089話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:ゲーム本番開始準備⑥】
<イツキ・ルノワール サイド>
「訓練開始から11ヶ月、残りの1ヶ月は自主練にするわ。その間は調査に出かけるから」
そう宣言すると、何故か魔物達を含めた全員が雄叫びをあげて号泣する。
「なに?残り1ヶ月も私に鍛えてもらいたかったの?」
なんなら更なる素質を見出すためにラストスパートする?
だが、そういう事情ではないようで・・・
「いえ・・ようやくイツキ様の・・虐殺?・・暴力?・・いえ訓練でしたね。その訓練から解放された・・歓喜の涙です」
代表してチワワが答えたが・・・まあ、地獄の訓練だった自覚はあるわ。
「ようやく・・毎日・・死ななくて済むと思うと・・ううっ」
珍しく生意気な黒ブサまで泣いているわね。
毎日、何人か死んでたものね・・すぐに治せる神聖魔法って便利よね!
「死んだり大怪我を体感することで限界を正確に把握出来る。なかなか体験できない貴重な経験なのよ」
「はい・・毎日危険が山盛りで・・今ではイツキ様が100m圏内に居るだけで危機感知が発動します」
「あはは・・チワワも面白い冗談を言うのね」
ぴりっ、私の殺気が微量漏れた瞬間、チワワが神速で逃げて黒鬼父を盾にしている・・本当に危機感知能力が向上しているわね。
それにくらべて・・・
「イツキ様、ずっと居てくれないと困ります!」
がしっと抱きついてきた織田信姫ちゃん、かかわええな。
「もっと殺して・・怪我させて・・皆をボロボロにしてくれないと・・聖魔法の訓練にならないじゃないですか!」
ん?・・・ちょっとヤバ目に成長してない?
「皆が絶望の目をしているところに颯爽と現れて治癒するワ・タ・シ・・ああ、治癒したあとのあの有象無象からの羨望の眼差しが・・快感なのです!」
え?・・・信姫ちゃん、ちょっと何言ってる・・いや、それ分かるけど。
「そうですか?なら表現を替えて・・汚いボロボロの雑巾が、小汚い雑巾程度に戻るって・・なにか面白くないですか?」
・・・理解出来てしまった。これも私の教育の賜物なのね。
「まあ、かわいく成長しているようで何よりだわ」
頭を撫でてあげると恍惚とした顔をする信姫。
「えへへ、ありがとうございます」
「ゲームクリアしたら信玄のところに連れて行ってあげるからね」
「楽しみです!」
この成長度合いならアレを見ても大丈夫でしょう。
「さあ、信姫へのプレゼントよ。訓練最後の今日は瘴気で半殺し!・・嫌なら私に勝ちなさい!」
「きゃ!イツキ様ありがとう!」
「「「「ぎゃーーー!逃げろ〜」」」」
そうやって逃げるから追われるのよ。発動前に私を殺すつもりでこないと駄目ね。
「今日は初出の技よ【プラズマアーマー:忍びモード】」
小型の太陽をプラズマで生成し、それを胸辺りに装着すると太陽から放たれるコロナがイツキの身を包み込む。
コロナが定着すると、身長1・8m程の漆黒の忍び装束に身を包むイツキが現れる。
ふふふ、これで体のサイズとかも変更できるので便利なのよ。
裏で悪いことする際に使用する、正体を隠すには最適よね。
そしてイツキの左腕に擬態している神器に話しかける。
「【宵闇剣】、今日は投げ物で行くわ」
『それはかまわないが、周囲の汚染はどうする?』
「それも信姫達の良い訓練になるわよ」
【宵闇剣】は修行の末、エネルギーのコントロールが出来るようになっている。左腕の擬態はその成果だ。
会話をしていると、いつの間にか後ろに移動した信姫が抜刀、白い刀身が私の胴を切り裂く。
それをサクッと回避してから話しかける。
「わおっ!信姫、また腕を上げたわね。【天孫降臨:アマテラス】にはもう慣れた?」
「はい、素晴らしい刀です・・これでイツキ様をバラバラに切り裂いてから私の聖魔法で私色に再構成して・・・ああ、胸がトキメキます!」
刀身を燦かせて私を襲いながら言う言葉かしら・・・出来れば別のものでトキメいて欲しいけど。
『なあ、イツキよ。信姫ちゃんあれでいいのか?』
「ああ、神聖と暗黒の属性はね、そこに至るためにはまともでは駄目なのよ。人の常識から逸脱しないと」
『ほう、なるほどな(お前を見ると納得だ)』
