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集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢の覇王

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083 天城光

相馬はいつものように夢の中で目を覚ました。

周りを見回すと、いつものアーケード。

透明な天井を見上げると、空は暗い。

どうしてもタマキとの戦いを思い出してしまう。

視線を戻し、歩き始める。

人の姿はまばらで、飲食店やドラッグストアはやっているが、アパレル系の店はシャッターを下ろしていた。


天井のパネルは欠けることなく、潰れたはずのシャッターも何事も無かったかのように来客を拒んでいた。

そのままアーケードを抜け、歩き続ける。

足を止めたのは、タマキが最後を迎えた高いビル。

ここまで来ると周りにはオフィスビルくらいしか無く、人の姿はほとんど無い。

だがあの時と違って、車道を走る車の数はそれなりに多い。

出入口の前まで来ると、一人の男が立っている。

街灯に照らされた姿は、歳も、背格好も相馬と変わらないくらいだろうか。

パーカーのポケットに手を突っ込んで、ビルを見上げている。

このまま無警戒に近付きたくはない。思わず足を止めた。

すると男は相馬に気付き、声をかけてきた。


「こんばんは。意識がある人で合ってる?」


嫌な予感はしていた。

こんな人気の無いところで、このビルを見上げているのだ。この世界に無関係なわけがない。


「そう聞くってことは、お前もって事でいいよな?」


次にどう動くかイメージする。

まだ左肩付近に痛みを感じるが、辛うじて体は動く。

相手はポケットに突っ込まれた手に武器を持っていたとしても、日本刀ほどのリーチは無いだろう。

余程のことが無い限り、この距離なら対応できるはずだ。

そんな臨戦体制に入った気配を察してか、男はポケットから手を出して、指を開いた両手を挙げた。


「待って待って!ヤル気はないんだよ」

「じゃあ何だよ。このビルにいたって事は俺を待ってたんだろ」

「まぁ、そうだね。誤解してるようだから率直に言うと、協力して欲しいんだ」

「協力・・・?」

「ハウザーだよ。知ってるだろ?あいつを倒したい。この世界で最大の問題。僕達の仲間も殺された。あれがいる限り、この世界に平和は無い」


『僕達』と言った。

既視感のある展開。

思い起こされる西岡との戦い。

この平々凡々とした男からは、敵意は感じられない。


「分かった。とりあえず話を聞かせてくれ。歩きながらでいいか?」

「うん、もちろん!」


男と肩を並べ、来た道を折り返す。

人目の無い所や、相手の用意したフィールドにいる事の危険性は身に染みている。


「まずは自己紹介を。僕の名前は天城(あまぎ)(ひかる)です。普段はサラリーマンやってます」

「俺は相馬翔太。仕事は同じくって感じ。ていうかタメ口でいいだろ」

「はは、そうだね。じゃあお言葉に甘えて!」


光という名前がよく似合っていると思った。

清々しく活気に満ちた声。

こんな世界で会ったばかりの人間に向ける人懐っこい笑顔は、どんな人間ともすぐ打ち解けてきた彼の根明な部分が出ているのだろう。


(俺とは真逆みたいなやつだな・・・)

「翔太はこの世界は長いのかい?」

「いや、何というか分からないんだよな。気付いたらいた」

「そうなのか?僕は半年と少し前くらいだ。新井武臣さんを知らないか?彼に色々教わったんだ」

「・・・知ってる」

「やはり知ってるか!さすがタケさんだ」

「俺は直接会った事ないぞ。それにもう死んでるだろ」

「ぁあ、もう亡くなっている。僕、いや僕達は彼の意志を継ぐ者だ。実は君達の存在は少し前から気付いていたんだ。でもハウザー側なのか、タケさん側なのか分からなかったからー」


