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「ん⋯⋯ここは⋯⋯」
視界に広がる光景に、なんだか違和感を覚えた。
この違和感をなんて表現すればいいのだろうか。
目の前の光景には見覚えがあるような、ないような――
「お嬢様!」
「⋯⋯へ?」
声の聞こえた方に視線を向ける。するとそこには、メイドのコスプレをしている女性が涙ながらにこちらを見ていた。
(え。何、この状況)
メイド喫茶なんて人生で一度も行ったことはないのにと、私は必死にこの状況を把握しようとした。しかし、
「うっ⋯⋯」
把握したくても頭がガンガンと痛く、とてもじゃないが何も考えられそうにない。
「お、お嬢様! すぐにお医者様を呼んできます!」
「ちょ、ちょっと⋯⋯」
私はお嬢様なんかじゃない。
そう言おうとしたのに、メイドのコスプレをした女性は、さっさとどこかへ行ってしまった。
私は一般家庭で育った、普通の庶民だ。
何をどうしたら、お嬢様だなんて勘違いするのか⋯⋯
(あ、そうか。やっぱりここはメイド喫茶なんだ)
なんでメイド喫茶にいるのだろう。分からない。
思い出したくても、今は頭が痛くてこれ以上は無理そうだ。
「⋯⋯もう、ダメ」
この言葉を最後に、私の意識はぷつりと途絶えた。
◇
――ピコン
『Mission:今日は何を作る?』
①カレーライス
②オムライス
③タコライス
(ん? これは⋯⋯)
突如として目の前に現れたゲームウィンドウ。
非現実的な状況に戸惑いながらも、なぜか既視感を感じる。
(このゲームウィンドウ、どこかで見たことあるような⋯⋯)
――ピコン
そうこうしているうちに、新たなウィンドウが最初のウィンドウにかぶるようにして現れた。
『Tips:どの料理を選ぶかによって、好感度の上がる攻略対象が変わります』
(攻略対象? ⋯⋯あ)
聞き覚えのある言葉を聞いて、これが何なのかを思い出した。
(そうだ。これ『恋レシ』のイベントだ)
どうりで見覚えがあるわけだ。
『恋レシ』はよくプレイしていた乙女ゲーム。
(たしか⋯⋯)
①のカレーライスを選ぶと王太子と教皇子息、②のオムライスを選ぶと騎士団長子息と大商会の息子、そして③のタコライスを選ぶと隣国王子と宰相子息の好感度が上がったはず。
(うーん。どれを選ぼうかな)
なんせ攻略対象は六人もいて、みなそれぞれ魅力的なキャラクターである。どのキャラクターを攻略しようか迷ってしまうのは致し方がないもの。
ただその中に推しがいないのだけは、残念ではあるが。
(よし、それじゃあここは王道を⋯⋯)
どれを選ぶのかを決めて、目の前のウィンドウに手を伸ばした。その時、
――ピコン
(え?)
再びウィンドウが現れた。
『チュートリアルは終了です』
(チュートリアル? ⋯⋯あれ? 『恋レシ』にこんなチュートリアルあったっけ?)
たしかこのイベントが発生するのは、ゲームの後半だったはず。
それなのにチュートリアル?
何かがおかしい。そう思った次の瞬間、またしても目の前にウィンドウが現れたのだが⋯⋯
――ピコン
『それでは『恋レシ』ライフをお楽しみください』
(は? 『恋レシ』ライフ? 何それ、って⋯⋯えっ! ま、まぶし⋯⋯)
突然周囲が光り出す。
何が起こっているのかは分からないし、その疑問に答えてくれる人はいない。
ただあまりの眩しさ抵抗する術はなく、私はギュッと目を瞑ったのだった。




