15
ああ、なんて幸せな時間なんだろう。
そうしみじみと幸せをかみしめていた時だった。
再びユリウス先生の口から、爆弾発言が飛び出したのは。
「可愛い」
「ふぇ!?」
またしても変な声が出てしまう。
ユリウス先生の前で恥ずかしすぎるでしょ、これ。
自分に乙女心などないかと思っていたが、どうやらちゃんとあったらしい。
そのことにどこかホッとはしたものの、ユリウス先生に変な奴認定されてしまったらどうしようと不安になる。
それに先ほどの言葉の威力が凄まじく、なかなか次の言葉が出てこない。
「その、えっと⋯⋯」
「くすっ。照れてる顔も可愛いですね」
――ズキュン!
「〜~っ!」
(い、一体どうしちゃったの!?)
小首を傾げ、私の顔を覗き込むような仕草に胸が激しくときめく。
以前から知ってはいたが、油断していた。
急に色気を出すのは心臓に悪いのでどうかやめほしい。
「私が可愛い? そ、そんなわけないじゃないですか」
アンゼリカは悪役令嬢だ。だから美人であるのは間違いないが、残念ながらこの容姿に可愛い要素はない。
それに令嬢らしくない私を可愛いと言う人なんているとは思えない。
「⋯⋯どうしてそう思うの?」
「え?」
突如としてユリウス先生の雰囲気が変わった。
「どうして?」
(ひぃ! な、なんで怒ってるの?)
色気を醸し出しつつも、静かに怒りの感情が顔を覗かせている。なんて器用な⋯⋯。
どうしてユリウス先生が怒っているのかが分からない。
何な気に障るようなことでも言った?
いやでも、客観的に見て可愛くないと本当のことを言っただけ。
(⋯⋯イケメンは怒ってもイケメンだな)
理由が不明すぎてもはや現実逃避である。
いやほんと、なぜこんな状況になった⋯⋯?
「⋯⋯ほ、ほら! 私の目はつり上がっていてキツそうに見えますし⋯⋯」
なんとか現実に戻ってこれた私だったが、なぜか言い訳をしているような感じになっている。
別に私は、間違ったことは言っていない。
なぜなら、悪役令嬢とつり上がった目。これは切っても切り離せない宿命なのだから。
「どこが?」
しかし残念なことに、ユリウス先生には伝わらなかったようだ。
「どこって、この目が⋯⋯」
――ガタッ
「なっ⋯⋯」
ユリウス先生が突然立ち上がり、椅子が音を鳴らす。
そしてその長い脚で距離を一瞬で縮めたかと思うと、彼は私の顔を正面から見つめた。
「こんなに愛らしい目をしているのに?」
(ち、近い!)
互いの吐息がかかりそうなほどの距離。そのあまりの近さに息を呑んだ。
「ねぇ、誰かが君にそう言ったのかな?」
「ち、違う⋯⋯」
「本当に?」
「ほ、本当に!」
なんとか言葉を絞り出し、コクコクと首を縦に振る。
「⋯⋯そう」
どうやら納得してくれたらしい。
これでようやくこの心臓に悪い距離から解放される。
そうホッとしようとした次の瞬間、ユリウス先生が私の前に跪いた。
「ローズウッド嬢」
「ユリウス先生!?」
ねぇ、王族が跪いていいんだっけ? 公爵家とは
いえ、ただの小娘一人に。
⋯⋯いや、いいわけがないでしょ。私、断罪されたりしないよね!?
『不敬だ。はい国外追放』
これが王太子だったら腹が立つだろう。でも推しだったら泣ける。
しかし私の予想とは異なり、ユリウス先生の口から放たれたのは、断罪の言葉ではなかった。
「私はね、これまで女性に対して可愛いと思ったことは一度もなかったんだ」