天城は相馬の反応を、確認もせず話を続けている。

黙って耳を傾けていると自分達以上にこの世界を知っているようだ。

そして西岡のような悪意は感じない。

今後どう関わっていくかはひとまず置いておくとして、貴重な情報源を逃す手はない。


「ちょっと待て。まずタケさんの意志って何のことだ?」

「そこからかー!タケさんはね、この世界から僕らを解放しようとしてくれていたんだ」

「タケさんが!?」

「うん。タケさんとハウザー、タマキは一緒に活動していたらしい。でもそれは昔の話だよ。それぞれの主張が折り合わずに仲違いしている。ハウザーとタマキはこの世界をそのままにしたいんだろうけど、タケさんはそうじゃなかった」

「そう、なのか?てか当たり前にタマキの事も知っているんだな」

「さっきのビルで翔太が倒したという事も聞いたよ。だから君と会って話したかった」


なるほど、今のところ筋は通っている。

タケさん、ハウザー、タマキの関係も見えてきた。


「てことはタマキと戦った後に俺を気絶させたのは光じゃないんだな」

「そんな事があったのか。僕じゃないよ」

「じゃあその話は誰から聞いたんだ?」

「石上さんだよ」

「は?凛のことか?」

「りん?いや、石上湊さんって人だよ」

「・・・・・は?」


耳を疑うとは、まさにこのことだろう。

天城が冗談を言っている気配はない。

立ち止まった相馬を振り返って見るその顔を、穴が空くほど凝視した。


「石上・・・湊が?」

「ぁあ、翔太も石上さんと知り合いなんだな。彼は僕達の仲間ってわけじゃないんだけど、たまにふらっと現れては、助言とかしてくれるんだよ。タケさんは自分の事を語らない人だったからね、さっきの昔話も石上さんから聞いたものがほとんどだ」

「それは、こっちの世界で、だよな?」

「それはそうさ。現実の彼が何者かは知らない」


一方的に会話を打ち切り、ポケットに手を突っ込む。

スマホを乱暴に取り出すと凛に電話をかけた。

しかし繋がる気配がない。


(今日は来ていないのか!)


ならばとダメ元で湊に電話をしてみる。

数回のコール音が鳴るが出ない。

繋がらない電話に、少し安堵してしまったような気もする。

耳からスマホを離し、画面の通話終了をタップしようとした瞬間、通話時間の数字が進んだ。

急いで再び耳にスマホを押し付ける。


「よう。お疲れさん」

「お前、こっちにいるのか!?」

「そうだな、いる」

「ーーっ!」


それで意味が通じてしまった。

何を言えば良いのか、言葉が出てこない。


「な、なんで・・・」

「なんでも何も、俺の方が先にいたと思うぞ」


スマホの向こうから聞こえる声は冷静で、間違いなく聞き慣れた同僚の声だった。


「ビルで俺を気絶させたのも、お前か?」

「そうだ。感謝しろよ」

「お前!起きたら話がある!」

「ははっ、それはちょっと無理だな」

「おい!石上!おい!」


スマホから突然に訪れる静寂。

画面を見ると見慣れたホーム画面に戻っていた。


「くそっ!!」


事態を理解できず、目を丸くしてその様子を傍観するしかない天城。

再ダイヤルするも、二度と繋がる事は無かった。


「翔太と石上さんは仲が良いのか・・・?」

「同僚だよ。現実でのな」

「今の様子だと、こっちにいた事は知らなかったのか?」

「そうだよ!!」


つい声を荒げてしまった。

頭が熱い。

混乱した頭のまま、深く息を吸って、その全ての空気を吐き出した。

いくらかは気が紛れたような気もする。


「はぁ・・・すまん。完全に八つ当たりだった。かなり混乱してるな俺」

「気にしないでくれ。僕には分からないけど、翔太には何かとんでもない事が起きたんだろ?話の続きは明日にしよう。連絡先の交換はできるか?」


二人向かい合ってスマホを操作し、別れた。

天城の姿が見えなくなると、がっくりと項垂れる。

全身の力が入らず、手に持ったスマホにすら重みを感じた。

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