第24話:覚悟
「一旦落ち着いて。端的でいいから説明してくれ」
故郷のピンチを知らされたというのに、意外にも守備旅団の人達は冷静だった。
彼らに促されながらイルスは少しずつ説明を始めた。
「森の奥から、急に大量の魔物が出てきたんだ!」
「それから?」
「村の警備団と駆けつけてきてくれた冒険者が対処してくれたんだけど、どんどん増えていって…」
「対処できなくなってきた?」
「うん。今は村で守りを固めてる!」
「アオさん、本当か?」
受付のアオと呼ばれた人に確認をとる。
「はい。2つのクランと4つのパーティーが救援に向かいましたが未だ連絡が取れてません。今少し前に伝達役を走らせたところです」
この子の情報だけだと足りない部分が多くてギルドも動きにくいってところか。
俺は部外者だが確認させてもらう。
「すまないが、伝達の人が行ったのはいつだ?戻ってくるまでにどれ程かかる?」
「え?えっと、1時間程前です。まもなく帰還すると思われます」
1時間。
村の人はそんなに長い間魔物と対峙してるってことか。
警備団と冒険者の実力を疑うわけじゃないが、嫌な胸騒ぎがする。
「さっき門を通ったときに見たことのない魔物が出たって聞いたけど?」
フレミナが少年に問いかけた。
そういえば確かにさっき門でそんなことを聞いた。
「見た!すごいおっきな蛇だった!」
蛇か、でかい蛇の魔物って何がいたっけ?
「村の周りをうろついてて、魔物を食べてたんだ!」
魔物を食べるってことは肉食系か。
「襲ってきた魔物達につられて森の奥から出てきたのかも」
「ありえるな」
マスカさんも同じ意見のようだ。
「戻ったぞ!」
突然後ろの扉が開き、ローブを着た男が入ってきた。
「ハイトさん!」
「うぇ?兄ちゃん⁉」
兄?今度はネヒトさんの兄が登場したのか。
「ハイト兄ちゃん!村は?蛇はどうなった!」
イルスがハイトと呼ばれる青年に問い詰める。
「ちょっと、まずかもしれない」
「ハイトさん、教えてくれ。今俺たち故郷、サンゼン村はどうなってる?」
アックの言葉に対してハイトは周囲を見渡す。
「ここにいるメンツは皆ギルマスの招集に応じたものか?」
「全員ではありませんが、戦力が多く必要だと思いDランク以上が集まってます」
「そうか…トップの判断が欲しい。ギルマスはいるか?」
「今マスターは領主様の所へ出向き打ち合わせを行っておりますゆえ、不在となります」
そう言ったのは上の階から降りてきた、眼鏡をかけた男性だ。
「なのでサブマスターである私が代理で対応します」
この人がサブマスター、めっちゃ真面目そう。
「分かった。それじゃ情報を共有するぞ!」
ここにいる全員がハイトに注目する。
「まず、今サンゼンはゴブリン、オークの群れに包囲されている!そして駆け付けた冒険者たちは今、村で籠城戦を行い村人を守っているが、如何せん敵の数が多い。やられるのは時間の問題だろう!」
その言葉に周囲がざわつき始める。
「そしてさらに!イルスがいってた蛇についてだが、森の奥に確かにいた!俺には種類は分からなかったが、かなりヤバそうだった。村に来れば一瞬で終わりだろう!」
「ハイト、あなたから見てその蛇…どのくらいのランクだと思いますか?」
サブマスターがハイトに問いかける。
「・・・最低でもB以上Aランク級」
再び周囲がざわつく。
ちらほら無理だとか、倒せない、助からないといった声が聞こえる。
「全員静かに!!この件についてギルドは緊急クエストとして処理します!目標はサンゼン村住民の救助!参加ランクはオークが確認されているため、C以上!未確認の蛇型魔物に対抗するため、Bランクパーティーは必ず参加して頂きたい!それと先行して救援に向かった冒険者に低ランクがいます、出来る限りフォローを!」
ふと…過去の記憶が過ぎる。
勇者時代に行った冒険者との合同作戦。
魔王軍占領集落奪還作戦。
似たような内容だった。
魔物を倒して集落の人たち救出する。
あの時は作戦も沢山考えて、万全の状態で挑んだ。
だけど
そこにあったのは。
血によって黒く染まった大地。
家が燃え赤く濁った夜空。
肉が焼けたような匂いと悲鳴。
そして・・・目の前で消える痛み。
一瞬の油断で失ったもの。
あの時…こうしていればと何度も思った忘れられない記憶。
いや、忘れてはいけない・・・
俺の罪
「シン?」
「っ!どうした?」
リンに手を握られて考えをやめた。横を見れば心配そうにこちらを見ていた。
「シン、怖い顔してた」
あぁ、そっか顔に出てたか…。
「ハイト、申し訳ありませんが再び現場へお願いします。それと向こうでの指揮も」
サブマスターがハイトに指示を出す。
「承知した。全員聞いての通りだ!いいか!足の速い奴は先行しろ!少しでも多くの命を助けるんだ!」
その声に応じた険者が移動し始める。
「シンも行くの?」
彼女の質問に俺は首を振った。
今回参加できるのは冒険者のみだ。俺には資格がない。仮に登録したとしてもランクC以上なので意味がない。
それにリンの事もある。今の彼女を一人にしていいとは思えない。
だから俺は…
「シンって今自由?」
「・・・は?」
突然どうしたんだ?
