第10話 青の値打ち
告げる言葉は昨夜のうちに決めていた。
迷っていない。迷う余地がそもそもなかった。宝石が何であるかは確認した。誰が何をしたかも把握した。残っているのはその事実をどういう形で手渡すかということだけだ。
応接間に入る前に扇を確認した。
今日は使わない。確認は済んでいる。
エドガー・ド・グロワールは時刻通りに来た。
玄関から廊下を歩く足音が近づいてくる。白廊の夜会で見たときより歩調が速い。扉が開いてエドガーが入ってきた。礼装ではなく外出着だ。折り目は丁寧に整えられている。礼をした。その角度が夜会のときよりわずかに深かった。
「本日はお越しいただきありがとうございます」
「いいえ。ご連絡をいただいて、むしろ」
エドガーが言いかけて止まった。「宝石はいかがでしたか?」と言い直した。声が固い。
「おかけください」
席についた。使用人がお茶を運んできた。暖炉に火が入っていた。今日の室温は適切だ。
エドガーは椅子の背に体重を預けていない。上半身がわずかに前に出ている。待っているという姿勢だ。目の動きが少ない。決まった一点を見ているわけではないが、視線が余計なものを拾わないようにしている。
覚悟を決めた人間の顔だと思った。
どんな答えが来ても受け取ると決めた人間の。
お茶を一口含んだ。
置いた。
「鑑定の結果をお伝えします。この宝石は——本物です」
エドガーの目が開いた。
「ただし、価値という点では。誰かが命をかけてこれを手に入れたという事実が、この石に刻まれています。それはいかなる本物の宝石にも、代えがたい価値でしょう」
室内が静かになった。
暖炉の薪が小さく爆ぜた。
エドガーはしばらく何も言わなかった。視線が卓の上の宝石に落ちた。宝石はそこにある。布の上に台座ごと置かれている。昨日からずっとそこにあった。エドガーの目がその石の上で止まった。
右手が肘掛けの上でゆっくりと握られた。
それから少しずつ開かれた。
「……そうですか」
その一言にいくつかのものが混ざっていた。安堵ではない。悲しみでもない。何かを飲み込んだ後の静けさに近い。
エドガーが顔を上げた。目の色が白廊の夜会で見たときと変わっていない。変わっていないが、何かが違う。輪郭が少しだけ定まった気がした。
「ありがとうございます」とエドガーが言った。「正直に、見てくださって」
「いいえ」
お茶をもう一口含んだ。
苦かった。
いつもの温度のはずだが、苦かった。卓に置いてそのまま手を離した。
しばらく他愛のない話をした。
冬の話、白廊の話、今月の夜会の話。エドガーは受け答えが丁寧で、話題を無理に引き延ばさない。ちょうどいい長さで話が区切れる。この人間は社交の作法を知っているというより相手の呼吸を読む。それが身についている。
立ち上がるタイミングが来たとき、エドガーはためらわずに立った。
宝石を布に包んで木箱に戻した。両手で丁寧に持った。
「弟には」と言いかけて、エドガーが止まった。
何を言おうとしたかわかった。
しかしその続きは私が答えることではない。
「弟には、どう伝えればよいでしょうか?」と言い直した。声が少しだけ下がった。
「それは、グロワール様がお決めになることです」
エドガーが頷いた。
扉まで見送った。
エドガーが扉の把手に手をかけて振り返った。
「父を——」
「——いいえ」
短い間があった。エドガーが目を伏せた。それから上げた。
「わかりました」
扉が開いた。廊下に出た。足音が遠ざかっていく。玄関の扉が閉まる音がして静かになった。
応接間に一人になった。
暖炉の火が音もなく燃えている。薪の量は変わっていない。ただ少しずつ形が変わっていく。
卓の上のお茶が冷めていた。
手を伸ばしてカップに触れた。温度を確かめた。それから触れたまま少しの間そこにいた。
飲まなかった。
窓の外で風が鳴った。一月の風だ。白廊での夜会の帰り道で聞いたのと同じ音がする。
扇を持ったまま窓の方を向いた。




