088 合同会議
眠った先の世界で目を覚まし、まずは真壁と凛と合流した。
そして少し遅れてやって来た天城に連れられて移動する。
「さ、ここだ。外観は褒められたものじゃ無いけど、中は結構綺麗にしているつもりだよ」
そう案内された小さなビルに貼られている紙を見る。
売りに出された利用者不在のビルのようだ。
裏口に周り、慣れた手つきで鍵を開く天城。
2階にある部屋に通されると、まずは見知った顔と目が合った。
三人程度が座れるサイズの質素なソファに腰を下ろしている加藤菫である。
そしてそのすぐ隣に、腰を下ろしている女性と目が合う。
加藤のピンクのインナーカラーが入った髪が地味に見える程の、長くて派手な金髪。
眼光は鋭く、相馬達を警戒していることを隠そうともしない。
そして視線を動かすと、部屋の奥のデスクを陣取っている眼鏡をかけた青年。
(光を含めて4人、これで全部か?)
相馬が視線を部屋中に走らせると、加藤が呆れたように口を開く。
「安心して、これで全員よ。こっちにはそこの真壁みたいに隠れる事に特化した人間はいないわ」
「あ、ああ。そうか」
「はは、安心してくれ翔太。僕達は絶対に君達に危害は加えないさ」
天城はそう言って相馬の肩を叩き、部屋の中央へ歩み出る。
「ようこそ。ここが僕達のアジトだ。僕達は『明け方』と名乗ってる」
「明け方・・・ですか?」
凛の疑問に、天城は待っていたと言わんばかりに答える。
「そう!メンバーの名前の頭文字を取ってるんだ!『あ』は僕、天城光だ」
「恥ずかしいんだけど・・・『が』はスミレの加藤からよ。光が無理矢理ね」
加藤は名乗りが終わると、隣に座っていた金髪の女性に目で合図を送った。
女性はいかにも面倒臭そうに、頭を雑に掻き、視線を床に落としたまま名乗る。
「あー、自分が『た』の多田まひるっス。別に覚えなくていいスけどね。とりあえずヨロシク」
それだけ言うと、一瞬の間が空いた。
その間を見て、眼鏡をかけた男が名乗る。
「俺の名前は食満優征。察しの通り『け』の字だよ。話は光から大体聞いてるよ。仲良くしてくれると嬉しい」
明け方の四人の挨拶を受け、相馬達もそれぞれ名乗る。
「大体の話は光と菫から聞いていたが、質問いいかな?」
「なにかな?食満・・・さん?」
「食満でいいよ、相馬達もウチと同じ四人組なんだろ。そちらのチーム名は?」
相馬ら三人は顔を見合わせる。
言葉は無いが、もちろん意図は通じている。
改めて明け方の四人に顔を向けてリーダーたら相馬が答えた。
「無いよ。マジで無い」
「ええ!?チーム名が無い!?」
天城は大袈裟に後ろによろめき、驚きを全身で表している。
「ほら光、だからスミレもチーム名なんていらないって言ったのよ。恥ずかしい」
「いやいや!格好良いし、呼びやすいだろ!?必要だろ!?なぁまひる!」
「自分は良いと思いますけどねー。スミレ姉さんは初めから反対派でしたもんね」
「ほらな!優征も気に入ってるよな!?」
「ヤンキーはチーム名とか付けるの好きだからでは?俺は正直どちらでも良かったよ」
「ちょ、誰がヤンキーっスか」
「ぇえ〜衝撃の事実だよ・・・」
ヤンキーと呼ばれ食満を睨む多田。
がくりと項垂れる天城。
その姿を見て同情したのか、真壁が小声で作戦会議を始まる。
「し、翔太さん。僕らもチーム名考えますか?」
「え、でも私達の名前からって難しく無いですか?」
「えー、『そ』『す』『い』『ま』だからー・・・」
両手を頭に置き、真剣な表情の凛。
整った真剣な顔は少しの迫力すらあり、名案が浮かんできそうな雰囲気を漂わせた。
「『マイソース』とか?」
「意識高そうだな、食に関してだけ」
続いて真壁が案を出す。
「『明け方』に倣って、濁点は使ってもいいんじゃないかな?『まずいぞ』とか」
「さっきのソースの話?自分専用にしてるのに不味いのかよ」
「もう、ツッコミばかりじゃなくて翔太さんも何か考えてくださいよ」
「お願いしますよ!リーダー!」
「ぇえー・・・俺が間違ってるのこれ?」
その様子を、腕組みして見ていた加藤がしびれを切らしたようだ。
「ちょっと、もういいから。チーム名なんて必要無い。もし必要でも後にしてくれない?」
「すまん・・・そうだな」
相馬は咳払いをすると、場を仕切り直す。
「それで、俺たちと手を組んで何をするんだ?その、具体的には」
「もちろん目標としては打倒ハウザーよ。ただ、喫茶店で言ったように、それに反対している勢力もいる。スミレ達がハウザーに未だ挑んでいない最大の理由はそれよ」
「人数が足りないって事ですか?」
「大まかに言えばそうね。ハウザー直下の人間がいるわけでは無いの。でもそれが逆に戦況をややこしくしてる」
「作戦を立てても、予測できない横槍が入る?」
「その通りよ。だから柔軟に各自で判断して動けるような仲間が必要なのよ」
(なるほど、それならー・・・)
明け方は、ハウザーに直接勝てる戦力を探していた訳ではないらしい。
仲間を募る上で重要なのは、戦闘力の高さではなく、何よりも信用できるという事。そして、状況に応じて自分で考えて動ける事。
その点で言えば、相馬達は合格であっただろう。
この世界からの脱却を何よりも願い、タマキを倒す実力は申し分ない。
しかし凛が当然の疑問をぶつける。
「なんとなく理解はできました。でも、私たちの中でまともに戦えるのって翔太さんだけで・・・」
その言葉を受けてなお、天城の瞳の輝きは揺るがない。
「分かってるさ。でも何も殴り合うだけが戦いじゃない。タマキとの戦いは本当に感心した。君達はそれぞれ自分ができる事を、仲間を想ってやった。その力が何よりも必要なんだ」
その言葉に、他のメンバーも頷いた。
まだ相馬達を心から受け入れてはいなさそうな多田さえも、深く頷いている。
「もちろん戦闘向けじゃない人が、無理に前線に立つ必要は無いわ。というか立たせないし。目標は誰も失わずに平和を手に入れる事だもの」
加藤の言葉から感情は読み取れないが、不思議とその言葉は信用できた。




