第26話:サンゼン村防衛戦
今はとにかく時間が惜しい。
村の内部に魔物がいたということは、サンゼン村の防衛力はもう限界に達しているということだ。
戦況を聴くのに時間を使ってしまったが、ここからは少しでも行動を起こさないと!
俺は守備旅団のみんなに外で戦うことを伝えた後、すぐに走り出す。
目指すは空から見た時に魔物が一番多かった場所だ。
この戦いで全員の生き残るにはただ村を守ってるだけでは勝てない。
今のままだとホルンから救援が来る前に物量で押し負けて全員やられる。
だから少しでも数を減らす。
無詠唱は繰り返すと魔力消費と自身への負担が多くなるので、詠唱出来るときは可能な限り使用する。
「〈疾風よ、我が足に纏いて、風となれ→エアーステップ〉」
エアーステップは風を足に纏うことでほんの少しの間、地面から浮くことが出来る。
踏ん張ることが出来なくなる一方で、氷の上を滑るように移動できるようになる。
だが、これは応用すると面白いことが出来る。
瞬間的に出力を高めることで一瞬だけ、その風に立つことが出来る。
それを跳んだ時に行うとどうなるか?
答えはもう一度跳べる。
「名付けて、スカイステップ!」
防衛している冒険者の横をすり抜け、壁を乗り越えて外に出る。
その際に制止する声が聞こえたが気にしない。下を見ると魔物がうじゃうじゃいた。
このままでは着地する場所すらないので魔物には退いてもらおう。
「〈炎よ、我が標的を、撃ち抜け→フレイムショット!〉」
手のひらから火炎弾が撃ち出され、着弾と同時にそこにいた魔物は吹き飛ばす。
そのまま着地し、続けて詠唱を行う。
「〈水よ、振り注ぐ雨矢となれ→レインアロー〉」
今度は空から大量の水の矢を広範囲に降らせる。魔物達は避けたり防ごうとするがこれは雨だ。避けられず、逃げられない。
たが喰らった魔物たちは困惑しているようだ。
それもそうだろう。何故ならこの魔術は殺傷能力が低い。どんだけ威力を上げてもちょっと痛い程度で済んでしまうほどには弱い。
だから不思議に思い足を止める。そして避けなくても良いと判断する。
でも次が本命。
「さぁ、実験を始めようか」
今度は無詠唱で魔術を構築する。無詠唱は負担が多いとはいえ詠唱が長い場合、どんなに強力でも戦闘中には使いにくい。
なので上手く使い分ける必要がある。
魔術式、心域経由、詠唱省略。
自身の周りに電気が宿る。
「さて、濡れた身体に電気を当てるとどうなると思う?」
答えは簡単だ。
「〈サンダーバースト!〉」
自分を起点にして電撃を広範囲・高出力で放つ魔術。
それはレインアローで体が濡れた魔物に当たることで感電を引き起こす。
そして今度は感電した魔物が起点となることで再び電撃が拡散していく。
水と雷、2属性の範囲魔術を応用することでここにいる魔物達が一斉に感電し、殲滅・またはスタンさせることに成功した。
動けないのであれば一気に決める!
「〈光よ、無数の槍となりて、わが敵を貫け→シャイニングランス!〉」
光の槍を大量に作り、魔物に向かって投射する。
シャイニングランスは貫通力の高い光属性の槍だ。
それは動けなくなった魔物の無防備な体を突き抜け、さらに奥の魔物へと一直線に飛んでいく。
そして俺の制御下から離れそうになるタイミングを見計らって…
「ここだ!〈リフレクト!〉」
槍の進行方向に少し角度をつけたリフレクトを生み出す。
シャイニングランスがリフレクトに接触。その瞬間シャイニングランスは角度を変え今度は魔物の背後から貫通攻撃を繰り出す。
「もう一回、〈リフレクト!〉」
今度はこっち側に飛んできたシャイニングランスを左右外側へ反射するように設置する。
そうすることでリフレクトに触れた槍はさらに広範囲の魔物を大量に倒していく。
「うぐっ…!」
直後、頭痛と目眩がして思わず膝を付く。どうやら一度に連続して魔力を使いすぎたようだ。
しかし、これだけのことをしても倒した魔物は村を囲っていた一部に過ぎない。
そして今の攻撃でも生き残った強い魔物もいる。
だからまだ、倒れるわけには行かない。
一旦深呼吸したあと立ち上がる。
残った魔物を確認する。
ゴブリン6体。倒した奴らと目立った違いがないので多分攻撃が届かなかった。
オーク2体。革製の防具をつけいる、おそらく電気が通らなかったのだろう。シャイニングランスは避けられたか?
