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そのあと家族や屋敷の者から心配されたが、切っただけの果物と水だけでなんとか回復した。
けれどその間も、あの激まず料理が片時も頭から離れることはなかったが。
(これからも、あんなまずい料理を食べなくちゃいけないの?)
身体のことを考えたら、このままずっと果物と水だけというわけにはいかない。
それでももうあんな恐ろしいモノは食べたくない。どうすれば⋯⋯。
私は朝起きてから夜寝るまで――時には夢にも出てきて参った――考えに考えた。
その努力のかいもあって、前世の記憶を思い出して一週間後。なんとか一つの希望(という名の願望)を見出した。
(そうだよ。病人食がおいしいわけないよね!)
前世では『良薬口に苦し』なんて言葉があったくらいだ。
いかに体調や体力の回復に繋げるか。要するに病人食は治療の一環でもある。
だから味は二の次⋯⋯うん。そうだ。そうに決まっている。
きっと普通の食事はおいしいはずだ。
「お嬢様。公爵様より、本日からお食事は食堂でとのことです」
「分かったわ」
そんな希望を胸に抱き、私は転生して二週間後、初めて屋敷の食堂へと向かった。
「お父様、お母様。おはようございます」
食堂に着くと、そこにはすでに家族の姿があった。
「おはよう、アンゼリカ」
「おはよう。よく眠れたかしら?」
「はい」
さすが乙女ゲームの世界。
ゲームでは家族の姿は描かれてはいなかったが、父も母も眩しいくらいの美形だ。
この美形たちの遺伝子を継いでいるのだから、アンゼリカが美人なのは当然なのだと納得できる。
ただこのつり目だけは、悪役令嬢のデフォルトのようで気にはなるが。
「まさかお前が熱を出すなんてな」
「⋯⋯お兄様は私を一体なんだと思っているのですか?」
「だってよく言うだろう? 馬鹿は風邪を引かないって」
「お兄様!」
二つ年上の兄は時折こうして私を馬鹿にしてくるのだが、それが本気ではなく愛故なのは以前のアンゼリカの記憶から理解している。
しかし実際に目の前で馬鹿にされると、言い返さずにはいられない。
「ほら、二人とも。そこまでにしなさい」
「さぁ、アンゼリカ。席に座って」
「⋯⋯はい」
兄を恨みがましく睨みつつ、私は席に着いた。
この一連の流れで分かってもらえたかとは思うが、家族の仲は良好だ。それにおそらくではあるが、使用人からも嫌われていない。
そのことを知った時、悪役令嬢によくある家族にも使用人にも嫌われている設定じゃなくてよかったと、ホっとしたものである。
「さぁ、揃ったね。それではいただこう」
父の言葉を合図に朝食が始まる。
いよいよかと、私は祈るようにその時を待った。
――コトッ
給仕のメイドによって置かれた皿に視線を向ける。
最初に出てきたのはサラダのようだ。
緑の中に赤や黄色もあり、彩りはきれいである。
私はそっと息を吐いた。
(サラダがまずいなんて聞いたことないもんね)
こんなにきれいなのだ。だから大丈夫。
そう信じ、フォークでサラダを一口口へと運び――
(――って、まずいわ!)
この瞬間、希望(という名の願望)は打ち砕かれてしまった。
信じられないことにこのサラダ。それはそれはまずい。口の中が緑の味でいっぱいだ。
まさかドレッシングがかかっていないなんて。
まぁたしかにそれっぽいものは何もかかってないな〜とは思いはしたんだけどね。
どうしても希望に縋りつきたかったんです!
ただ不思議なことに緑の味の中に、多少の塩味と甘味を感じることから、おそらく塩と砂糖がかかっているのではないかと推測される。
いや、サラダに砂糖直がけなんてありえなくない?
そうツッコみたいところではあるが、私以外は何事もなく、それが普通だと言わんばかりにサラダを食べていたので、何も言うことはできなかった。
次に出てきたのはスープだ。玉ねぎとベーコンが入っている。
見た目は、前世でもよく見たことのあるコンソメスープ。けれど、コンソメ特有の旨味が凝縮されたような香りはしない。
この時点で、私の手は震えていた。これも食べるのは危険だと。
けれどこの場に座ってしまった以上、一口も口にしないのはマナー違反になる。
だからなんとか一口飲み込んだのだが、
(え。味がしないんですけど⋯⋯)
たとえこのスープの正体がコンソメではなくとも、具材に玉ねぎとベーコンが入っているのだ。
だから何かしらの味があってもいいはずなのに、不思議なことに何の味もしない。
ではこの具材たちは一体なんなのか。私は恐る恐る具材を口に入れてみた。
すると、玉ねぎはブニャブニャ、ベーコンに至ってはまるでゴムを食べているかのよう。
どうやって調理をすれば、このような状態になるのだろうか。
そのあとも食事は続いたが、白いパンもオムレツも、お世辞にもおいしいとは言い難いもので。はっきり言って、まずかった。
おいしいとは思えたのは紅茶と果物くらいである。




