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集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢の覇王

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084 兄と天城と

相馬は目が覚めると同時に、意識するより先に手が動いた。

スマホの画面を何度か指で叩き、急いで電話をかける。


「おはようございます翔太さん。こんな時間に珍しいですねー。どうかしました?」

「ごめん、いきなりで悪いんだけど石上はいるか!?」

「あ、はい。お兄ちゃんですね?えーと」


突然の電話のうえ、早口で捲し立てる声に、凛は明らかに困惑している。しかしそれでも素直に動きだしてくれた。

電話の奥から物音が聞こえる。

足音。

ドアを叩くノックの音と、兄を呼ぶ凛の声。

そして訪れる静寂。

凛がもう一度兄の名を呼ぶ。

ドアが開く音。

足音。


「いません!え、なんで!?」

「くそ、やっぱりか!」

「翔太さん何か知ってるんですか?何かあったんですか?」


声の震えから凛の狼狽が伝わって来る。

安心させてやりたいが、混乱していて頭が回らないのは同じだった。


「後で話す。とりあえず石・・・湊が危ない目に合っているとかではない。安心して」

「あ、はい・・・」

「ちゃんと話すから。後で玲奈の部屋に集まろう」


今はここまでしか言えない。

申し訳ない気持ちはある。

もっと落ち着いてから、混乱が伝わらないように話してやるべきだったと己の要領の悪さに腹が立つ。

一度深呼吸をして、今度は須藤に電話をかける。


「おはよう翔太」

「おはよう。今大丈夫か?」

「全然大丈夫だよー。仕事も休みだし、時間だけはあるからね」

「今日玲奈の部屋で集まっていいか?」


今度は落ち着いて話せているはずだが、須藤は何かを感じ取ったようで、声を抑えて応える。


「うん、いいよ。兄さんには観光にでも行っててもらうね」

「ありがとう。話が早くて助かるよ相棒」

「ふへっ。任せときなよ相棒」





それぞれ学校や仕事が終わり、須藤の部屋に集まった。

部屋にはいつも通りコーヒーの香りが漂っている。

須藤だけはカップではなく、タンブラーを片手にベッドに腰掛ける。


「みんな急にごめんな」

「いえ、それでお兄ちゃんは・・・?」

「え、石上くんに何かあったの?」


凛から話を聞いたのか、真壁だけは静かに神妙な面持ちで話を待っていた。

須藤もこのメンバーで集まるという事は、夢の世界で何かがあったと察してはいただろう。

しかし、予想外に出た石上湊の名前に首を傾げた。

それはそうだろう。石上湊と集合的無意識の世界、この二つが繋がるなんて思いもしなかった。昨日までは。


「石上湊は、俺達と同じだ。あっちの世界で意識を持って活動している」

「お兄ちゃんが・・・!?」

「嘘、だって全然そんな素振り無かったよ・・・」


須藤と凛の動きが止まる。

相馬は昨日の夢のあらましを静かに語り始めた。

天城光の存在。

新井武臣との繋がり。

石上湊との会話。

新たな登場人物の出現にも驚きだが、何よりも石上湊の存在の衝撃は大きい。

相馬と須藤にとっての同僚。

凛にとっての兄。


あまり事情に詳しくない真壁が口を開いた。

わざと空気が読めないフリをしているのかも知れない。


「凛さんはお兄さんとは連絡取れないの?」

「それが朝から全く音信不通で」

「行き先に心当たりは?」

「分からないです。最近は帰りが遅い日や、帰って来ない日も多かったけど、どこに行ってるからまでは聞いてなかった・・・」

「翔太、会社には?」

「来てない。誰も連絡受けてないからちょっと騒ぎになってた」


いつもなら会社でふんぞり返っている上司が、石上湊の仕事を補っていた。

久々の現場仕事に苦労したようだが、なんとか一日を乗り越えていた。

いつも偉そうな上司が、忙しそうに駆け回る姿に周りの同僚は胸の空く思いだっただろう。

相馬にはそんな余裕は無かったが。


「私があっちで会いに行ってみようか?」

「絶対駄目だ。天城の口ぶりだと、石上は相当あっちの世界に慣れている。そして俺の存在も知っていたはずなのに隠していた。目的が分からない」


そう言うと、背後のベッドに座る須藤に背中を軽く蹴られた。

振り向くと、睨むような視線。


(あ、しまった)


視線を前に戻す。凛の顔は青ざめ、目を閉じて唇を噛み、何かに耐えているようだった。


「あ、ごめん凛・・・」

「いえ、翔太さんが正しいですよ。お兄ちゃんの事は信じたいですけど、今は敵が味方か分からないですもん。私も目的が分かるまでは玲奈さんが一人で会いに行くのは良くない気がします」

「そうか、ありがとうな・・・」


空気が重くなりつつあるのを感じたが、そこに再び真壁が口を挟む。


「すみません。僕は凛さんのお兄さんを知らないんですけど、どういう人なんです?」

「うーん。石上かぁ・・・背が高くてイケメンでクールだけどユーモアも通じるし仕事ができる男だよ。あと御曹子」

「全部盛りじゃあないですかっ!?」

「そうだ。少女漫画に出てくるようなヒーローがあいつだ」

「すごいですね。え、玲奈さんってそんな人が身近にいたのに・・・」


真壁の視線が一瞬だけ相馬に動いた。

もちろん相馬はそれを見逃さない。


「いたのになんだよ!?最後まで言えよオラァ!」

「なっ、何も言ってないじゃないですか!」


相馬と真壁が揉み合っていると、凛がクスクスと笑い出す。

その様子に気付き、ピタリと動きを止める二人。


「ふふ、そうだよね。お兄ちゃんはヒーローみたいな人だもん。何か考えがあるのかも。私、会って話してみます」

「うん、強いね凛ちゃん。私も行くんじゃなくて、呼べたらいいんだろうけど。いまいちやり方が分からないんだよなぁ」

「試すなよ?絶対試すなよ?」

「そう言われると振りに聞こえるんだけど」

「んなわけ!!」


重苦しい会話が、いつの間にかリズムの良い軽口の応酬に変わり、ようやく空気を緩めた。


「話を戻すけど、天城光はどうする?みんなも会ってみたいか?」

「私は会うべきだと思うな。悪い人ではなさそうって翔太の勘を信じるよ。それにタケさんの事も気になる」

「私は絶対会いたいです!お兄ちゃんの手がかりですもん!」

「僕も賛成です」

「あ、透は待機で」

「ぇえ!?僕だけ!?」

「違う、待機だってば。バレないように隠れて見ていてくれ。何かあったらよろしくな」


小さく唸り声をあげてやや不満げな様子だったが、相馬の「頼む」という一声に、ため息混じりで頷く。

真壁は元々推しには弱い方ではあるが、それでも相馬の頼みには抗えない何かがある。

もはや言うまでも無かったが、今夜は早めに眠りにつく事をそれぞれ確認して帰路に着いた。

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