「シンは僕に自由に生きていいって言った」
確かに言った。でもそれはリンに対していったことであって...
「後悔したことあるんでしょ?」
その言葉に俺は驚愕した。
「なぜ、知ってる?」
「よくわかんないけど、今のシンを見てるとなんとなくわかった」
リンはまっすぐこっちを見つめてきた。
「シンの言った自由ってなに?後悔すること?」
その言葉で、俺の中の何かが吹っ切れた。
「サブマスター、俺も行かせてくれ」
俺からの突然の申し出に彼は困惑した顔で応じた。
「えっと、君は?」
「俺はシン。冒険者ではないが力になれる」
「関係ない奴が出しゃばるんじゃねぇよ!」
外から罵声が飛んでくる。そりゃごもっともだ。
はたから見たらこの緊急事態、得体のしれない一般人が戦場に行こうとしている状況だ。
そんなの怒りたくもなる筈だ。
こんな時、俺は勇者だと言えたらどれだけ良かったか…。
もしかしたらその肩書だけでこいつらを黙らせることが出来るだろう。
だがそれはやってはいけない。それでは意味がない。
「あいつらの言う通りだ。関係ない君を行かせるわけにはいかない」
ハイトも俺の同行を拒否する。向こうの言っていることは正しい。
それはわかってる。それでも…
「それでも…俺は行く」
「なぜ、そんに死にたがる?」
死にたがる?
「君が行って何になる?余計な犠牲を増やすのか?」
勿論そんなつもりはない。だが彼らを説得する材料も実績もない。
「意味もなく犠牲者を増やすのを容認するわけにはいかない」
・・・意味?意味ならある。
「後悔しないためだ…」
「何か言ったか?」
そうだ…俺はあの時、決めたんだ。
手が届きそうな距離に、助けが必要な人たちがいる。
例え勇者の力がなくても、助けられる力がある。
だって、
もう二度と、あんな思いはしたくないから。
もう二度と、同じ思いをする人を見たくないから。
「『もう二度と…誰も、何も失わさせないためなら…俺は!』」
「好きにすればいいさ」
後ろから突然声がした。振り向くと入り口からまた新しい人が入ってきた。
「ただし、お前は冒険者ではない。何かあってもギルドは一切責任を取らない。良いな?」
「構わない」
ー覚悟は出来た。
「シン…行くの?」
「あぁ、リンのおかげで吹っ切れた。ありがとう」
「・・・無事でいて。そして約束、戻ったら一緒にこの街を見てまわる」
「分かった。約束する」
必ず帰らなくてはならない理由がある。それだけでも強くなれる。
「フレミナさん、すみませんがリンを頼みます」
「え、あぁ…分かった」
フレミナにリンを託し、俺は外へ出た。そして救援組の冒険者たちにある提案をする。
「サンゼン村の方向を教えてくれ。4人、一気に連れていく」
「一気に?どうやって?」
「風魔術を使う。原理は説明している時間がない」
こいつ信用できるか?意味わからなすぎる。
そういった声が聞こえる。
「誰もいないなら俺一人で先に行く」
「いや、俺達が一緒に行く」
そういって挙手したのはここまで一緒に旅をしてくれた守備旅団のマスカだ。
「いいのか?」
「君の提案だろ?それにサンゼン村は俺たちの故郷だ。いち早く駆け付けられるならそれに越したことはない」
故郷のピンチだっていうのにこの人達は本当に冷静だな。
「分かった」
村の方角を聞いた後、俺は術式の構築をする。時間がないので心域を用いて全ての詠唱を短縮する。
地面に風属性の魔法陣が描かれ、俺達5人を包む。
「行くぞ!舌を噛まないように!」
守備旅団のみんなが頷いたのを確認してから魔術を発動する。
「〈エリア・エアシール!〉+〈カタパルト・アクセライズ!!〉」
地面から強烈な風が巻き起こり、俺達は空へ飛ばされた。
