090話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:ぶらり一人旅①】
<イツキ・ルノワール サイド>
今回の目的は、当初の1年間の修業時に「ここはやばい」と思った場所が2箇所あり、その再訪だ。
あの時は、当時の実力では危険と判断した場所なので面白そうなものがあるはず。
でもその前に寄りたい所も2箇所あるのよね。
さて、寄り道先に行くまでの間に私も修行をしないと。
魔物が襲ってきたらまず攻撃を受ける。そしてそれより若干弱めの力で反撃する修行だ。
手加減は覚えてるけど、『敵を殺さない』という条件が付くと難易度が更に数段階上がる。
まずは敵の攻撃を受けて、敵の強さを把握してから攻撃することで手加減の精度を上げるつもり。
・・・最悪失敗したら速攻で治療して誤魔化せば良い。
あ、ちなみに盗賊などのごろつきに対しては女神から殺害許可をもらう必要なく瞬殺出来る。
「金を出せ」「お前を売り渡す」「武器でおどされる」等の殺害承認コードを引き出せば、あとの処理は自由だって。
魔物にも適用されれば楽なんだけど、あいつらの攻撃はあくまでも本能なので除外されるそうだ。
あと、オーラルに頼まれた用事もある。それは小精霊の繁殖だ。
ゲームマスターからオーラルに依頼があり、それをあいつは即断即決で引き受けて・・私に丸投げした。
安請け合いしたオーラルにはおやつ禁止3日間の罰を与えたけど、実は心の中では称賛した。
何故なら、これで小精霊達の支持を得られるからだ。
小精霊の数に余裕が出たら、ぶんぶんチャッピーのような特殊精霊を作成するつもり。
もちろん無理矢理ではなく、計画を説明して小精霊達から参加を募る。
最終的には私の謎空間に移住してもらい、あの無駄に広い空間を自然豊かな空間にする計画だ。
なお、繁殖の方法は小精霊を見つけたら良質な魔力をたっぷり与えるだけで良い。
小精霊を見つけたら魔力球を作ってそこに閉じ込めればその魔力を消費して勝手に増殖してくれる。
今回は魔力球を3重の玉にするので、小精霊が魔力球を消費し尽くした頃には大量の小精霊が育っている算段だ。
見つけた精霊に魔力球を与えながら森の中を移動していると、グリーンウルフ8体が現れた。
あの程度ならゲガもしなさそうなので大の字に寝っ転がってみた。
この奇行に警戒するかな?と心配したが、こいつらノータイムで襲ってきた。
首、両手、両足、腹部に噛みついてガウガウいっているが、既に細胞レベルまで鍛えあげた私の体にはくすぐり程度の感触だ。
2分ほどグリーンウルフのやりたいようにさせていたが・・・もう飽きた。
がばっ、と上半身を起こすと驚いたグリーンウルフが距離を取る。
が、すぐに私に飛びついてガウガウじゃれてくる。
ほんとアホだわ、こいつら。しかしデコピンで死にそうだし、どうしようか?
とりあえず噛みついてきたグリーンウルフの手足のいずれかを1本ずつ折ってみた。
「ぎゃん!」「がっ!」「ぎぃ!」
思わぬ反撃を受けて慌てて逃げるグリーンウルフ。ついでに1匹を捕まえて治癒をしてみた。
癒やしを与えたら、仲間になりたそうな瞳を向けてくれるかな?
そう期待したが、治療後に解放したら慌てて逃げていった。
やはりネームド達が連れてきた魔物達とは違う。申告通り特異な個体なのね。
起き上がると服がぼろぼろになっていた。何も考えずに襲われたからね。
始めから魔法で作っておけばよかったけど、すっかり忘れていたわ。
魔法を使って町娘姿から今度は騎士風の制服の装いに変更する。
ついでにマントも・・幼女だからコスプレみたいね。
その後は小型の魔物に何度か襲われたけど、攻撃の効果がないと分かるとすぐ逃げてしまう。
大物の襲撃を期待していたけど、期待外れのまま目的地の銀の山脈の麓に到着したのは深夜の時間帯だった。
この近くでフィーネが修行しており、リボンの報告ではだいぶ成長しているそうだ。
「フィーネの最終試験をしましょう。【宵闇剣】狂騎士モードよ」
『うむ、準備は万端だ』
小型の太陽をプラズマで生成し、それを胸辺りに装着すると太陽から放たれるコロナ。
そのコロナに左手から溢れ出した瘴気を巻き込み、そのままイツキの身を包み込む。
コロナが定着すると、そこには汚れた瘴気をまとう漆黒の鎧に包まれた2m程の存在が佇んでいた。
そしてその手には、まるで瘴気を固めたような両手持ちの大剣が装備されている。
『ドウ?オゾマシクデキタカシラ?』
『その姿で魔王国に立ち入ったら総攻撃を喰らう程には』
『イイワネ。カエリニヤリマショウカ』
『やめておけ、魔王の胎教に悪い』
瘴気に包まれていることで声がおかしくなってるわね。
その姿のまま周囲を瘴気で汚しながら目的地に移動を始める。
すると、私の瘴気に反応したのか?体長10m近いクラスのファイヤータイガーを始めとした強そうな魔物達がわらわらと現れる。
『お前のような汚れたものが来る場所ではない。帰れ!』
その言葉と同時に脅し程度の炎を浴びせられたが、瘴気の前では無意味だ。
ずいぶんと偉そう・・・あ!これは装備を解除したほうが面白そうね。
纏っている瘴気や瘴気で作った装備をすべてエネルギーイーターで吸収すると、周囲の魔物達から驚きの声が上がる。
「瘴気を操っている?」「あれ?ちっさくなった」「かわいい!」
「邪神のたぐいでは?」「少しでも違和感を感じたら殺せ!」
誤解が重なって周囲の殺意が最高潮になってきた、わくわく。
でも甘いわね。瘴気を持つ危険極まりない存在からはそれこそ脱兎のごとく逃げないと。
「これでいいわよね。これから知り合いに会いに行くの。じゃあね」
無遠慮に立ち去ろうとすると、警戒しているファイヤータイガーを押しのけて6本腕のゴリラが襲いかかってくる。
そのまま私を叩き潰すように十数発の拳を受けた。
大量の土埃が舞う中で「いきなり何を!」「あれは上位存在かもしれん。ここは穏便に」と魔物達の間でも揉めているようだが、もう遅い。
あのゴリラは感情の制御も出来ない若い個体なのだろう、だが、攻撃でちょっと痛みを感じた。
チクチク程度の痛みだけど、反撃してもいいわよね?
