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「え?」
ユリウス先生の言葉に私は戸惑ったが、彼はそのまま言葉を続けた。
「いや違うか。誰に対しても心が動かなかったと言う方が正しいかな」
「それは⋯⋯」
それはユリウス先生が『恋レシ』のお助けキャラだからでは?
そんな考えが頭を過った。
辛うじて名前だけは存在した彼。だけどストーリーには何の影響も与えないただのモブで。
中には私みたいなファンもいたかもしれないが、彼がどんな人生を送ってきたかなんて誰も知らない。
けれどそれが彼の『恋レシ』での役割だった。
でも今の彼は画面の中の人ではない。一人の人として生きている。
「君を初めて見た時、自分でも驚いたよ。こんな感情が自分の中にあったのかって」
「っ」
「ローズウッド公爵家がなぜ学園の食堂を欲しがったのか。それが気になってこっそり食堂を見に行ったんだ。そして君を見つけた」
私を見つめるユリウス先生の瞳は熱を帯びていた。
その事実に気づいてから、鼓動がうるさくて仕方ない。
「その時何かを食べていたんだけど、すごく幸せそうに笑っていてね。その笑顔に私は胸をギュッと鷲掴みされたような衝撃を受けたんだ」
(私と同じだ⋯⋯)
前世、私もユリウス先生の幸せそうに食べる顔に心を撃ち抜かれた。
それからは攻略対象そっちのけで、ヒロインが彼と幸せになれるルートを探し続ける日々。
けれどそんなものは存在しなくて。
「ローズウッド嬢」
「っ、はい⋯⋯」
諦めるしかなかった彼とのハッピーエンド。
もしかしたら自意識過剰の自惚れかもしれない。
けれどもしも、彼が私を望んでくれたのなら――
「たくさんの男たちが君を望んでいるのは知っている。だけどもしも。もしも君の中に少しでも私がいるのなら、どうか私を選んでほしい」
「っ⋯⋯」
「絶対に幸せにすると誓うよ」
――私の持てる力で、彼を幸せにしたい。
悪役令嬢とお助けキャラ。
本来であれば決して交わることない者同士。
そんな私たちが今、交わろうとしている。
すでにこの世界は変わり始めているが、数カ月後にはゲームがスタートする。
だから現時点で未来がどうなるのかなんて分からない。
だけど、それでも。
私の中にある確固たる思いは揺るがない。
おいしいご飯を食べること。
推しの幸せを願うこと。
そして私たちは同じ想いを抱いている。
それならどうするべきか、答えは一つ。
「私もユリウス先生を幸せにすると誓います!」
「っ! ⋯⋯ああ、ほんと。私はいつだって君に心動かされてしまうんだね」
「ユリウス先生? ⋯⋯っ、ひゃぁ!」
小さな声で何かをつぶやいたユリウス先生。
どうかしたのかと声をかけると、ユリウス先生は私の手を取り、そしてキスを落とした。
一瞬唇が触れる程度のキス。
けれど触れた箇所に残る唇の記憶が、私の頬を真っ赤に染め上げた。
「くすっ。すごく可愛い」
「っ、ユリウス先生!」
前世を合わせたら私の方が年上なのに、なんだか悔しい。
だから抗議しようと思ったのに、
「ユリウス」
「へ?」
「先生じゃなくて、名前で呼んでほしいな。だって私たちは両想いなんですよね?」
「〜〜っ」
ダメだ。所詮私レベルでは敵いっこなかった。
もう降参です。
だからこれ以上ドキドキさせないで!
私はそう心の中で白旗を揚げるのだった。
それからすぐ、私たちの婚約は整った。
一年間の婚約期間を経て結婚式を挙げることになる。
私は幸せいっぱいだ。
ただ嘘か本当か。私たちの婚約を知った攻略対象たちは、みな床に崩れ落ちたという。
それでも学園を休むことはなく昼食を頬張っていたのだから、何の問題もないだろう。
どうせもう少しでヒロインが入学してくるのだ。
すぐに私のことなんて忘れてしまうはず。
それに私はこれからの人生、推しを幸せにしなくちゃいけないのだから、忙しくて乙女ゲームなんて気にしてはいられない。
「今日のオススメは何かな?」
「今日は誕生日の人限定、バースデーランチがオススメですよ」
「じゃあそれをお願いしよう」
「はい。少しお待ちくださいね」
一食限定のバースデーランチ。
それは私の愛が詰まった特別なおいしいご飯だ。
ーーおまけーー
――お茶会のあと。
「あなたが学園の生徒じゃなくて本当によかったです」
「えっと⋯⋯それはどうしてですか?」
「だって、教師が生徒に手を出すなんてダメですからね」
「な、なるほど」
「卒業するまでの間、たくさんの男たちに言い寄られる君をただ見ているだけだなんて私には耐えられません」
「っ」
「⋯⋯まぁもしそうだとしたら、順番に消すだけですけど」
「ユリウス様?」
「いいえ。なんでもないですよ」