Side:フレミナ
正直、急な展開に頭が追いついてない。
街に着いて冒険者協会へ来た途端、護衛を依頼していた守備旅団の故郷が危ないという報告からの緊急クエスト発行。
一斉にドタバタし始めて皆慌ただしくしている。
でも一番驚いたのは彼ら、シンとリンについてだ。
彼がこの子を私に預けて戦場に向かうとは思っていなかった。
少ししか一緒にいなかったが、おおよその事情は把握している。
今のリンは彼から離れることが難しい。
それこそ馬車でやったような会話練習が必要な程には。
なのでシンとリンが離れるとは思ってなかった。
でも背中を押したのは彼女のように見えた。
だからこそ気になったのでリンに直接聞いてみる。
「いいのかい?彼を行かせて?」
でも返ってきた返答はよく分からないものだった。
「シンの声が聞こえた。それなら行かせるべき」
「声?」
「声」
その声はまっすぐで自信のある言葉だった。
「心配じゃないの?」
「心配だよ。僕だってシンが消えちゃうのは怖いし嫌だ」
始めて彼女と真面目に会話が出来ている。
馬車で会話練習をした時とは全く違う別人のようで。
「それなのに止めなかったのかい?」
「・・・僕は無力だ。そんな僕にシンを止めることは出来ない」
言葉に不思議と強い意識を感じる。
心配しつつもどこか無力を感じているような感情。
「・・・リンちゃんはどうしたい?」
「え?」
私は力になれるか分からないけど相談に乗ることは出来る。
「いやなに、簡単な話さ。どんなふうに生きていきたい?」
彼女は少し考えた後…。
「シンと一緒にいたい」
私からのアドバイス。自分の力のなさに嘆くのであれば答えは一つじゃないか?
「なら強くなればいいんじゃない?」
「強く?」
「どんなときも横に立って、彼を支えられる人になればいいんじゃない?」
「僕が…強く…」
「彼が帰ってきたら相談してみな?」
「・・・シン、反対しないかな?」
まぁ、その可能性は十分にあるね。
「反対するかもだけど…そこは君の意志を強く持ちな」
多分だけど、彼は否定はしないんじゃないか?
そんな気がする。
「マスター!何故、無関係の人間を行かせたのですか!」
「落ち着けよ、あいつは帰ってくるさ」
突然声が響いたので言い争ってる二人を見る。私はこの二人と面識がある。彼らはホルンの冒険者協会、トップ2人だ。
そして問い詰めたサブマスターにギルドマスターは目元を指すゼスチャーをしている。
「・・・もしかして、視えたのですか?」
「あぁ…最悪な未来と、最善の結果がな」
その言葉にサブマスターは落ち着きを取り戻したらしい。
「それで何が視えたんですか?」
ギルドマスターは渋ったあと…
「サンゼン村の連中と向かった奴ら連中が全員死ぬか、全員生きるかだ」
会話が聞こえていた残った人、低ランクの冒険者やギルド職員が一斉に騒ぎだすのが分かった。
「それは全員、無事にってことですか?」
サブマスターの問にギルドマスターはただ黙って扉の方を見続けた。
Topic:魔王軍占領集落奪還作戦
勇者時代にシンが参加した戦い。
とある集落が魔族に占拠されたため、住民の救出を重要項目とした作戦を行った。
魔族は瘴気を垂れ流す。耐性がない集落の人達はその瘴気の影響により自我を失い、襲いかかってきた。
当時瘴気の影響について詳細が判明しておらず、何故襲いかかってきたのか分からない状態だった。
救出対象を攻撃するわけにもいかず、最終的には魔族・住民・冒険者の三者による乱戦が勃発。
結果、魔族・住民は全滅。集落は焼け落ちた。
また、参加した冒険者達は全体の7割が死傷。
その中にシンと親しかった人がいた。




