていた。

 今は雪が解けた水が石目の凹みに溜まって、午後の光の中で細かく反射している。


 一月に雪の下にあったものが、全部出てきている。隠れていたものが出てくる。


 三月とはそういう季節だ。軒先の氷柱はまだあった。細くなって、先端から滴を落としていた。ほぼ三時間に一度の間隔で落ちている。今日の気温では、完全に溶けきるまでもう二、三日かかるだろう。


 扉のノックは、一月のときより短かった。


 ソフィーは外套を腕に引っかけたまま入ってきた。扉を閉めながら片腕を引き抜いて、そのまま椅子まで歩きながらもう片方も脱いだ。一月のときは扉の前でいったん止まって、外套を丁寧に脱いでから歩き始めていた。今日はその停止がなかった。居心地が変わったわけではなく、慣れた場所での動き方だ。動きから読み取れることがある。説明は不要だった。


「ねえミラヴェル、聞いてる?」


 外套を椅子の背に掛けながら、ソフィーが言った。まだ座っていなかった。


「聞いています」


「春になったらカルヴェ家の夜会があるんだけど、招待状がまだ来てなくて」


「カルヴェ子爵家の春の夜会は例年、開催三週間前に招待状を送ります。今週はまだ早いです」


「細かい」ソフィーが笑った。椅子に座りながら、笑い声が変わった。「ありがとう。それより別の話なんだけど」


 少し考える顔になった。


「マルタン男爵のこと、知ってる?」


「王宮会計の小役人です。知っています」


「亡くなったのは? 三週間くらい前なんだけど」


「知っていました」


「奥様が呪いだって言ってて」ソフィーが首を傾けた。「教会に申請しようとしてる神父様がいるらしいの。なんか変だなと思って。男爵は心臓が弱かったって聞いてたから。でもミラヴェルが好きそうな『おかしさ』だなって思って」


「神父はオベール神父ですか?」


「そう、その人。ミラヴェルは知ってるの?」


「地区を担当する神父が一人しかいない教区です。他に選択肢がありません」


 お茶が運ばれてきた。


 カップを持ち上げる。今日の温度は正しかった。


「呪いって認定されたら、奥様に補償が出るの?」


「魔法被害補償法の定めによって、基金から支払いが出ます。ただし条件があります。教会の証明書と、貴族二名の証言が必要です」


「じゃあ奥様は本当に呪いだと信じてるのかな? それとも補償のために言ってるのかな?」


「今の段階ではわかりません」


「調べるの?」


 少し間が空いた。ソフィーはその間、何も言わなかった。待っていた。


「状況によります」


 ソフィーはカップをソーサーに戻した。静かな置き方だった。何も追加しなかった。


 それからソフィーは、別の家の夜会の話をした。私には直接関係がない話だったが、聞いていた。話の途中でソフィーが窓の外に目を向けて、「あの氷柱、まだあるのね」と言った。私は答えなかった。ソフィーはそれで十分だったらしく、夜会の話の続きに戻った。


 一月のとき、ソフィーが情報を持ち込んだのは意図があってのことだった。計算とまでは言わないが、「ミラヴェルが役に立つかもしれない」という読みが、言葉の端にあった。


 今日はその色がない。ただ気になったから話している。その差は、言葉の重みの違いではなく、重みのなさに出ていた。これが何を示すのかについても、まだ正確にはわからない。


 一時間四十九分ほどで帰っていった。



 ソフィーが出ていった後、窓の外を見た。


 石畳の水光りが翳っていた。夕方が近い。


 今回の型は、一月とは違う。


 一月の事件は宝石の問題だった。


 偽物か本物か。偽物だと証明されても、本物の宝石がどこかにある以上、真実の回復は可能だった。


 宝石は動かせる。入れ替えられる。


 しかし今回は人が死んでいる。三週間前に死んでいる。呪いを否定することはできる。論理と物証があれば。だが否定した先に何が残るか、という問いが後にくる。


 では何が、では誰が、では何のために。宝石と違って、死んだ人間は戻らない。取り消せない事実がある事件は、解決の形が変わる。


 重さの種類が違う。


 もう一つ、引っかかっていることがある。ソフィーは「呪いだと言っている」という情報を届けた。しかし男爵は王宮会計の帳簿に関わっていた人間だ。父は王宮会計の監督官をしている。今夜の夕食の席で父が何か話すかどうかはわからないが、話す可能性はある。その情報が来てから次の手を決めても遅くはない。


 待つことにする。今できる正確な手はそれだ。


 軒先の氷柱が、まだ溶けていない。


 今夜の夕食を待つことにする。

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