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それから一年が経った。
今日は学園の入学式。
入学式が行われる会場には、錚々たる顔触れが並んでいた。
大商会の息子に教皇子息に宰相子息。騎士団長子息に隣国の王子、それにこの国の王太子⋯⋯。
実は『恋レシ』の登場人物は、ヒロイン以外皆年上なのである。
そう、ヒロイン以外は、だ。
だから本来であればこの新たな門出の場に、悪役令嬢であるアンゼリカ・ローズウッドも出席しているはずなのだが――
「――さぁ、みなさん。今日も丁寧に愛情を込めて、おいしいご飯を作りましょう」
「「「はい」」」
今私がいるのは、きらびやかな入学式の会場ではない。
たくさんの食材や調理器具に囲まれたここは学園の食堂⋯⋯の厨房である。
「今日から新入生もここ【学食】を利用します。みんなの胃袋をがっちり掴んじゃいましょうね!」
ではなぜ悪役令嬢である私がここいるのか。
それはあの日、父に願ったことが関係していた。
◆
一年前のあの日、私は父親に願ったのだ。
学園の食堂を、公爵家で買い取ってほしいと。
「⋯⋯は?」
私の願いを聞いた父は固まってしまう。
けれど私はそんなことなど気にせず話を続けた。
「もちろん学園が王家の管轄なのは分かっています。でも、お父様ならそれくらいできますよね?」
学園は王家の管轄だ。
だからいくら公爵家であろうと、普通は手出しなんてできない。
でもランチ問題を解決するには、どうしても食堂を手に入れなければならない⋯⋯そこで思いついたのだ。
本来であれば一年後、私と王太子の婚約が成立する。
だが先ほどの父の反応からも分かるように、王家は私を婚約者にはしたくないらしい。
(もしかしたら王家じゃなくて、王太子が嫌がっているのかもしれないけど)
まぁそこはどっちでもいい。
重要なのは、一年後に父は婚約を成立させてしまうということ。
一体何をどうしたら、娘のために嫌がっている相手から婚約をもぎ取ってこれるのかは分からない。
けれどそれなら娘のために、学食だって買い取れるのではないか。
「⋯⋯何を言っているのか分からないが、なぜ学園の食堂を欲しがるんだ?」
「それはもちろん、おいしいご飯を食べるためです」
「⋯⋯そこに我が家の料理人より、腕のいい料理人でもいるのか?」
「え? 違いますよ」
「じゃあなぜ」
「だから、おいしいご飯を食べるためです!」
なぜどうしてと聞かれても、おいしいご飯のため。それ以上でも以下でもない。
しかしそれだけでは父は納得してくれなかったようで、大きく息を吐いたあと、私にこう言った。
「はぁー。⋯⋯いいか、アンゼリカ。いくら可愛いお前の願いでも、王家管轄の学園に一貴族である私が干渉できるわけがないだろう。今の話は聞かなかったことにする。あとこの話は誰にも言うんじゃないぞ」
「⋯⋯分かりました」
言葉でお願いするのは難しいと判断した私は、ひとまずひくことにした。
ここで意地になってもいいことはない。言葉が無理なら、別の方法で説得すればいいだけのこと。
これくらいで諦めると思ったら大間違いなんだからね!
それから私は、すぐに次の行動に出た。




