7
「料理長はいる?」
やってきたのは厨房。今はちょうど昼食の準備をしているところのようで、みな忙しそうにしている。
「お、お嬢様⋯⋯?」
私に呼ばれ料理長がやってきたが、激しく戸惑っている様子。
しかしそれは当然の反応だ。貴族が厨房に顔を出すなど、普通ではありえない状況なのだから。
(でもそんなこと気にしている場合じゃないの)
おいしいご飯のためなら何だってする覚悟なのだ。
「忙しいところごめんなさいね」
「い、いえ。それは構わないのですが、ここにはどのようなご用件で⋯⋯」
「あのね、少し厨房を使いたいのだけど」
「えっ!?」
「決して邪魔はしないわ。だめかしら?」
「えっと⋯⋯」
仕える家のお嬢様からだめかと問われれば、だめだなんて言えるわけもない。
うろたえる料理長には少しばかり申し訳なさを感じたが、これから毎日厨房に入るつもりでいる。
だからさっさと慣れてもらえるとありがたい。
一通り厨房を確認したが、食材や調理器具はほとんど私の知るものと一緒だ。
これなら問題なく料理を作ることができるだろう。
「そうねぇ⋯⋯」
最初は何を作ろうか。
一気にすべてを変えるのはよくない。いや、本当は今すぐ変えたいけれど。
でも父を説得するには少しずつ、だけど確実に進めていくべきだ。
「よし。最初はこれにしましょう」
砂糖と酢と塩。それにオリーブオイルとアクセントにこしょうを。
それらをすべてボウルに入れて⋯⋯
「お、お嬢様! 一体何を!?」
「え? 何って、ドレッシングを作っているのだけど」
「ド、ドレッ⋯⋯?」
料理長の反応から、やはりこの世界にはまだドレッシングは存在していないようだ。
塩や砂糖、こしょうなんかも揃っているというのに、なんとも不思議な世界である。
まぁだからこそ、ヒロインの活躍が輝くのか。
「よく混ぜて〜っと。⋯⋯できた!」
できたてほやほやのドレッシング。まるでキラキラ輝く宝石のよう。
私はそのドレッシングをスプーンで掬い⋯⋯
「ん! おいしい!」
これだ。私が求めていた味は。
懐かしい味に涙が出そうである。
ぜひともこのおいしさを誰かと分かち合いたい。
「ほら、料理長も食べてみて」
「えっ」
「毒なんて入っていないから心配いらないわよ」
「い、いえ。そのような心配は⋯⋯」
「そう? じゃあ、はいどうぞ」
有無を言わさず、料理長にスプーンを持たせた。
「えっと⋯⋯」
「さぁ!」
料理長を見つめる。彼はこれを口にしたら一体どんな反応をするのだろう。
少しドキドキしながらその時を待つ。
「っ! こ、これは⋯⋯!」
目をこれでもかと開き、動かなくなってしまった料理長。
今まで口にしたことのない味に衝撃を受けているようだ。
「料理長」
「⋯⋯へ? あっ、はい!」
「これを昼食に出す予定のサラダにかけてもらえるかしら」
「えっ。サラダに、ですか?」
「ええ。かける量はこれくらいでね」
量はきちんと指示しないとね。
多すぎても少なすぎてもダメだもの。
「わ、分かりました」
「それとこれが一番重要なのだけど、これを私とお父様のサラダにだけかけてちょうだい」
「お二人にだけでよろしいのですか?」
「ええ、そうよ。お母様とお兄様にはまだ秘密にしてね」
「分かりました」
今は父の説得が最重要事項。
そこに母や兄まで入ってきては、対応が面倒なのである。
あ、私の分はただ自分が食べたいからなんだけどね。
「もしお父様から何か聞かれたら、私に口止めされているとだけ言えばいいから。それじゃあよろしくね」
ふっふっふ。さぁお父様見てなさい。
必ず食堂を買うって頷かせてやるんだから!




