第10話:刻翼と魔導具
「申し訳ございません。ただいま空き部屋はございません。」
「まじか...。」
宿屋に空きがなかった。まぁ混んでるって聞いてたからね...。
ないものねだりしてもしょうがない。さっさと気分切り替えて行こう。
中継拠点で宿屋が無いとき、もう一つ寝床を確保する方法がある。
ギルドテントだ。
これは冒険者ギルドが運営している設営テントである。
集落内外の区画に日光や雨風を防ぐ用のテントと毛布、あとはランタンが置いてある。
テントは大人が詰めて2人寝れるかどうかのサイズなのでとても狭い。
利点は安いことくらいか。基本銀貨1枚で済む。
ちなみに自前でテントを用意している場合は区画を無料で借りれる。
頼む...空いていてくれ。ギルドテントがないと本格的に野宿になってしまう。
「お待たせしました。1カ所のみ空いております。」
「そこでよろしくお願いします。」
狭くても外で寝るよりはマシなので即決した。
さて、寝床は確保した。次は冒険者ギルドだな。
金銭をどうにかしたい。
ナイトメアウルフは出来れば街で売りたい。
てか多分ここでは高ランク魔物の買取はできない。
となると残るのはファンガボアの角・牙だけだが…。
「銀貨2枚ですね。」
Dランクの魔物素材が2千円…。まぁそんなものか。
直近の食費とでも思っておこう。
あ、そうだ。
「受付さん、街へ行く馬車とかない?」
「護衛依頼ですか?ありますよ、受注されますか?」
「いや、ギルド未登録だから受注できない。」
そう言って仮身分証を見せる。
「あぁ、門兵から話は聞いております。あなた達でしたか…。」
まじで?伝達早いなぁ。
「乗せてもらえる馬車がないか確認しますので、また明日の朝お越しください。」
「お願いします。」
さて、夜まで時間が空いたので再び買い物でもする。
「シンはすごいね。」
不意にリンからそんなことを言われた。
「急にどうしたの?」
「シンは誰とでも会話出来てすごいなって思った。」
「これくらい普通じゃない?」
「僕には無理だから…。」
あぁなるほど。
「まだ人と触れ合うのが怖いか?」
「…うん。」
「そっか。」
やっぱり...また誰かを傷つけてしまうのを恐れているのか。
「ゆっくり慣れていけばいいよ。」
「僕にできるかな?」
「俺とはこうして話せるじゃないか。」
そういえば俺とは普通に会話出来てるよな?
俺は良いのか?
「シンは安心できるから…。」
「ぉ、おう…?」
まだ出会って一日経ってないよ?その理由はどこから来たの?
俺は良くて他人がダメな理由…なんだろ?
考えてもしょうがないので市場探索を続ける。
気がつけば日が落ちてきた。
そんな時、ふと気になるものを見つけた。
・・・なんでこんなものがこんなところで売ってるだ?しかも安い!
「いらっしゃい。それが気になるのか?」
「あの…これ安すぎません?なんで?」
それは一見するとただの青色の羽ペンだ。
けれど先端の形状が特殊でインクを溜める事が出来ない構造になっている。
「そうなのかい?仕入れたときにその値段だったけど?」
えぇ…売った人これの価値知ってるのか?
「まぁ俺も貴族向けな羽ペンかと思って仕入れたんだがちょっと違うし、使い方が分からないからそのまんまの価格で売ってんだよ。」
あんたもか。店主が用途不明な物を売ってていいのか?
