エピソード7 「3%の旅人」
「お、おい!大丈夫か!?」
村人たちが慌てて駆け寄る。
倒れた旅人は地面にうずくまり、荒い呼吸を繰り返していた。
「熱があるぞ!」
「水を持って来い!!」
騒がしくなる村の入口。
その中心で、旅人の頭上で静かにその文字は浮かび続けていた。
【???】
【疲労:94】
【生存率:3%】
3。
やっぱり変わらない。
「水蜜?」
隣でレオが不思議そうに僕を見る。
「どうした?」
「……いや」
何も言えなかった。
”この人、もうすぐ死ぬかもしれない”なんて。
そんなこと、言えるわけがない。それに、たとえ言ったとしても縁起が悪いと怒られるのが目に見えている。
旅人はそのまま村長の家へ運ばれていった。
村はまだ少しだけざわついていたがそれも夕方には落ち着いていた。
ここは小さな村だ。旅人なんて珍しくない。体調を崩す人だっている。
でも、僕の頭からはあの”生存率:3%”の文字が離れなかった。
夜になり、夕食を終えて自室へと戻る。
窓の外からは虫の鳴き声が聞こえる。
「……」
ベッドに座る。
ぼんやりと自分の手を見た。
10歳の、小さい手。その体。異世界。そして、人に頭上に浮かぶ数字。
「意味、分かんないだろ……」
誰に言うわけでもなく呟く。
転生。無適正。観測者にその権限。前世でのあの嫌な目線に罵倒のない日常。スマホもテレビもない、生活。前世では絶対に耐えれないであろう生活。
その時、コンコン、と扉が鳴った。
「水蜜?入るわよ」
母さんだった。手には湯気の立つ木のコップ。
「眠れなさそうだったから、暖かいの持ってきたわよ」
「……ありがと」
コップを受け取る。甘い匂いがした。
【母】
【心配:88】
また文字。最近はもう見慣れてしまった。見慣れてはいけないものだと、頭では理解しているのに。
母さんは少し迷うように視線を揺らし、それから言った。
「……村の人たちのこと、気にしなくていいからね」
「…別に」
「水蜜は水蜜よ」
その言葉が、少しだけ胸に刺さった。前世でも、似たようなことを言われたことがあった。
『あなたは悪くない』
『そのままでいい』
優しい言葉だった。でも、この裏では、必ず何か罵倒があった。
だから、何も変わらない。変われない。
「……うん」
曖昧に返事をする。
母さんは少し悲しそうに笑って部屋を出て行った。
静かになる。
僕はコップを置いて窓の外を見た。
すると、村長の家の方が騒がしい。
灯りが増えている。人も集まっていた。
「……」
嫌な予感がした。
次の日の朝。
村は静まり返っていた。井戸の近くにも、人が少ない。空気が重い。
そして、
「……亡くなったらしい」
誰かの声が聞こえた。
「昨日の旅人って…」
「夜中に急に…」
胸が冷える。
あぁ、やっぱり。あの数字は…本当に...。
「水蜜っ!」
レオが走ってくる。
でも今日は、少しだけ表情が暗かった。
「村長がさ、旅人の荷物調べてたんだけど」
「......うん」
「なんか、変なの持ってたらしい」
「変なの?」
レオは声を潜めた。
「地図」
「地図?旅人だろ?地図ぐらい持っててもおかしくは——」
「それがな、この辺の村に全部印ついてたんだってさ」
ぞわり、とした。
なんだそれ。ただの旅人じゃない?
「しかもさ」
レオは少し不安そうに続ける。
「その地図、この村”だけ”黒く塗りつぶされてたらしい」




