55.待ち望んでいた知らせ
「あの、これ、忘れてますよ」
「え?」
振り向くと、目の前にハムがあった。
「え?」
ぼうっとしていて状況把握ができない。そんな私に又声がかけられる。
「買い物かごに残っていました」
ああ、これは私が今買い物かごに入れたハムじゃないの・・。ぼうっとしていてカゴに残っていたのを見落としてきたらしい、とようやく理解する。
「わざわざすみません!ありがとうございます」
気がついてわざわざ追いかけてくれた親切な方にお礼を言わないと。慌てて私は顔を上げて
その人を見た。
・・息が止まる・・かと思った。だって、目の前にいたのは・・何これ、妖精?
そう思えるほどに端正な顔立ちをした、背の高い若い男性。しかも・・。外人?
瞳がとても美しいブルーグリーン、髪の毛はちょっと長めでライトブラウン。北欧系の人にも見える。
「・・Thank you very much?」
軽くパニくりながらもとりあえずそう言ってみた私に、その人は、
「・・いや、僕、日本語しゃべってるんですけど」
と笑った。それに気がついて私は真っ赤になる。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、よくあることですから。見た目がこれですからね。気にしないでください」
感じのいい人だなと思った。笑顔が何となく懐かしい。誰かを思い出させるような・・。
「日本語お上手なんですね?」
そう聞くと又苦笑される。
「一応、僕日本人なんです。国籍は日本で」
えっ!私、又やっちゃった?!
「重ね重ね、すみません・・!」
「気にしないでください。今まで会った人ほぼ100%に、同じこと言われてます」
その言葉を聞いて、反射的に口から出てしまった。
「言われ慣れてるからって、言っていいことにはならないです」
その人はちょっと目を見張った。
「そんな風に言われるのは初めてですよ」
そういうと綺麗な目を細めて笑った。
(わぁ、綺麗な笑顔・・)
思わず見とれてしまう。そして、自分がほぼスッピンでリップも塗って来なかったことを思い出した。でも、かなり年下っぽいし、どっちにしても関係ないか。私はもう一度お礼を言ってから、立ち去ることにした。
「本当にありがとうございました。では失礼します・・」
と、その人も歩き出しながら、更に話しかけてきた。
「車まで持ちましょう」
そして私が2つ持っているマイバッグの1つに手を伸ばす。
「あ、大丈夫です。車じゃないんです。歩きなので」
「あ、そうなんですか。この近所にお住まいですか?」
「ええ、まぁ」
言葉を濁す。すると、すぐに察したようで、
「今度は僕が謝る番ですね。不躾に女性に住まいを聞くなんて」
なんだか不思議な人だなと思った。通りすがりのアラフォースッピン女にこんなに丁寧に対応してくれて。悪い人ではなさそうだけど・・。暇なんだろうか?
「あの、僕もここから割と近い所に住んでいるんです。車だけど」
いきなり自分の住んでいる場所に言及してきた彼にちょっと面食らう。うん?それで?
「・・僕、早良海、といいます。「早」「良」に「海」で、さわらかい。」
自己紹介までされてしまって・・近所のスーパーの前で通りすがりの人とこんな会話したことないよ・・。私は本格的に困惑し始めた。
「あの、怪しい者じゃないって言いたくて。伝わってないですか?」
いかにも困ったように眉毛を下げて言ってくる。なんだかかわいい。思わず笑いだしてしまった。
「なんでこんな必死になってるんだろう、僕、変ですよね、すみません」
その端正な顔をちょっと赤らめて彼・・カイさんは言った。
「いえ、変じゃないです。私は長崎瑠璃子といいます」
私も自然に自己紹介していた。それを聞いた彼はすごくいい顔で笑った。
「長崎瑠璃子さん、ですか。初めまして。僕、いつもは本当にこんなことしないんですよ。初対面の人に。変な奴だと思わないでくださいね」
「大丈夫です。そんなこと思わないです。嬉しかったです。本当にありがとうございました」
心からお礼を言った。そして、いいころ合いだろうと思い、
「それじゃあ失礼します」
と頭を下げて家に向かって歩き出そうとした。すると、又、カイさんが1歩大きく私の前に回り込み、引き留めが入る。何なの?
「あ、あの・・よかったら連絡先、えーと、ラインの、交換してくれませんか?」
「え?!」
思わず大声をあげてしまった。
「何で?」
心からの叫びである。
「僕、あなたと又話がしたいです。もし嫌じゃなかったら、友達になってくれませんか?」
・・なるほど。こうやって友達は作るのか・・。(多分違う)でも、こういう出会い方もアリかもね。そういうわけで、私はその初めて会ったばかりの、えらく綺麗な顔の、外人にしか見えない日本人男性とライン交換をすることになったのだった・・。
引っ越して来て初めての友達。なんだか不思議な成り行きだったけど、悪くはない。それにしてもあの人、誰かを思い出させるんだよね。シェインともちょっと違うし。誰だっけ・・。
「・・なんであんなことしちゃったんだろう」
スーパーからの帰り道、車を運転しながらカイは独り言ちる。
(あの人、信じてくれたかな。あんなことしたの、今日が生まれて初めてだってこと)
そして、今別れてきたばかりの、初めて会った女性の顔を思い浮かべる。全く化粧っけはなかったけど、大きな目と彫りの深いエキゾチックな顔立ちが、綺麗だと思った。カイよりはもしかしたらだいぶ年上だけど、なぜだか、興味を惹かれた。雰囲気が良かった。まず、彼女の左手の薬指に何も嵌っていないことを確認していた。
(何、これって・・一目ぼれってやつ?まさかね・・)
カイは今まで一目ぼれの経験はない。もともと惚れにくいタチだし、会った一瞬で人を好きになるなんてありえないと思っている。でも、今回はなんだか胸が騒いだ。このまま何も聞かずに別れたらいけないような気がしたのだ。よくわからないけど、ラインを交換できて、その胸騒ぎは治まった。
(長崎瑠璃子さん・・か。不思議な人だな。何なんだろうな・・)
その頃、時間も空間も超えた、ある場所にいる2人に、ある知らせが届いた。
そして、その知らせは彼らをとても喜ばせた。彼らが待ち望んでいた知らせだったから。気の遠くなる年月を経て、もつれていた運命の糸がようやくほぐされ、ついに正しく結ばれたのだ。
その頃各国の天体観測所で不思議な光の帯が観測されている。それはもしかしたら遠い宇宙の果てから、地球人が果たした小さな奇跡に贈られた祝福の光だったのかもしれない。
FIN
駄文を最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。又ご縁がありましたら、よろしくお願い致します。




