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6 ベイビーズ


6回目にして「ユカリ」の登場、妹「まお」と

 ヨウジは、ユカリに会っていた。

 マーサの明子さんが連絡をとってくれたのか、ただの偶然なのかは知らない。

 電話があって、公園でみんなで遊びましょうと言ってきた。

 みんなって誰なんだと思いながら、めんどうな話でなければいいよと答えた。


 ヨウジは、四つになる男の子ふたりを遊ばせている。

 というか、ベンチに座っているだけなのだが、ときどき双子たちがじゃれてくるのでかまってやる。

 人なつこい笑顔はユカリに似ていなくもない。

 (マーサに勤める前には産んでたってことか……)


 母親のほうは、ヨウジには初対面の妹を連れてきていて、キャッチボールをしている。

 荷物の中からふたつのグラブとボールを出してきた時は、何かと思った。

 ユカリは、小さい頃は少年野球の女子部に所属していたそうだ。

 地がそうだからいまは色白なのだが、当時は真っ黒に()けていたという。

(おれが知らないことは、いくらでもあるんだなあ)

 ユカリたちは、四人で来た。


 妹のまおは姉につき合わされてやっていただけで、本格的な練習はしていなかったらしい。

 手投げでひょろひょろした山なりのボールを投げるけれど、コントロールも定まらない。

 ユカリは、最初は感触を確かめながら、妹に合わせてそっと投げていた。

 だんだん調子がでてきたらしく、ちゃんと肩をまわして強めの球を投げる。

 まおはグラブで頭を隠して首をすくめてしまった。

「ユカリちゃーん、ひどいよぉ」

 ヨウジは、足もとに転がってきたボールを拾った。


「おれが相手しますよ」

 グラブを受け取って、子どもたちはまおが見ていることにした。

 いたずら者らしい笑みを浮かべたユカリに向かって、軽く投げる。

 ユカリは、少しずつ下がってヨウジとの距離をあけていく。

 笑うのをやめて、唇を結び、力いっぱいの球を投げてくる。

(けっこう投げられるな)

 ヨウジのほうは、さすがに七分目くらいの力だ。

(キャッチボールか……何年ぶりだろう? まさか、相手がユカリとは)


「ヨウちゃん、まじめにやってよ」

 力を抜いていることがわかるらしく、不満そうだ。

 ヨウジはいったん動きを止めて、セットポジションをとってから大きく両手を頭の上に差し上げた。

 全力投球の構えだ。

 ユカリは、緊張した顔になってグラブを構えている。

 ヨウジは、投げるのをやめて、笑顔で言った。

「疲れたよ、休憩!」

 ユカリは口をとがらせながら、それでも歩みよってきた。

「まおちゃーん、ベビーちゃんと一緒になんか買ってきてよ」



 アメリカには離婚の手続きで行っていたのだと言った。

 相手は日本人だった。

 ヨウジにはよく聞き取れなかったが弁護士のようなことをやっているそうで、経済的な心配はあまりないらしい。

 べつに、ヨウジが聞く必要のある話ではない。

 説明してくれたのはよかったような気もする。

「お前、華奢(きゃしゃ)なわりに身体は締まってるもんな、気がつかなかったよ」

「へへーん、ヨウちゃんに遊び人はムリだね」


「ねぇ」

 ユカリが話しかけてくる。

「ヨウちゃんは、誰かを殺したいほどうらんだことってある?」

「なんだ、それ」

 ヨウジは、苦笑しながら煙草をとりだした。

「あるかもしれないな……でも、誰かをずっとうらむなんて、すごくエネルギー使うじゃん」

 考えながら、続けた。


「そのためだけには、生きられないよ」

 煙草に火をつける。

「ヨウちゃんらしいね」

 ユカリは、かすかな笑顔をつくって、唇の間からことばを投げる。

「ひとをうらんだり憎んだりする時にはね、きちんとそうしなきゃダメだよ」

「そうかなぁ」

「だって、相手にも失礼じゃん」

「わからないな……」


 ひさびさに、この会話の感じを思い出した。

 ユカリはそう言いたくなっただけなのだと、ヨウジは思う。

 自分には、そう考えるしかない。

 まおと子どもたちが戻ってくるのが見える。


 公園でヨウジとユカリがかわした会話は、それだけだった。

 きょう妹と子どもを連れてきたのには何か理由があるのか、これからまたつき合っていくつもりなのか。

 ふたりは、そうやって話を進めていくことはしない。

 その流儀だけは一致していたから、ヨウジはここに来たし、ユカリの顔を見れば笑った。


 ヨウジのほうは、何も考えないわけではなかった。

 こうやって連絡があれば自分はユカリに会いにくるし、子どもたちと遊ぶのもきらいではない。

(親戚のおじさんみたいなものにされちゃうのか)

(それとも、おれは試されてるだけで、ユカリのほうはおれを、恋愛や再婚の対象として考えてるのかな)

 現実的に簡単ではないこともあるが、とにかくそこまで話がいかない。

 それは、ふたりともそういう気持ちになった時のことだ。


 別れ際に、ユカリは子どもたちから離れて、ヨウジの肩を抱いた。

 むこうに何年もいたせいか、そういう仕草は自然だ。

 そしてヨウジの耳に直接、ある言葉を吹き込んだ。

「それは、その時に」

 ヨウジが小さく答えて、ユカリは笑顔で帰っていこうとしている。

 子どもたちに向かって手を振ると、親指を上げて応えた。

(へんな家族だなあ)とヨウジは思った。

(それにつき合ってるおれも、やっぱりへんなんだろうか……)



 コウは部屋に一人でいて、またヨウジにもらった名刺を見ている。

 名刺の裏にヨウジの携帯の番号を書いてもらっていた。

 念のためにケータイも教えといてよと、できるだけ軽く言ったのだ。

 さすがにそこで引っ掛かっては失礼だと思ったのか、ヨウジは躊躇(ちゅうちょ)せずに書いてくれた。

(あたし、何をしてるんだろう……)


 コウは、カウンターに入って店の手伝いをしたいとヨウジに言うつもりだった。

 カクテル作りに興味があるから……。

 しかし、うちはそういう店じゃないと言われたら、そこで終わる話だ。

(ふーん、じゃあいいやって言えばいいんだよね)

(もともと、そんなに大した話じゃないんだから……)

 コウは、そんなふうに考えようとしていた。


なんで子ども二人なんだと逃げる男性もいると思います

ヨウジは「やっぱりヘン」なんでしょうね、愛?

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