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悪役令嬢ですが、気づけばヒロインのお助けキャラに迫られていました  作者: Na20


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2/16

2

 

「はぁ⋯⋯」



 自室のソファにもたれかかり、私は思わずため息をついた。


 結果から言おう。

 どうやら私は、乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。いわゆる異世界転生ってやつだ。

 高熱を出して倒れ、そのまま三日も眠り続けていたそう。

 おそらく前世の記憶を思い出したのは、この高熱が原因だ。異世界転生物ではよくあるシチュエーションである。

 だからあの時、三日ぶりに目を覚ました私を見てメイドは泣いていたのかと納得したものである。

 まぁそのあと記憶を思い出した反動で、さらに二日ほど寝込んだんだけど。



『君と織りなす恋のレシピ』。略して『恋レシ』。



 前世の私がプレイしていた、世間でも割と人気のあった乙女ゲーム。

 最初、ここが『恋レシ』の世界だと知った私は歓喜した。

 もしやこの目で、推しにお目にかかれるのではないかと。

 推しとの出会いを想像して、私は浮かれていた。

 しかしその喜びは、ほんの一瞬のこと。

 そのあとすぐ自分が誰に転生してしまったのかを知ったことで、喜びから一転、泣きたくなるくらいどん底に突き落とされた。


 アンゼリカ・ローズウッド。

 ローズウッド公爵家の娘で、王太子殿下の婚約者。

 燃えるような赤い髪と、きつい印象を与えるつり上がった藍色の目。

 鏡を見た瞬間、あまりにも()()()()()()姿()に衝撃を受けた。

 ⋯⋯これだけで大体察してもらえただろう。

 そう。私は、ヒロインをいじめ断罪される悪役令嬢に転生してしまっていたのだ。


 小説やゲームでは、そういった設定をよく見てきた。

 それにもしも自分が〜なんて想像したことだってある。

 でも実際に自分の身に降りかかると、いくら好きなゲームのキャラクターとは言え、とてもじゃないが喜べるわけがない。



「はぁぁ⋯⋯」



 さらに深いため息がこぼれる。もちろんこのため息にも理由がある。

 なぜなら悪役令嬢に転生しただけでも受け入れがたいというのに、さらにもう一つ、受け入れがたい現実が私を待ち構えていたのだ。

 私はその現実に気がついた時のことを思い出した。




 ◆




「お嬢様。こちらをどうぞ」



 そう言ってメイド――コスプレじゃなくて本物のメイドさんだった――に手渡された器。

 その器には、白くてビチャビチャしている半分液体のような物体が入っていた。



「⋯⋯これは?」


「これはパン粥です」


「え⋯⋯。これが、パン粥⋯⋯?」



 私はこの目の前の白い物体の正体に、衝撃を受けた。



「はい。お医者様が消化にいいものをとおっしゃっていたので、料理長がお嬢様のためにと腕を振るってお作りになりました」


「⋯⋯」



 メイドは『料理長が〜』なんて言っているけど、見たら分かる。これ、絶対にまずいヤツだ。

 食べてはダメだと、本能が告げている。

 これは私が知っているパン粥とは、絶対的に何かが違う。

 たかがパン粥。されどパン粥。

 シンプルだからこそ、差が出るもの。



「白いパンをこんなふんだんに使えるなんて⋯⋯。さすがローズウッド公爵家です!」


「⋯⋯そこ?」



 私はメイドの言葉に戸惑った。

 たしかにこの世界で柔らかい白いパンは、王侯貴族か裕福な平民くらいしか食べられない高級品だ。

 それに引き換え、平民が食べるのはもっぱら固い黒パン。

 だから言いたいことは分かる。

 分かるのだが、これを見ても注目するポイントはそこなのかと思わずにはいられなかった。



「さぁお嬢様! しっかり食べて、早く元気になってください。屋敷の皆さん、本当に心配しているのですよ?」


「⋯⋯分かったわ」



 できることなら食べたくない。けれど心配している、そう言われてしまえば食べないわけにもいかない。



 ――ゴクリ



 私は意を決して白い物体をスプーンで掬い、口へと運んだ。



「うっ⋯⋯」


(ま、まずい!)



 きっとこの時の私の顔は、あの子どもに人気なパンの絵本に出てくる泥棒のような顔になっていただろう。

 あまりのまずさに涙が出そうだ。そして身体が、この物体を嚥下するのを拒絶している。

 今すぐ吐き出したい。けれど一度口に入れたものを出すなんて貴族令嬢として、いや人としてやりたくない。

 だから私は目に涙を滲ませながらも、なんとかそれを飲み込んだ。



「もういいわ⋯⋯」


「えっ! ですが一口しか⋯⋯」



 私だって前世の記憶があるから、こういう時は食べた方がいいのは分かっている。

 けれど、それでも無理なのだ。

 おそらく、いや絶対。これを全部食べたら私の病状は悪化する。瀕死確実だと断言してもいい。

 それほどまでにこの白い物体は、味も食感もにおいも最悪なのだ。

 これを作ったのが公爵家の料理長ほどの人間だなんて、とてもじゃないが信じられなかった。


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