狼型の魔物3匹。灰色と白の毛色をしていて、額に角がある。多分電気に耐性を持つウルフリッパ―。
今は大規模な魔術は使えない。次使ったら急激に魔力を消費した影響で意識を失う可能性がある。
なので魔力消費を抑えるためここからは近接戦で行く。
アイテムポーチから再び剣と、折れた魔導剣を取出す。折れてほぼナイフサイズだが元素材はミスリルだ。
それに魔力を通せば高熱刃になることは前回の戦闘で確認済みなので牽制程度にはなるだろう。
まずは、すぐに片付くゴブリンを…
「魔術師の彼に続けぇぇ!!今が攻め時だ!!」
「「「おぉおおぉおおお!!」」」
突如聞こえた勢いのある大声と共に今まで防壁で戦ってた冒険者達が走り出した。
「一番魔物が多かった場所が減った!一部パーティーは反対側の援護に行け!俺たちは生き残りを掃討後、左右に分かれて挟撃するぞ!」
統率の取れた動きで俺が倒しきれなかった魔物に攻撃を仕掛けていく。
「おい、魔術師のにいちゃん!」
うぉ、びっくりした。呆気にとられていると肩を叩かれた。
「あんたすげぇな。劣勢だった状況が一気に逆転したぜ!」
「ど、どうも…」
正直な話をすると、彼らの存在を忘れていた。
いやだって魔族領へ攻めた時も似たことやったし、なんだったらその時はPT全員で散開して殲滅魔法だの魔術だの使ってた。
「だが無茶すぎる。壁を飛び越えてった時は冷や冷やしたぞ。この魔物の数だ。たとえ強くても一人で何とかしようとするんじゃない」
「・・・すみません…」
「いや、怒ってる訳じゃないんだ。実際今回は助かった」
昔誰かに言われた、一人で何とかしようとする。俺の悪い癖だ。
「ところで…さっきの魔術、まだ撃てるか?」
さっきの?感電させた奴か?
「できれば反対側でも使ってほしい」
そうか…今の状況。もう一発ぶち込めばこちらと同じように魔物の軍団に風穴が空く。
そこから冒険者が攻め入ればこちらの部隊と挟撃が成立し勝機が見える。
・・・だが無理だ。今の俺にはあれを連射できるほどの魔力はない。
「すまないが、魔力が足りない」
「そうか。なら、」
「待たせたな!!」
突然、ついさっき聞いたことのある声がした。
振り向くと馬に跨ったハイトがいた。
さらにその後ろにはさっきギルドで見たような気がする冒険者達がいる。
想定よりも速すぎる、頼もしい援軍の到着だ。
今回のシン君。
群れのど真ん中に着地→雨を降らせる→傲慢サンダーで敵を感電スタン。
貫通力の高い槍を大量に投擲→反射して拡散。
一人で無双ゲーしだす。
Topic:レインアロー
水属性魔術の一種。空から水の矢を降らせる。
魔力を全力で込めても威力は上がらない。変わりに範囲が広くなる。
反転魔術と呼ばれる特殊な魔術にアローレインと呼ばれるものがある。こっちは威力が高い。
雨の矢を降らせるか...
矢の雨を降らせるか...
入れ替えるだけで全く違う技。




