第11話 鑑定眼の限界
今日の選択が正しかったかどうかを確認する方法を持っていない。
これは珍しいことではない。推理には確認できる手順があるが、選択にはない。選択の結果が正しかったかどうかは結果が出てからしかわからない。
そして今日の選択の結果はずっと先まで出ないかもしれない。
エドガーがシモンにどう話すか?
シモンがそれをどう受け取るか?
その先でグロワール家がどうなるか?
全部、今日のミラヴェルには見えない。
見えないことは珍しくない。
しかし今日に限ってそのことが少しだけ気になった。
応接間の暖炉が静かに燃えていた。
エドガーが出ていってから、使用人を呼んで扉を閉めてもらった。一人で座っていた。お茶は冷めている。窓の外の光が少し傾いている。どのくらい座っていたかは計っていなかった。
卓の上に布が残っている。宝石はエドガーが持ち帰った。誰かが片付けることを忘れたというわけではない。この部屋に今、私しかいないからだ。
正しい結論が常に正しい結果をもたらすとは限らない。
これは感情的な判断だろうか?
そうかもしれない。あるいは、単に正確な観察かもしれない。どちらかを決める根拠を今の段階では持っていない。
扇を持ったまま立ち上がった。
窓の外に雪が降っていた。昼過ぎから降り始めていたのに、座っている間は気づかなかった。中層の石畳が白くなっている。運河の岸との境がまた消えかけている。一月の雪は静かだ。降っているという事実より先に、積もっているという結果が来る。
扇を開いた。
自分の手に向けて。
何も見えない。
当然だ。鑑定眼は自分自身には使えない。わかっていた。わかっていた上で試した。人間を見るときに感じる「集中する感覚」は確かにある。扇が開いた。視線が手に向いた。しかし何も変わらなかった。色彩の欠けも輪郭の乱れも薄い層も何もない。
自分の綻びは自分には見えない。
試した理由を言葉にしようとして止まった。
……不便なものだ。
扇を閉じた。
わからないという事実を、記録する。
手帳を開いた。新しいページではなく、余白に書いた。今日の選択が正しかったかどうか。なぜ扇を自分に向けたのか。答えは書かない。それだけを余白の隅に小さく書いた。
余白に書くというのは本文ではないということだ。分類できないということだ。
書いてから手帳を閉じた。
翌日ソフィーが来た。
時刻は昼前だった。使用人に知らせてもらって応接間で向かい合った。ソフィーは外套をまだ脱いでいなかった。それだけ急いで来たということだ。
「どうだったの?」
一言だった。余計なものが何もない問いかけだ。
「どちらでもないと答えたら、理解してもらえますか?」
ソフィーが少しの間こちらを見た。
「——わかった。それで十分よ」
外套を脱いで椅子に座った。使用人がお茶を持ってきた。ソフィーが両手でカップを包んだ。温度を確かめているような持ち方だ。それから窓の外を見た。昨夜の雪が屋根に積もったまま残っている。
しばらく二人とも何も言わなかった。
それを沈黙とは感じなかった。話すことがないという意味ではなく、今は話さなくていいという判断が二人の間で自然に一致しているという状態に近かった。
そういう状態があり得るとは昨年までは考えたことがなかった。考えるまでもなく、そういう状態を経験したことがなかったからだ。
ソフィーがお茶を一口飲んだ。
「おいしい」と言った。
「そうですか」
「ミラヴェルのお茶って、毎回同じ温度よね」
「そうかもしれません」
手の中のカップに少しだけ意識が向いた。同じ温度。毎回。それがいつから続いているのか、自分では確認したことがない。
気づいたのはいつだったか? 気づいたという記録が手帳のどこかにあったような気がする。あるいは記録しなかったかもしれない。
「不思議」とソフィーが言った。不思議という言葉に特別な意味はなさそうだった。ただそう思ったから言ったという声の出し方だ。それ以上は言わなかった。
窓の外の雪が少し強くなった。
帰り際、ソフィーが外套を着ながら言った。
「またね。今度ちょっと時間取って話しましょ、いろいろ」
「いろいろ、とは」
「いろいろよ」ソフィーが笑った。笑いながらふと真顔になった。「ミラヴェルって、絶対断らないもんね、こういうの」
こういうのがどういうものを指しているかは聞かなかった。
聞かなくてもわかった。
「またいらしてください」
「うん。すぐ来る」
ソフィーが廊下に出た。足音が遠ざかっていく。玄関の扉が開いて、外の冷気が一瞬流れ込んで、扉が閉まった。
夜になると雪が降り始めた。
一月の雪は音がない。
窓の外を見ると、灯りの届かない部分が完全に黒く、灯りの届く部分だけ雪の白さが見える。降っているのか積もっているのか、この距離からは判断できない。ただ白くなっていく速度だけが静かに続いている。
扇を持ったまま窓の方を向いた。
扇を持つ手を少しだけ緩めた。
保管庫の棚の記録書のことをもう一度だけ思った。父の字ではない筆跡が年代と分類を丁寧に書き分けていた。誰の字だったのか? 今夜はその問いを手帳に書かなかった。
明日も、冬の朝が来る。




