表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/62

書けない手紙

夜、会社の一室。窓の外に街灯の灯り、手元には白紙の便箋


アドリアンは、机に置いた便箋の前で、しばらく身じろぎもせず座っていた。


手紙か…


戦地では手紙は届くのが兵士の心の支え…

たくさんの手紙がやりとりされていた…

それも敗戦間近になると混乱から滞りがちだった…

アドリアンの部隊にもたくさんの手紙が届いていた。

でも、アドリアンとアルト達には届かなかった…

アドリアンはそれをなんとも思わなかった…

思わなくなっていた…

手紙が来るような人間ではない…

人並みのなにかを求めてはいけない…

そう思い続けていた。

だから自分だけ手紙が来ないこともなんとも思わなかった。

そして、それはアルト達も同じだった…


書こうとしてもペンは手の中で重く、指先だけが微かに震えている。


最初の一行が書けない。

「レーネ、ルーカスへ」――そこから先に言葉が出てこない。


彼はそっとペンを置いた。

なにを書けばいいんだ。

浮かぶ言葉はありきたりの元気かとかの言葉。

それからは申し訳ない。すまなかった。そんな情けない謝罪にもなってるのか分からない言葉だけ。

こんなものを送ってあの子たちは今更なにを思うのか。

見放して見放されて無いもの、存在しないものと思いながら生きてきたんだ。

そうしないと生きてこれない。前を向いていけない。それはあの子たちも自分も同じのはずだ。

もう別の方向に進んでるのに今更過去に戻って引き戻すことはあの子達には迷惑なだけなのでは。

無いはず、存在しないものの手紙がなんの意味があるのか。

一文字も書かれてない白紙の便箋は存在しない父親のようだった。


ところがアルト達の事を考えるとペンが動こうとする。

戦地でのこと…

故郷を訪ねたこと…

書くことがあった…

だが、子供達には謝罪と後悔しか書けなかったのに…






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