14 月あかりの途(みち)
「トラ箱」は泥酔者などを一時的に収容する部屋です
(白い天井だ……)
ヨウジが着いた時、ユカリは長椅子で寝かされていて毛布がかけられていた。
「トラ箱で寝てってもらってもいいんだけど、本人が帰るっていうんでね」
「ご迷惑をおかけして……どうも」
「こうなっちゃう人は常連になっちゃうもんだけど、彼女さんは初めてだね」
「はい、こんなに飲みすぎちゃうのは初めてで……気をつけさせます」
「お疲れさま」
担当の人は、毎日の業務だからだろう、手慣れた扱いという印象があった。
厳重に注意されるという感じではなかったので、いくらかほっとした。
「おい」
指先で軽く、ユカリの頬をたたいてみる。
起きそうになかったので、妹のまおに電話をかけることにした。
姉妹と子どもで住んでいると聞かされている。
すぐにまおが出て、ヨウジは事情を説明した。
「酔っ払ってるおねえちゃんを、子どもが寝てるとこに運んできてもねぇ」
「じゃ、おれのとこで寝かせときますか……」
まおがあまり驚いたり心配している様子ではないので、よくあることなのかと訊いた。
「そうじゃないんだけど、おねえちゃんがすることにいちいち驚いてられないっていうか」
「なるほど……」
担当の人がクルマを呼びましょうかと言ってくれた。
「いや、すぐ近くですから」
ヨウジは世間への体裁を気にするほうではないが、警察にタクシーを呼びつけるのはためらわれた。
白と黒のクルマよりはましだが……。
ヨウジの自宅へは歩いても二十分ほどだ。
「おぶって、なんとか行けますよ」
手助けをしてもらってユカリを背負い、警察を出た。
「ヨウちゃん」
歩き出してすぐ、ユカリが背中でつぶやき始めた。
(なんだ、照れ隠しに寝たふりしてたのか……)
「ごめんね、まおに迎えに来てもらうの、悪くってさ」
「おれじゃ悪くないのかよ……まぁ、こっから近いからな」
本当に酔っ払っている人間は素直にもたれてこないので、背負いづらい。
そうではなくてよかった。
「あたし、ジロウくんとケンカしちゃった」
「……どこでどうすれば」
ユカリを背負いなおす。
「お前とジロウがケンカするんだよ」
ユカリは、マーサの一件をきれぎれに話した。
「そりゃあ、ひでえな」
「あんなこと言うつもり、なかったんだよ……なんか言いたくなっちゃって」
「ユカリらしくないな……おれからも言っとくけど、自分でちゃんと謝れよ」
「わかった」
「そんなに気にしないよ……酔っ払いの相手は慣れてるんだから」
ヨウジは、ユカリがいつもこんなふうに弱々しく素直で、自分の背中によりかかってくれればいいと思った。
ユカリの重みと体温を感じながら、そう思った。
(でも、いつもいつもじゃ困るかな)
少し、思い直した。
「ねぇ」
「ん、なんだよ」
「ヨウちゃんのうちに着いたら、ぎゅーっとしてくれる?」
「そんな気になんねえよ」
「……大っ嫌い」
「はいはい」
「……はいは、一つだよ」
それは、マスターの口癖だった。
「もう、降りて歩けるんじゃないか」
ユカリは返事をしなかった。急に重くなる。
(ほんとに寝ちゃったか……)
まだ、道のりは半分ほどだ。
苦労人ヨウジw




