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悪役令嬢ですが、気づけばヒロインのお助けキャラに迫られていました  作者: Na20


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「料理長はいる?」



 やってきたのは厨房。今はちょうど昼食の準備をしているところのようで、みな忙しそうにしている。



「お、お嬢様⋯⋯?」



 私に呼ばれ料理長がやってきたが、激しく戸惑っている様子。

 しかしそれは当然の反応だ。貴族が厨房に顔を出すなど、普通ではありえない状況なのだから。



(でもそんなこと気にしている場合じゃないの)



 おいしいご飯のためなら何だってする覚悟なのだ。



「忙しいところごめんなさいね」


「い、いえ。それは構わないのですが、ここにはどのようなご用件で⋯⋯」


「あのね、少し厨房を使いたいのだけど」


「えっ!?」


「決して邪魔はしないわ。だめかしら?」


「えっと⋯⋯」



 仕える家のお嬢様からだめかと問われれば、だめだなんて言えるわけもない。

 うろたえる料理長には少しばかり申し訳なさを感じたが、これから毎日厨房に入るつもりでいる。

 だからさっさと慣れてもらえるとありがたい。


 一通り厨房を確認したが、食材や調理器具はほとんど私の知るものと一緒だ。

 これなら問題なく料理を作ることができるだろう。



「そうねぇ⋯⋯」



 最初は何を作ろうか。

 一気にすべてを変えるのはよくない。いや、本当は今すぐ変えたいけれど。

 でも父を説得するには少しずつ、だけど確実に進めていくべきだ。



「よし。最初はこれにしましょう」



 砂糖と酢と塩。それにオリーブオイルとアクセントにこしょうを。

 それらをすべてボウルに入れて⋯⋯



「お、お嬢様! 一体何を!?」


「え? 何って、ドレッシングを作っているのだけど」


「ド、ドレッ⋯⋯?」



 料理長の反応から、やはりこの世界にはまだドレッシングは存在していないようだ。

 塩や砂糖、こしょうなんかも揃っているというのに、なんとも不思議な世界である。

 まぁだからこそ、ヒロインの活躍が輝くのか。



「よく混ぜて〜っと。⋯⋯できた!」



 できたてほやほやのドレッシング。まるでキラキラ輝く宝石のよう。

 私はそのドレッシングをスプーンで掬い⋯⋯



「ん! おいしい!」



 これだ。私が求めていた味は。

 懐かしい味に涙が出そうである。

 ぜひともこのおいしさを誰かと分かち合いたい。



「ほら、料理長も食べてみて」


「えっ」


「毒なんて入っていないから心配いらないわよ」


「い、いえ。そのような心配は⋯⋯」


「そう? じゃあ、はいどうぞ」



 有無を言わさず、料理長にスプーンを持たせた。



「えっと⋯⋯」


「さぁ!」



 料理長を見つめる。彼はこれを口にしたら一体どんな反応をするのだろう。

 少しドキドキしながらその時を待つ。



「っ! こ、これは⋯⋯!」



 目をこれでもかと開き、動かなくなってしまった料理長。

 今まで口にしたことのない味に衝撃を受けているようだ。



「料理長」


「⋯⋯へ? あっ、はい!」


「これを昼食に出す予定のサラダにかけてもらえるかしら」


「えっ。サラダに、ですか?」


「ええ。かける量はこれくらいでね」



 量はきちんと指示しないとね。

 多すぎても少なすぎてもダメだもの。



「わ、分かりました」


「それとこれが一番重要なのだけど、これを私とお父様のサラダにだけかけてちょうだい」


「お二人にだけでよろしいのですか?」


「ええ、そうよ。お母様とお兄様にはまだ秘密にしてね」


「分かりました」



 今は父の説得が最重要事項。

 そこに母や兄まで入ってきては、対応が面倒なのである。

 あ、私の分はただ自分が食べたいからなんだけどね。



「もしお父様から何か聞かれたら、私に口止めされているとだけ言えばいいから。それじゃあよろしくね」



 ふっふっふ。さぁお父様見てなさい。

 必ず食堂を買うって頷かせてやるんだから!


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