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「本日はお招きいただきありがとうございます」
翌日。
私は準備を完璧に整え、お茶会に臨んだ。
前世の記憶を思い出してから、こうして令嬢らしい装いや振る舞いをするのは久しぶりだ。
最近は学食か屋敷の厨房か自室にしかいないから、令嬢らしさは不要なのである。
しかしそれでも長年培ってきたものは、身体が覚えているようでホッとした。
ただ久しぶりにドレスを着る時は、少しドキドキしたけれど。
(無事に着れてよかったよ⋯⋯)
ここ最近は、まぁそれなりに食べ過ぎている自覚はあった。
朝昼夜の食事の他におやつ、それに新メニューの試食などなど。
まぁいっぱい働いているし?
というかおいしいご飯を食べないなんて選択肢は存在しないし?
なんて言い訳を並べていたが、ドレスが着れなかったらどうしようと今朝になって焦った。
しかしさすが悪役令嬢というべきか、難なくドレスを着ることができた時はホッとした。
ただいつまでも油断していたらヤバい。
それでもおいしいご飯を食べるのはやめられないので、太らないように気をつけようと誓ったのである。
「ローズウッド嬢、ようこそ。いつもの装いも素敵ですが、今日はより一層素敵ですね」
「あ、ありがとうございます。王弟殿下におかれましても⋯⋯」
「ああ、そんなにかしこまらないで。いつもどおりで大丈夫だから」
「ですが⋯⋯」
学食ではこれまでどおりユリウス先生と呼んではいたが、ここは学食ではない。
それに今日ユリウス先生の姿を目の当たりにして、おいそれと先生とは呼べそうにない。
(でもこっちも素敵だなぁ)
いつもの白衣にメガネ姿もいいけど、貴公子姿のユリウス先生もまたいい。
メガネは伊達だったのかと、そんなことを考えていると、
「なんなら、名前で呼んでくれると嬉しいのだけど」
「へっ!?」
爽やかな笑顔で、サラリと爆弾を投下してきたユリウス先生。
名前で呼んでくれると嬉しいなんて言ってはいるが、名前で呼んでいいのは親しい間柄だけ。
そして貴族の間で親しい間柄だと言えるのは、家族と同性の友人、そして婚約者くらいである。
私の中の常識と照らし合わせると、ユリウス先生は家族ではないし、ましてや同性の友人でもない。もちろん婚約者でもない。
それにも関わらずユリウス先生がそのようなことを言ってくるのには、一体どんな意図があるのだろうか。
「ローズウッド嬢」
「あ⋯⋯」
気づけば私とユリウス先生の距離は縮まっていて、顔も声も近い。
そして私の名を呼ぶと、そっと手を取った。
「っ」
「ふふ。そんなに緊張しないでください。 ⋯⋯今すぐとって食べたりはしないから」
「は、はい⋯⋯え? 今なんて⋯⋯」
後半の部分があまりよく聞き取れなかったが、なんだか不穏な発言か聞こえてきたような⋯⋯
「さぁ、なんでしょうね?」
「えっ」
「そうそう。今日は庭に席を用意したんです。今はちょうどたくさんの花が見頃でね。ぜひ楽しんでもらえると嬉しいです」
「あ、あの」
「じゃあ案内しますね。さぁ、お手をどうぞ」
目の前に差し出された手は、私よりも大きい、男の人の手。
「っ⋯⋯はい。よろしくお願いします」
何だかはぐらかされてしまった気がする。
けれど今は触れた手から、ユリウス先生にこのドキドキを悟られないよう取り繕うのに精一杯で、それ以上は何も聞くことはできなかった。