そして信姫が更に成長するために、ライト◯イバーそっくりの【宵闇剣】を参考に【天孫降臨:アマテラス】を作ったのよ。
今は、聖属性を込めると薄っすらと白い刀身になるけど、神聖属性の高みに至った時にその刀身の色が何色に変わるのだろうか?楽しみである。
ちなみに、私がアマテラスを使うと眩しすぎる金色の刀身になる。
「今度はこちらからね、瘴気手裏剣乱れ打ち、オート追尾付きよ」
イツキの左手から放たれる瘴気で生成された大量の手裏剣が周囲の生き物に無差別に襲いかかる。
「宵闇剣、魔王石はどう?」
『ふふふ、こいつはアホで使いやすい。都市の幻想を見せれば力を解放して馬鹿みたいに襲いかかる。その瘴気を使い放題だ』
魔王スキルを封印した魔石は宵闇剣のエネルギー体として活用している。
ただ、そのままでは流石の魔王石も枯渇してしまうので、幻影の街や人々は私のエネルギーを大量に使用して生成している。そしてそれを魔王が襲い、糧にして瘴気を生成するのだ。
今は魔王石で代用することにして、調整の難しい意識体で刀身を作るのはゲーム世界をクリアしてからにすることにした。
そして、7歳の儀式で能力を封じられたとしても、この力で戦っていける。
ゲームでは神聖属性を主体に【聖女】として戦うつもりだけど、もし色々封印されたら瘴気の醜悪なる力【大魔王】として戦うことになる。
これは女神への牽制だ。余計なことをすれば世界を瘴気まみれにするぞ!とね。
私はどちらでもかまわないし、他にも色々仕込む予定だ。
さて、7歳の儀式までに女神がどちらを選ぶのかしらね?
瘴気が蹂躙している訓練の方は、みな瘴気に苦戦している。
発氣である程度は防げるが、魔王石から発する瘴気は濃いし、更にそれを私が強化しているのでダメージはどんどん蓄積される。
そして、刺さると体内に瘴気が侵入して猛威を振るうため地獄の苦しみとなる。
その除去は発氣の精密コントロール必須だし、聖魔法での除去なら信姫達の修行になる。
その後も手裏剣を無限に散布したあとは、死屍累々の状況になった。
「だめね、最低でも3時間は耐えなさい」
「「「「・・・・(むり)」」」」
「ほんと、だらしないですよね・・・私も含めて」
「信姫は進歩しているわ。篭手【天孫降臨:天表春命・天下春命】の方はどうかしら」
「瘴気を浄化しながら防御出来ました。ですが軍団防御は出来ず、アマテラスとの併用も難しいです」
右手の天表春命が小盾を大量に飛ばし軍団自体を守り、左手の天下春命大盾で自身への攻撃を防ぐ。
使用者が攻撃を感知出来れば自動的に防御してくれる優れモノだけど、周囲感知と魔力制御に求められる精度が高難易度なのよ。
「そうね、慣れるまでは軍団防御の天表春命だけに集中したら?」
「はい、色々と試してみます」
「ふう、訓練は苛烈なのですが・・参加出来ないとそれはそれでさみしいですね」
なお、魔王チワワについては先日ご懐妊が発覚したため、今回は不参加だ。
女の子の魂がチワワの周りをうろついていたが、見かけなくなったので着床したのだろう。
そう話して訓練を制限しておいたので妊娠対策は万全だ。
ただ、それ以降浮かれた黒鬼父が暴走気味に張り切っており、逆に軍の動きは悪くなっている。
「なあ、信姫。軍編成が落ち着かないから、あいつ外すか?」
「はい、魔王チワワの専属護衛にしましょう」
・・・あいつがあそこまでポンコツになるとは思わなかったわ。
「じゃあ、これから出発するからあとはよろしくね」
「「はい!」」
「オーラルは今回お留守番よ」
「分かっているわ、あと一ヶ月で完璧にするから楽しみにしてなさい!」
「がんばってね」
「あ、そうだわ。不在の間の1ヶ月分の甘味をたっぷり生成しておいたわ・・待ちなさい!ここを片付けてからよ。あと手洗いは必須よ!」
「「「・・・分かりました」」」
「あ!メロンパンは?」「各種あるわよ」
大宴会で披露して以来、この娘達はすっかり甘味の虜なのよね。
なお、私の目的は銀色山脈の未調査地域の確認だ。
子爵家を出たあとの1年間の修行中に立ち寄るのが危険で避けた場所が2個所あったのだ。
今ならどんな危険も対応出来る。そこで何が出てくるか楽しみだわ。




