エピソード5 「外側の観測者」
気づけば、体が勝手に動いていた。
「待てっ!」
叫びながら森へ駆け出す。枝を踏み、草を掻き分け、前へ、前へと。
ローブの人物は逃げるわけでもなくゆっくりと森の奥へと歩いていく。
まるで、僕を誘っているみたいに。
「っ……!」
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
——なのに、足が止まらなかった。知りたかったんだ。
管理者権限。謎の黒い文字。そして、’’外側’’。
あいつは絶対、’’それ’’を知っている。
「はぁ…はぁ……おいっ!待て……!!」
10歳の体は想像以上に体力がないらしい。
息が切れる。心臓が痛い。
けど、ローブの人物との距離は不思議と縮まらなかった。
近くもならず、遠くもならず、ただひたすらに、『同じ』。
手が届きそうで、絶対に届かない。
——どれだけ走っただろうか。突然森が開け、日が差した。
そして、そこには小さな祠があった。
「…………え?」
こんな場所、記憶にない。
苔むした階段。崩れかけた鳥居のような門。中央には真っ黒な石板。
それの前で、ローブの男は立ち止まった。
「君なら、追ってくるとわかっていたよ。」
初めて声を聴いた。
男とも、女ともつかない声。聞き取りやすいようで、聞き取りにくいような、機械音声を彷彿とさせる声。けど、頭に直接響くように意味を理解できた。
「………誰だよ」
「質問が早いね」
ローブの人物は小さく笑う。
「ならまず、一つ確認しよう」
ゆっくりと、そいつは僕を見た。
「’’文字’’が見えているね?」
——心臓が止まりそうになった。
「………っ」
知っている。こいつ、僕の能力を。
いや、’’能力’’なんてもんじゃない。
観測者権限そのものを知っている。
「なんで——」
「なぜ知っているのか。」
ローブの人物は石板へ触れる。
その瞬間、黒い文字が空中に大量に浮かび上がった。
【観測者権限】
【接続中】
【同期率:13%】
見える。僕と同じ文字。
でも、僕のものよりずっと複雑で禍々しい
「まさか………」
「そう、そのまさかだ。私は君と同じだよ」
ローブの奥で口元が歪む。
「’’観測者’’だ」
頭が真っ白になる。
僕以外にもいる?この力を持った人間が?
「......なんなんだよ、観測者って」
思わず聞いた。
するとそいつは少し黙って、それから、
「世界に’’気付いてしまった者’’のことさ」
そう答えた。意味が分からない。
だが、その言葉には妙な重みがあった。
「少年。この世界はね、」
ローブの人物は空を見上げる
「正常じゃない」
その瞬間、黒い靄が祠の周囲から溢れ出した。
「っ!?」
空気が変わる。重い。息苦しい。
まるで、世界そのものが軋んでいるみたいだった。
【危険分子を確認】
【名称不明】
【脅威判定:測定不能】
黒い文字が初めて’’測定不能’’を表示した
背筋が凍った。
「君はそのうち見ることになる」
ローブの人物が言う。
「この世界が、”誰かに観測されている”理由を」
「……は?」
「そして気付く」
一歩、そいつがこちらに近づく。
「君が転生したのは、偶然じゃない」
その言葉に呼吸が止まった。
「え......?」
「雨宮司」
ぞわり、と全身が泡立つ。
今、こいつ。僕の前世の名前を。
「な、んで……」
「君は”選ばれた”んだよ」
次の瞬間だった
【警告】
【高位観測干渉を確認】
【強制遮断を実行】
バチンッ!!!
世界が、弾けた。




