094話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:強敵の気配】
<イツキ・ルノワール サイド>
「「す・・すみませんでした」」
「もう夜だし・・明日の朝出発するわ」
移動のため空を飛ぶと、フィーネとウランが足場がないと怖いと騒ぎ出した。
仕方がないのでミッチェルを巨大化させて私のプラズマで浮かせて足場として移動することに。
ミッチェルはシマエナガの姿では1m以上のサイズになると重くて飛べないらしい。
そうして飛行を再開すると、今度は「「速すぎます!」」というので都度調整・・・最終的に時速10km程度になり、あっという間に日が暮れた。
夜は魔物が活発だ。このままでは襲われ放題なので野営して明日の朝に出発することにした。
「バルダキン、ここの周囲に結界よ」
『おおっ〜!イツキ様みずからご命令を・・全力で任務を果たします!』
『私は?・・私にご命令はないのでしょうか?』
「え!?エウスリーネか。う〜ん、なら周囲を明るく照らしてくれる?」
『はい!』
フィーネの体内から現れた聖剣エウスリーネ。そのまま上空にとどまり、ぺかー!と発光する。
「イツキ様。二人は野営具ではありません。そういった雑務は・・」
『『フィーネだまれ(りなさい)!』』
「ううう、二人の私の扱いが・・ひどい」
私が滅びゆく聖具の二人を再生・改造した事で創造主みたいな立場になったのよね。
育ての親である聖剣・聖盾の二人を取られたように感じて、拗ねた子供みたいなフィーネは放っておきましょう。
「今日はカレーでも食べましょう」
「「「カレー?」」」
通常、魔力でサクッとカレーを作成するが、私はじっくりと煮込んだほうが好きだが、なぜか魔法では再現できないので、寸胴に完成しているカレーを入れて更に煮込む。
あと、色は黒にした。以前、マーキュリー教会のみんなに元の色で出したら不評だったのよね。
「なんですか?この暗黒物質は」
「これが異世界の食べ物、カレーですか?面妖だが匂いはいい!野菜に肉、バランスも良さそうだ」
「スパイスで黒く見えるのよ。早く食べなさい」
興味津々のジェス以外はしぶしぶ口を付けるのだが、一度食べたらその複雑で濃厚な味に手が止まらなくなる。
なお、ミッチェルにだけは元の色のカレーを与えた。
予想通り、あれと勘違いして「ようやく来た!」とばかりに目をギラつかせて食べていた。
この行為はフィーネの聖なる力を得るための儀式のようなものなので仕方がな、と諦めた。
フィーネに知られないためにも数日置きに提供しようと思う。
ちなみに、ジェスにねだられて他にもいくつか食材を出してみた。
納豆やくさやはジェスのみクリア、梅干しは全滅。果実はどれも大人気だった。
「これ売りましょう!『納豆を?』違います!この果実、国王に献上出来るレベルですよ。これだけで貴族位も夢ではないです」
金の匂いに狂ってるリンダの鼻息が荒い。が、確かにいい手かもしれないわね。
そうすると入手先が問題よね・・なら魔神オーラルと契約した対価とか?
あいつを等価交換の神に仕立てるか。
たまたま魔神を祀る民を魔物の大群から救った。
その際の等価交換として神の果実を作る魔術を伝授されたとか?
