091 共同戦線2
賑わいのある繁華街を抜け、周囲の明かりは徐々に減っていく。
四人も徐々にペースを落とし、足を止めた。
相馬と天城はビルから地上へと降りる。
食満と、切らした息を戻すのに忙しそうな多田と合流した。
「光、今日はもう終わりにするか?」
「うーん、終わりでいいんじゃ無いかな。まひるもこんなだし。一応違うルートをゆっくり帰って、スミレ達と合流しよう」
「はっ、はっ、自分、まだイケるっスよ!」
「嘘つけよ」
多田が相馬を睨む。
疲れていてもこの気迫、なんという根性だろうか。
「待て待て」と、相馬は思わず、後ずさる。
その時だった。
相馬がいた場所を、ものすごい速度で何かが過ぎ去っていく。
そしてそれは、大きな音を立ててビルのガラスを突き破った。
「また、これかよ・・・!」
天城、多田、食満の三人は盛大な音を立てて割れたガラスを見た。
相馬は身構え、それが飛んできた方を見る。
飛んで行った方では無い。
何が飛んできたなんて些細な問題だった。
この既視感は、この危機感は、捨て置けない。
「ハウザー!」
相馬の声に、残りの三人も即座に顔を動かしてその姿を確認する。
離れた位置に現れていたのは黒いコートにハット、現実ではありえないほどの巨躯。
「本当に、出るなんて」
食満はすぐにスマホを取り出して加藤に連絡を取る。
その邪魔はさせまいと、多田と天城がその前に立った。
「よぉバケモン、あん時の借りを返しに来たぜ!」
「行くぞ!まひる!」
多田が吠える。
天城が動く。
(大丈夫だ。警戒心が切れた時を狙われたが、こいつらなら!)
相馬も二人の動きに呼応するように、駆け出す。
天城と相馬はハウザーを中央に、左右に別れる。
少し遅れて真正面に多田が走る。
挟み撃ちなんて易しいものでは無い、狙うは三方向からの攻撃。
ハウザーに動じる様子は無い。
ほぼ同時に跳んできた相馬と天城の蹴りを、それぞれ片腕で受け切った。
手応えは無い。
だが両手を開く形になったハウザーの顔も胴も隙だらけだ。
その隙を多田は見逃さない。
「死ぃぃねぇぇえ!デカブツがぁ!」
大きく振りかぶった渾身の拳がハウザーの胴体にめり込んだ。
その巨大な体はきりもみに吹っ飛んでいく。
再びガラスが割れる音がして、ハウザーはビルの闇の中へと消えていった。
「す、すげえ」
「はっ!どんなもんだ!」
会心の一撃を決めた多田が、大きくガッツポーズを取る。
連絡を終えた食満が三人に走り寄ってくる。
先程まで持っていたスマホに代わり、その手には小ぶりなナイフが握られている。
「優征、ありがとう!君の考えてくれた戦術のおかげだ。自信はなかったが、こんなに上手く行くと思わなかった」
「いやいや、昨日の今日考えた戦い方なのに、即成功させる三人が凄いんだよこれは」
相馬自身も参加したとはいえ、互いを称え合う三人を見て唖然とした。
事前の打ち合わせ通りではあるが、実践どころか練習もしていない。
動きを合わせるのも、明け方の戦いを見るのも初めてだ。
「なんて威力だよ・・・あの巨体があんなとこまで」
「見直したっスか?でも、まだ終わってないスよ」
多田は警戒を緩めずに、ハウザーが消えたビルを睨みつけている。
ビルの中から瓦礫を崩すような音が響いて来る。
そして割れたガラスを跨いで、ハウザーが再びその姿を現した。
「ふん、バケモノが」
食満もナイフを構える。
姿を現したハウザーは、自身の肩についた細かい瓦礫の破片を手で叩いている。
4対1のこの構図を、意に介していないように見える。
そしておもむろに足元に落ちた瓦礫を掴み、投げた。
風を切る音がする。
ハウザーが腕を振り切った瞬間に、食満が前へと出た。
一瞬で迫り来る瓦礫の射線上。
当たったら無事では済まされない。
高い金属を鳴り響かせたかと思うと、瓦礫は食満の後方へ飛んでいった。
「え、ナイフで・・・?」
相馬は驚かされてばかりだ。
食満は投げつけられた瓦礫よりも小さなナイフで、その軌道をずらした。
そして瓦礫は誰にもダメージを与えられぬまま、ビルの壁へと激突して砕けた。
相馬が呆気に取られている間に、二発、三発と瓦礫が投げ込まれた。
しかし食満はそのどれをも、同じように捌ききって見せた。
「す、すげえ」
「相馬、俺を褒めたいなら後でいくらでもさせてやるから。集中」
「あ、すまん」
我に返り、ハウザーへと向き直る。
投擲攻撃は無駄と悟ったのか、動きは止まり、手には何も持っていない。
それでもなお、空気が重くなるような威圧感。
四人はいずれも集中力を高く保つ。
飛び道具を封じたとはいえ、油断できる相手では無い。
あの拳の重さを、あの破壊力を思い出す。
「光、もう一度しかけるか?」
「うん。やろう。分かっていても防げるような攻撃じゃないはずだ。人数のアドバンテージを活かそう。優征もいけるね?」
「当然だ」
先程の攻撃に、さらに食満を加える。
動きを止める者が二人、直に攻撃を加える者が二人。
普通であれば、四人も一斉に攻撃をすれば、場が混乱し十分な成果を得る事は難しい。
しかし四人にはそれができる自信があった。
さっきの会心の一撃は、偶然では無い。
天城と相馬が跳んで、蹴った。
その息の合った、1秒の時間差も無く迫る攻撃に、ハウザーは再び腕を上げて防御をするしかない。
両腕が上がったガラ空きの胴を目掛け、多田は拳を叩き込み、食満がナイフを突き出す。
はずだった。
だが多田と食満が、着いてきていない。
「はっ!?」
ハウザーの腕が振られ、相馬も天城も距離を取る。
主攻の二人の姿を確認する。
二人の影は、三人になっていた。
新たに現れたその影の持つ長い棒に阻まれ、二人はその場から動けなかった。
「誰だテメェ!」
多田の激昂を受けても、冷静にその影は答える。
「お前らの敵だよ」
その男が手に持った長い棒を何度か振るう。
多田と食満はそれを躱すが、長いリーチを持っそれを躱すためには、大きく動くしか無い。
相馬達がいる位置とは更に離れてしまった。
「ハウザーの邪魔はさせねえよ?」
男は棒を構えて、二人に宣戦布告をした。
その言葉は、明らかに相馬達と敵対し、ハウザーの側に付く事を意味している。




