第32話:世界の隅で、魂は目覚める
2視点です
Side:ハーミト
体が動かない。全身が痛い。しゃべることすら難しい。それでも辛うじて動く目で彼の戦いを見る。
見たことのない魔術で相手を翻弄し、一瞬食べられてしまったを思ったら爆発したりと、魔術師としても、近接職としても型破りな、ありえない戦い方をしている。
ただその戦い方は、敵に自分だけを狙うように仕向ける戦い方。そして誰かを守ることに特化した戦い方。
彼の戦い方を見てどうしてあんなに強いのかとか、どうして彼だけ動けるのかとか、色々知りたいことはあった。
だが、今の思いつく感情は、悔しい…それだけだった。
思えば今回の件最初っから彼に頼りっぱなしだった。救援の移動、防衛戦での逆転の一手、蛇の魔物への対応策。冒険者でもなく、村とも無関係の存在でありながら全力を尽くし、今は動けない私達のために一人で戦っている。それに比べて私は、ランクゆえ前線には出られず村の中で後方支援。前線に出られても今はこうして這いつくばっている。
それがどうしようもなく悔しい。それと同時に彼に嫉妬してしまう。
私よりも魔術の展開速度が速く、そして威力も高い。
何より私には出来ない攻撃系魔術を複数用いて、近・中・遠、全ての距離から敵を撹乱する。
まるで吟遊詩人から聞いた、彼の勇者の様な戦い方。
私が…いや、誰もが一度は憧れた戦い方のように見えるそれは、
今は亡き英雄の戦い。
そんな中、シンさんに向かって再び刺突が放たれる。
彼は迎撃の構えを取った。左腕が折れてしまったのだろう、だらりと落ちている。そんな彼に対し、その尻尾は彼の頭上を越え、背後にいた私の方に向かって飛んできた。
死を直感した。
避けたくても指一本動かすことができない。
でも何故だろう。不思議と怖くはなかった。
だからその攻撃に対して…
私はそっと瞼を閉じた。
ガキン!!
突如として響き渡る衝突音。
再び目を開くとそこには半透明な大剣が2本交差して浮いており、尻尾を受け止めていた。
「誰一人として、死なせるものか」
その戦場で静かに声が響いた。先ほど彼がいた場所を見る。
彼の瞳が、美しい虹色に輝いていた。
それはまさしく、酒場で吟遊詩人から聞いた勇者のように。
かつて憧れた、英雄がそこにいた。
side:フレミナ
-同時刻-
冒険者協会にいても特に出来ることがなかったので私はリンちゃんを連れて離れた。
その際にギルマスから回復薬の発注を依頼をされたため、本来の目的である商会へと向かっていた。
馬車を走らす。ただ、その道中で事は起きた。
「・・・シン?」
突然リンちゃんが彼の名前を呼んだ。やはり寂しいのだろうか?心配になって声をかけてみる。
「どうしたんだいリンちゃ・・・!?」
私は言葉を詰まらせた。何故なら彼女は泣いていた。
「え、ちょ本当に大丈夫!?」
「ぇ?・・・あれ?なにこれ?」
どうやら彼女自身泣いているのに気づいてなかったようだ。慌ててハンカチを貸そうとしたとき、私は気が付いた。
彼女の眼がおかしい。
蒼かった瞳が美しい虹色になっていた。
「リン...ちゃん?」
けどその瞳は、焦点があっていなような…どこか別の場所を見ているようだった。
「フレミナ・・・シンが...」
彼女が何か言おうとしたその直後、まるで人形のように倒れた。
「え!ちょっと!?リンちゃん!?ねぇ!ねぇってば!!」
急いで容体を確認する。息はしっかりしている…心臓の鼓動も安定してと思うが私は医者ではないので正確な判断ができない。私にはただ急に意識が途切れただけのように見える。
何が起こったのかは分からない。ただ今ここでは何もできない。
詳しい容体を確認するためにも馬車の上じゃ何もできない。急いで馬車を駆け足で進ませる。
「それにしても、さっきのは一体?」
見間違えではないはずだ。
あの瞳の色は一体なんだったんだろう?