他の神が国教だから、特に信仰はしていないが果実は魅力的なので使用し続けている、ってところかな。
よし!これで行きましょう。貴族位を得るために手札は多いほうが良い。
我らの経路上にあるコディーマ伯爵領にリンダの親の商会があるそうなので、そこで流通を開始しようと思う。
食後に出したオレンジジュースをまた絶賛されて、ようやく落ち着いた頃。
「明日は邪魔にならないように早く寝なさい!」
「「・・・はい」」
「バルダキン、遮音して。エウスリーネは消灯よ」
皆を寝かせた後、私は寝る必要がないので訓練を開始するが・・その前に。
宝物庫で手に入れた魔法銃を試してみましょう。
この魔法銃は魔力を流せば、銃にセットされた魔法石と魔法陣で対象の属性魔法が射出される仕組みだ。
これは初期型で魔力量を調整する弁と魔法陣がない。その気になれば強力な魔法弾を打てそうだ。
今回は自身で作った氷属性の魔法石をセットして、殺傷能力の低い氷の弾丸を射出するようにした。
「あくまでも主戦力は剣、銃は相手の注意をそらす程度の威力でいきましょう」
いくつか試射をして、弾丸は球形にして無回転で射出するようにした。
すると野球のナックルのような無自覚な変化をするようになったので、さぞ相手も戸惑うことだろう。
また別の効果もいくつか用意しているけど、それは実戦で確認するつもりだ。
剣のほうはだいぶ感覚がつかめてきた。
当初はブオンと大気に抵抗するような音が出ていたが、現在は大気を切り程のブレのない剣筋でシュッという音になっている。剣技についても・・・
「蛇」 大気の抵抗を利用して剣身を歪ませながらの突き
「断」 大気を切り裂く剣筋、ミクロのズレも許さない無音の横薙ぎ
「烈」 剣の腹で上段から振り下ろす力技、音速超えの衝撃波を発する
「塊」 下段から地面ごとえぐり土塊を巻き込んだ全体攻撃の切り上げ
「万死」 すべての力を剣に集中する一撃
これくらいあれば大丈夫でしょう。
その光景を、聖剣と聖盾の二人はあきれたように見ていた。
これくらいあれば・・・って、あの威力でイツキ様は本当に敵を殺さないつもりなのだろうか?
傍から見たら剣聖レベルの剣技に感じるのだが?
まあ、その対策のために常時発動の奥義もあるらしい。
基本的に二文字の技が奥義らしいが、私達はまだ見たことはない。
「万死」以外の奥義はイツキ様が与えた技で与えた【死】を治癒する「佳夢」。
敵が死んでも、瞬時に重症程度まで回復する奇跡の技だとか。
だが、そのペナルティーとして恐ろしい対価が存在する。
敵がイツキ様に殺された場合、治療までの数瞬に人生の恥部の数々を走馬灯として視聴させられ、それをイツキ様と同時視聴出来る強制特典?がついてくる。
奇跡の復活をとげてたとしても、眼の前には自分を殺した挙句、弱みまで握った悪魔が・・・まあ、死ぬよりはいい?のだろうか。
「ふ〜、いい素振りだったわ。フィーネとの修行でしっかりイメージ出来たわ」
『ふむ、人のレベルでこれなら神器の我としても満足だ』
これなら魔法を使えなくされても良いところまでいけそうね。
基本的に戦闘での魔法は禁止。唯一の魔法は魔法銃の初級クラスの攻撃だけ。
この縛りでどこまで楽しめるかしら。
その後は森の中を縦横無尽に駆け回り、夜が明けた頃に皆の元に戻る。
朝食は魔法で作ったおにぎりと味噌汁で済ませた。
その際、いたずらで具材に納豆と梅干しをひとつずつ紛れ込ませたところ、納豆はフィーネ、梅干しはミッチェルに当たり、それぞれこの世の終わりのような顔をしていた。
特に梅干しのような酸っぱ辛い味は未知の味らしく評判が悪い。
「さあ、いくわよ」
「はい!いや〜、今日も楽しみだな〜」
「「・・・・」」
ジェスは元気だが、残りの二人は悲痛な顔をしている。
まあ、今日一日乗れば慣れ・・・ん?
「戦いの気配・・どこかで戦争でもしているのかしら?」
神眼の範囲を広げて気配を探ると、領都が魔物に襲われている・・それも1匹の魔物に手こずっているようだ。
「ラオクス子爵領より先のコディーマ伯爵領に魔物が襲撃しているわ」
「え!?うちの実家・・あ〜、あの家族なら商機!って暗躍してそう」
「そうだな、うちの親も一緒に・・心配するだけ無駄だ」
「・・・あんた達の家族、どんだけしぶといのよ」
とりあえず、その魔物で剣術を試したいけど、こいつらを連れていたら間に合わないだろう。
「あんたたちは発氣で走りなさい・・フィーネは昨日開花させた発氣を走りながら安定運用させる事!いいわね!」
「「「はい!」」」
フィーネに発氣を開眼させれば苦しみで移動に気づかないと思ったのだけど、思いの外すんなり使いこなしている、嬉しい誤算だわ。
私は体にプラズマを纏い、コディーマ伯爵領都まで全速力で移動する。
これなら1時間くらいで行けそうね。
さて、どんな魔物なのか楽しみだわ。剣術の初披露に相応しい魔物だといいけどね。