風魔法で土埃を吹き飛ばすと、6本腕ゴリラの懐に入り風刃を発動して右3本の腕を下から切り上げる。
「あぎゃーーー!!!」「「「!!!」」」」
油断しすぎ。魔物達がぎょっとした顔を私を見ているのが笑える。
私が大怪我でもしたと思ったのだろうけど、こんな攻撃では鍛え上げられた体は壊れない。
「ねえ、ファイヤータイガー」
「な・・・なんだ?」
「こちらは瘴気を解除して、目的まで告げたのよ。なのに攻撃された。皆殺しでも文句は言えないわよ」
「そ、それは・・いやいや!不法侵入したお前が悪い。死んでも仕方なし!」
「反省なし、ね・・・ならお仕置きしてあげるわ!」
再度、瘴気の装備を展開して痛みに転げ回っている6本腕ゴリラの右足に、瘴気の大剣を突き立てる。
そして、既に攻撃を受けているファイヤータイガーの左足先を大剣で切り裂く。
「「あああああああああーーーーっ」」
「ククク、クルシミノタウチナガラ・・シネ」
そう話すと、周囲の魔物達の戦意が失せていき、私から距離を取る。
その動きに紛れて怪我をした2体の魔物を何処かに連れて行った。
へー、仲間意識は高そうね。
「ソレガセイカイヨ。ワタシノジャマヲスルナラ、ショウキヲプレゼント」
「「「・・・・」」」
ビビったわね。これでようやく先に進める、と思ったのだけどまた邪魔が入る。
「そこまでだ!」「何事だ!?」
その声の方に目を向けると、天狗のような存在が3体やってくる。
「オマエタチモジャマヲスルノ?」
「ああ、そうだ!」「化物が!」「いや、待て!」
血気盛んな後ろの若い2個体が、先頭の天狗の静止を振り切って攻撃してくる。
「「風縛陣!」」
若い個体2名がそう叫ぶと、私の周囲から風が沸き起こりそのまま私を包み込む。
瘴気の剣でサクッと切れるけど、面白くないので装備を解除する。
解除すると、ガツン!ガツン!と打撃を受ける。その攻撃で風の刃が私を襲っている事に気づく。
へー、閉じ込めと同時にその対象を切り刻む、攻防一体の魔法なのね。
でも、魔力を使いすぎて内部の攻撃は雑、おそらくは3人で使用する魔法なのだろう。
とりあえず、全力で風壁をぶん殴ってみると、大きく歪んだがすぐに元に戻る。
ふむふむ、外の二人がコントロールしているようね・・どのくらい持つかしら。
新たなサンドバッグを期待して、全力で拳と蹴りを叩きつける・・蹴り1拳2の3発で終了した。
「「ぐあああああっ!?」」
風壁が解除されると同時に叫び声があがり、二人の天狗が地に落ちた。
私の攻撃で、大量の魔力が一気に消費されたことで二人は魔力切れをおこしたようだ。
「・・・お主、なにが理由でこのような事をする」
リーダーと思われる個体が話しかけてきたが、一番初めにそれを言ってほしかった。
今までの経緯を説明し抗議すると「それについてはお詫びする」と詫びられた。
「だがな、瘴気は魔物達の天敵だ。有無を言わさず攻撃しても仕方がない。この事は理解して頂きたい」
「だったら、私の行動も問題ないわよね?攻撃をうけたのだから」
詫びる気などまったくない。強引な言い回しで責めると押し黙る天狗。
さあ攻撃してきなさい、と期待したのだが。
「可愛らしい少女なのに、既に瘴気の力に溺れているようだ。大事になる前にその傲慢を聖女様に浄化いただこう」
「・・・は?」何故か諭された。
本人からしたら親切心なんだろうけど余計な・・・ん?聖女?
そういえば、フィーネの下に遊びに行くリボンが「あいつ魔物達から聖女とか言われてるwww」とか言っていたわね。
「聖女?・・自身をそう呼ばせるなんて傲慢な女ね。私が厳しく躾けてあげるわ」
「がははは!夢見がちな小娘だ。だが、我が偉大なる聖女様はご立派な方。お前のような傲慢な小娘も正道に導いてくれるだろう」
「(この野郎)・・・配下の責任は聖女とやらにとってもらいましょう」
「くくく、貴様のような魔物がどれだけいたか。まあお前は子供だ、お尻ペンペンでもされて改心するんだな」
・・・フィーネ!覚悟しておきなさい!
過去の自分を恥じ、今ではイツキに認めてもらおうと懸命に修行に励んている・・・品行方正に務めるフィーネに、邪神の魔の手が。




