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(これが一生続くの?)
食事を終え、自室に戻った私は遠い目をした。恐ろしい現実に、ブルリと身体が震える。
いや、悪役令嬢に転生した以上に無理なんですが。
普通の食事はおいしいはずという一縷の望みも打ち砕かれた今、私は絶望していた。
どうしてこの世界のご飯は、こんなにまずいのかと。
(なんでみんな、平然と食べているの?)
この世界の人は、私と味覚が違うとでも言うのか。
いやここは『恋レシ』の世界。そんなわけはないはず。
でも前世兼業主婦だった私が作った方が間違いなくおいしい――
「――あ」
私はそこでようやく気がついたのだ。
『恋レシ』は、料理雑学系乙女ゲームだったと。
『恋レシ』の世界には魔法もなければ、バトルもない。魔物だって存在しないし、聖女や勇者だっていない。
ヒロインが攻略対象とともに、食事事情に革命を起こしていくだけの、ほのぼの系乙女ゲーム。
『恋愛×料理』という斬新な設定のゲームだった。
ただそんなゆる設定でも人気だったのは、癒されたいと願う現代人が溢れていたせいだろうと、私は推測している。
(まぁ、私もその一人だったしね⋯⋯)
仕事と家庭の両立に追われ、つかの間の癒しを求め始めた『恋レシ』。
激しく燃えるような恋ではなく、穏やかで優しい恋に心が癒された。
それに恋愛的な盛り上がりは少なかったけれど、ゲームに出てくる雑学は非常に役に立つものばかりで。
『恋レシ』のおかけで知識の増えた私は、料理の腕も多少上がったような気がしたものである。
しかしそれは前世での話だ。
今の私は穏やかで優しい恋も、役立つ知識も求めていない。
私が求めているのは、笑顔で食べることのできるおいしいご飯だ。
「⋯⋯これからどうしよう」
そんな言葉が思わず口をついて出た。
『恋レシ』はヒロインが学園に入学するところから始まり、そこからの一年間がゲームのストーリーである。
そしてヒロインの一つ年上である私が、学園に入学するのが今から一年後のこと。
ということはだ。
ストーリーが終わり、この国の食事が劇的においしくなるのは早くて三年後。
しかしストーリー通りにいけば、悪役令嬢であるアンゼリカは断罪され国外追放されてしまう。
ただ国外追放という比較的軽い処罰で済むのは、ここがほのぼの雑学系乙女ゲームの世界だから。
処刑や奴隷落ちのような恐ろしい罰ではないのは救いではあるが、もしも本当に断罪され国外追放になってしまった場合、おいしいご飯にありつけるのが何年後になるか分からない。
最短である三年よりも長くなるのは確実だ。
「推しに会えるとか、断罪を回避するとか、のんきなことを考えている場合じゃないわ」
今の私に、その三年を待つ余裕はない。
もちろん推しには会ってみたいし、二年後、断罪されないように行動したいとは思う。
しかしだ。今の私にとって一番重要なのは、そんなことではない。
一番重要なのは、日々の食事をいかにおいしくするか、だ。
だってそうだろう。いくら悪役と言えどせっかく公爵令嬢になったのに、この仕打ち。
まだ転生してからケーキなどの甘味は食べたことはないが、おそらく、いや絶対にまずいだろう。
ケーキまでまずかったら、絶望すぎてそれこそ死ぬ。
そんな状況で、私はこれからどうしたらいいのか。
何もせず、あのまずい料理たちを食べ続けるのは無理。
私にだっておいしいご飯を食べる権利はある。
「おいしくなかったけど、食材や料理は全部知っているものだったわね」
私にはおいしいご飯があふれていた世界の記憶があるし、自分自身毎日料理をしていた。
それにこれまで出てきた料理は、すべて前世で食べたことのあるものばかり。
それならこのおいしくない世界に必要なのは、おいしい調理法の確立と、味の決め手である調味料の作成あたりか。
「うん。それくらいなら⋯⋯」
それくらいなら、私の持つ知識でどうにかなるのではないだろうか。




