14.リアの絶望
その後、リアは自室に戻り食事をとり、少し休憩をした。床に腰を下ろす。
これから瞑想をしてラドゥに会いに行く。首にかけられたスカイブルーの光石を
握りしめ意識を送るイメージをする。
「ラドゥ、これから会いに行きます」
リアは目を閉じた。
*
ほどなくして、午後と同じ漆黒の中にリアは浮かんでいるのを知る。
そして見覚えのある小さな光の点がだんだん大きくなってくるのを見つめる。
先ほどと同じように女性の人型になった。
「ラドゥ」
「リア、よく来てくれましたね」
相変わらず光が強くてラドゥの顔は見えないが、にこやかな声音がリアの頭の中に入ってくる。
リアは我慢できず、勢い込んで話し出す。
「ラドゥ、実はシェインが・・!」
ラドゥはそんなリアに穏やかに言う。
「わかっています。シェインが出陣するのですね?」
リアは驚く。が、ラドゥはリアの未来世だ。
「ああ、このことも魂に記録されていることなのね?」
「そうです。そして、それこそが、私がこうしてあなたに会いに来た直接の理由です」
そしてラドゥは冷徹とも思える口調で続けた。
「辛い話ですが、しっかり聞いてください。リア、シェインはこの戦いで命を落とします」
正に爆弾だった。シェインが死んでしまうって。私のシェインが・・。
呆然とした。動揺して、瞑想から覚めてしまいそうになったのか、意識が遠のきかける。だが、ラドゥの話がリアを引き戻す。
「記録ではそれが事実です。だから、このままなら、同じことがあなたにも起こるでしょう。ですが・・よく聞いて、リア。私はあなたを絶望させるために話したわけではない」
リアは我に返ったように、顔を上げた。
「私は、あなたに変えてほしいのはこの過去です。あなたに会うまで半信半疑でしたが、今は、あなたならできるかもしれないと感じています」
「ど、どうすればいいんですか!教えて、ラドゥ!」
リアは大声をあげて詰め寄る。しかしラドゥは首を振った。
「いいえ、それは無理です。まだ起きていない事は読み取ることはできないし、
どうすればいいかは、当事者のあなたが見つけなければならないのです」
「そんな!シェインが戦死しない方法を見つけるなんて、私には無理だわ。
わからない!」
リアはほとんど泣き叫んで、ラドゥをにらみつけた。
「気持ちはわかります。けれど、あなたが諦めたらそこで終わりです。シェインは死ぬでしょう。それでいいのですか?知らせを受けた時のあの絶望を私はまだ記憶しています・・。あなたには味わってほしくないのです」
ラドゥはとても静かな口調で言った。
「シェインが死んだのは、遠征中、偵察に行かされた時です。その命令を出したのはカーサ王太子。どういうことかわかりますか?」
リアはもう考えることもできずに力なく首を振る。
「王太子の意図でシェインは殺されたのです」
リアは衝撃で固まった。
「王太子は、あなたとの「来世の結婚」の約束が妨害されたことに気づいた。それでその原因を調べ始め、あなたがシェインとも「約束」をしたことを知ったのでしょう。確かに、妨害でカーサの「約束」も弱くはなっていたけど、完全に無効になってはいなかった。それ故、未来世でも男女関係の出会いになる可能性はありました。
しかし、シェインとあなたの「約束」の方が強く発現しそうなのは明らかでした。彼は嫉妬に狂いました。そして、人としての一線を越えたのです。彼はそれほど強くあなたを欲していた。でもそれは純粋な愛からではなかった。彼の魂は闇に堕ちました。手に入らないなら破壊してしまえという欲求に屈したのです」
一気にここまで話して、ラドゥはリアの反応を確認するかのように言葉を一旦切る。リアが顔を上げると話を再開した。
「カーサは、自分の願いが叶わないことを知り、リアとシェインの「来世の結婚」の妨害に執念を注ぐようになります。どうやら、シェインを殺し、更に、その魂が生まれ変わっても、片割れの魂を思い出せなくなるという術も施したらしく、そのことが、2人の未来世に強く影響を与えています。
何千年、何万年の未来世にまで残るほど。つまり、私の時空まで。私は、あなたから約一万年の時間が経過した未来を生きています」
話し続けるラドゥの体の光が一層まぶしくなり、リアは目を細める。
「・・おそらく、あなた方3人の因縁は、もっと昔に始まったものです。今の時点では遠すぎて、その始まりまで辿れてはいないのですが、その過去でもきっと何等かの感情のもつれがあったのでしょう。
もしかしたら魂にも記録されないほどに、小さな行き違いが発端だったのかもしれません。そのごく小さなほつれが、時を重ね、感情を重ねていくことでどんどん大きくなった。そして今世、今回の出来事で、その負の感情がカーサの中で臨界点を超えて、一気に強い恨みに変わってしまったのでしょう」




