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12.リアの衝撃

リアはアリスと共に外に出たが、なんだかぼーっとしていてほとんど話ができなかった。現実感がなくてなんだかフワフワする・・。


足元もおぼつかなくてアリスと別れた後、自室に引き上げる途中で又例の木立の中の池のほとりに寄り道をして腰を下ろした。自然の中にいるとようやく人心地がついてきた。


リアはふーっと長い息を吐いた。鳥の声に耳を傾けながら何の気なしに胸元に手をやる。

何か固いものが衣服の下にあるように感じる。


「!これは・・」


首元から引き出してみてリアは絶句した。


「これはラドゥから渡された光が凝縮したというアレ・・?まさか本当に物質化されたなんて・・!」


それは鮮やかに輝く、ガラスにしか見えない3センチほどの小さな欠片。

ラドゥの所で見たときは光だけだったが、今はそのスカイブルーの光の欠片は、銀の細い糸のように流れる銀線で縁取られており、同じ銀色の鎖に通されていた。まるで月の光で包まれたような繊細で美しいデザインだった。


それがいつの間にかリアの首にかかっていたのだった。その明るいスカイブルーの欠片を掌に乗せて見つめてみる。


瞑想中と同じようにリアにはその色は愛しいシェインの瞳を思わせたし、銀の枠は彼の銀髪を思い起こさせた。そのシェインに昨日まさにここで愛を打ち明けられ、初めての口づけまでしてしまったのだ・・リアは思い出し、顔が熱くなった。


「シェイン・・」


思わず声に出していたらしい。


「リア・・?」


「キャッ!」


思いがけず返事が返ってきた。シェインがこちらに向かって歩いてくる。


まるで以心伝心みたいに会いたい人が姿を見せてくれたことにリアは嬉しさがこみ上げたが、当のシェインの顔はなぜか厳しかった。光石を服の下に再びしまって彼に声をかける。


「シェイン?どうかした?」


「リア。ここに来たらもしかしたら会えるかもと思ったんだ。よかった。時間がないんだ」


いつになく早口で急くような口調でシェインが話し出す。


「・・・実は・・急なことだけど、遠征に出ることになった。3日後早朝出発する」


その内容にリアは愕然となった。


「遠征・・?戦いに行くの?どうしてそんなに急に?」


「最近、北方のサイファラ公国が海洋民族タルパに襲撃され、北の海岸領土が酷いことになっていると知らせが届いた。サイファラが墜ちたらカリア王朝にまで賊が侵入してくる恐れもある。王はそれを恐れて、サイファラへの援軍・偵察軍として部隊を派遣することを決められた。カーサ王太子がその隊長に任命された。もちろん僕も王太子に着いて出陣する。」


リアは言葉も出なかった。なんということだろう。リアが息つく間もなく次から次へと事が起こって、現実を受け止めることができない。シェインにとって、初めての遠征となる。


本格的な戦争ではないとはいえ、危険がないはずはない。わずか2日前の朝まで、全くのどかで平凡な毎日の繰り返しだと思っていたのに、突然それが崩れ去ったのだ。一体どうなっているのか。


物心ついた頃から、リアとシェインは長期間離れ離れになったことがない。いつもシェインはリアの近くにいてくれたのだ。シェインのいない毎日は想像できなかった。泣いてはいけないと思っているのに、涙があふれだすのを抑えることができない。シェインの方が大変なんだから泣いちゃいけないのに・・。


「リア・・泣かないで・・」


シェインは痛みをこらえるような顔をしてリアを抱き寄せた。シェインの腕の中でリアは子供のように泣きじゃくった。



しばらくして、何とか落ち着いたリアを確認してシェインは身体を離した。彼はまだ職務中なので宮殿に戻らなくてはいけないのだ。話もほとんどできずに立ち去ろうとするシェインにリアは何とか声を絞り出す。


「シェイン、お願い。出発するまでにもう一度ここで会って。私、明日から毎日この時間にここにいるわ」


その気持ちはシェインにも痛いほどわかった。


「わかった。必ず出発前になんとかもう一度来られるようにする」


それだけ言ってシェインは又足早に去っていった。

後に残されたリアの目はまだ濡れていたが、それでも気丈に立ち上がった。


「シェインが出陣するまであと3日。まだ彼のためにできることがあるはずだわ」


まずは今夜早速ラドゥに会いに行かなければと決めた。本当に泣いている場合じゃなかった。


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