お客さんに説明できないじゃん。
「兄ちゃんそれが何なのか分かるのかい?」
知ってる…というか、結構使ってた。
でもまぁ…確かに一般の人からすると要らないものだ。
知らないのも無理はないのかもしれない。
「こいつは【刻翼】って言う魔導具です。」
刻翼とは魔導具に術式を書き込むために使用する、魔導具作製に欠かせない大事なものだ。
一般的に書き込みの難易度は高く、複雑なものほど失敗しやすい。
魔術への理解が必要になるからだ。
また、魔導具の作製は自由だが販売には専用の免許がいる。
そのためか刻翼はあまり流通していない。
職人が使う道具を知っているかと聞かれているようなものだ。
下手したらこの店主みたいに知らない人の方が多い。
「ほぇ…博識なもんだ。」
これ本来結構高価な代物だぞ…。
あ、売れないと思ったからこの値段なのか。
「これ買ってもいいですか?」
「ん?もしかして兄ちゃん魔導具が作れるのか?」
「出来ますよ、多分…。」
てかめっちゃ作ってた。異世界の定番、ファンタジーアイテム。
自分で作れるなら作りたいに決まってる。
ただ今の俺が何が出来るか分からい以上断言はできない。
「ならよ、タダでもくれてやるからコレ修理できるか?」
そう言って出てきたのはランタンの魔導具。
ごく一般的な代物だ。でも結構年季が入っている。
調べてみると、どうやら術式が破損しているらしい。
「できるが…いいのか?俺は免許を持ってない。それに刻翼は本来もっと高価なものだ。」
この店では銅貨5枚で売られていが、ちゃんとしたところだと金貨10枚はする。
「こいつは俺が日常的に使ってるもんだ。売りもんじゃない。それに今聞いた話じゃこんなところで売れるかも怪しい。こういうのはずっと在庫で腐らせるより、使える奴に渡した方が都合がいい。」
まぁ欲しい人は欲しい…けど普通は売れない。
俺はランタンを直して、対価として刻翼を貰う。
金が発生しない商談ってことか?
「なるほど…なら引き受けます。」
これくらいの魔導具、朝飯前だ。今夕方だけど。
10分で完成させてやる。
「出来た!」
「速くないか?」
5分くらいで終わった。
「試してみてくれ。」
店主が魔力を通すとランタンに光が灯った。
成功したようだ。
「バッチリだな、大した腕だ。ほんじゃま、約束通りそいつはやるよ。」
「ありがとうございます。」
意図せず良いものを手入れてた。
しかしタダで貰うのもなんかぁ…せめて買い物くらいしていこう。
今の金銭的にかなりきついが何かないかな?
あ、そうだ。
「あの、いい感じのアクセサリーないですか?」
「アクセサリー?」
「腕輪とか髪留めでもいいです。」
「アクセサリーはそっちに置いてあるが…なんに使うんだい?」
「ちょっと作りたい魔導具がありまして。」
そう。できれば作ろうと思っていた。
リンの魔力漏れを抑制する魔導具。
普通に買うと金貨2~3枚はするが刻翼があれば元となるアクセサリーだけあればいい。
ざっと見てみる。
・・・うーん微妙だ。素材は悪くないが術式を書き込める量が少ない。
「すみません、鉱石ってありますか?」
「鉱石?それも魔導具関係か?」
「そうなんだけど…ちょっと試したいことがあって。」
ちょっと思いついた事がある。
もともといずれやる予定だったことだ。
「よくわからんがそこを見てきな。」
「ありがとうございます。」
指示された場所を確認する。
どれどれ…鉄・銅・銀…お!蒼願石がある。
「銀と蒼願石をください。」
「まいどあり。」
さて、日も落ちてきたことだし晩御飯買って帰るか。
晩飯は適当にパンと挟む材料を買った。 後でサンドして食おう。
Topic:鉱石
異世界またはゲームでよく出てくるあれ。
鋳造するとほぼそのまんまインゴットになる純度高いあれ。
この世界では鉱石は結構安い。鉱山以外にも鉱石系の魔物とかが存在するため。
中継拠点でも売っているのは小物や消耗品(日常道具や投げナイフなど)を現地で作成することが多いため需要がある。
この世界は素材は安いが加工費が高い。
Topic: 刻翼
とある鳥系の魔物素材を加工した魔導具。
実は天然と人工の2種類がある。
今回のは人工物だが最低価格でも金貨10枚(約10万円)する。
筆先に魔力を流しながら魔術式を書き込むことで魔導具を作ることができる。
羽の方に魔力を通すと術式を剥がすことができる。
ただし剝がす場合は付与されている術式への理解が必要となる。




