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集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢の覇王

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079 痛み

遠くから声がする。

頭が重い。吐き気もする。

目の前には闇が広がっている。

その闇を掻き混ぜるような、目の回るような感覚。

体は痛くない部分なんて無い。

左肩に至っては痛みの感覚しか無く、腕がちゃんと体に繋がっているのかも疑わしい。

このままずっと目を閉じていたいが、そうもいかない。

眠気は無くなり、徐々に意識が鮮明になる。

瞼の向こうに光を感じると、急速に意識が覚醒していく。


「痛っ、あいででで。なんだこれ」

「翔太!」

「翔太さん!良かったぁー!」

「なんでお前らまで・・・?」


ベッドに横になっている相馬を覗き込むように、凛と透がいた。

須藤は自分の横で瞳に涙を溜め、相馬の手を握っている。

強く握られた手の力に、現実に戻った事を自覚できた。握り返すも、想像以上に力が入らない。

三人の顔を見て、まずは無事に揃っている事に安堵する。

起き上がろうと少し力を入れただけで激痛が走り、思わず顔が歪んだ。


「いいって、横になってなよ」

「すまん。でも本当に良かったよ。みんな生きてる」

「こっちのセリフだよ!めちゃくちゃ心配したんだから」

「本当に良かったですー!」

「ああ。みんな本当にありがとうな」

「そう言ってもらえるて良かったですよ。結局こそこそと着いて行って、怒られるかと」

「いやまさか」


実は真壁は誰よりも先にあの場にいたらしい。

得意の気配を消し、それでも念のために生垣の中に身を潜め、タマキと相馬のやり取りを見守っていた。

しかし、その二人はあっという間に常人には追いつけない速さで姿を消した。

走って追ったが、自分の運動能力では付いて行けず、ましてやアーケードの屋根になんか登れない。

途方に暮れていると、二人が消えた方向を追って、張本が出てきた。その手には剥き出しの刀が握られている。


「それでとりあえず凛さんに相談したんです」

「はい。あっちで連絡を受けて、もう本当に焦っちゃって。絶対なにかの罠だー!って、車に飛び乗りました」

「よく運転できたよね凛ちゃん・・・」

「あはは、他に人も車もいませんでしたからね。交通ルールを無視していいなら何とか〜」


今思えばかなり危ない事をしているが、実際あれは助かった。

凛の助けが無ければ、須藤か相馬、どちらかが、もしくは二人共あそこで終わっていた。


「それで現実に戻って、玲奈さんにも連絡入れたんですよ」

「うん。私は張本を止めようとして、返り討ちにあっただけだから何の役にも立ってないけどね・・・ごめん」

「いや、おかげで挟み撃ちも、不意打ちにも合わなかったからかなり助けられたよ」

「それで、タマキさんは・・・」


沈黙が訪れる。話さないわけにはいかない。

知らないままではいられない。

先程までの無事を確かめ合うような話とは打って変わり、口が重くなるような錯覚。

あの戦いの顛末を、どう伝えたものか。

考えたところで、他人が理解できるように言葉を選び、順序立てて、感情を入れずに話す事なんて不可能のように思えた。

あまり賢いやり方だとは思えなかったが、思いつく限りを言葉にして、相手の理解力に頼るしかない。

考えるために、時間を空けてしまう事の方が悪手に思えたし、何より頭の中で思い返すという作業が苦痛そのものだ。


引きちぎれそうな体を無理矢理動かして、上半身を起こす。

姿勢を安定させ、大きく息を吐く。

そして「タマキは―――死んだよ」と最悪の結末から語る。


戦いの始まり。

街を駆け回り、何度も拳と刃を交わした。

最後まで理解し合える事は無かった。

最後に辿り着く高いビル。そして決着。

タマキの正体と、新たな人物の気配。


「結果は自ら命を絶ったとはいえ、俺は無関係ではない。これは俺が自分の中で消化しないといけないから、しばらくは触れないでいて欲しい。勝手言ってごめん」


三人は何度か唇を微かに動かし、言葉を出そうとしている。

しかし、いつになく真剣な相馬の表情に、最後には黙って頷いてくれた。

「ありがとう」と短い言葉で感謝を伝えるが、同時にそれは、これ以上は踏み込んでこないようにという意思表示にも他ならない。

申し訳ない気持ちはある。だが、こればかりは自分の業として背負いたかった。


「タマキが落ちていった直後、何者かから攻撃を受けて、意識を飛ばされた」

「それって、コートの男、ハウザー・・・?」

「いや、あいつだったら問答無用で殺しに来てそうじゃないかな。イメージ的に」

「それは、確かに」

「また新たな敵ってことなんですかね・・・」

「それは分からない。俺をわざわざ生かしたのも謎だし」

「タマキさんが言っていた、天才だって人ってことは?」

「無いとは言いきれないけど、あのタマキが探しても会えないヤツが、あのタイミングで来て、会った事も無い俺を助けるって違和感ないか?あの場に来たって事は、タマキから聞いて、知っていた何者かだと思う。でもタマキの味方というわけでは無さそうで・・・もう分からん」


話していても結論が出ない事は明らかだった。

一歩進んで、十歩以上下がったような感覚。

意識だけとなった存在。

それを現実の人間へ上書きできる人間。

新たな人の気配。

考える事を放棄してしまいたくなる。

話があまりに人智を超えて来てしまった。


「すみません無理させちゃって。翔太さんも、玲奈さんも体を痛めてるって時に・・・また改めて話しましょうか」

「玲奈が?」


話を切り上げようとする真壁の言葉に、聞き捨てならない言葉が混じっている。

思い起こしてみれば、須藤も致命傷にもなりかねない出血の怪我をしていた。

血によって赤く染め上げられた靴がフラッシュバックする。

あの出血と刀傷だ。現実にダメージを持ち越している事は想像に易い。


「あははー、ごめんね。足がちょっと、まだ痛い」

「なっ、早く言えよそういうことは!大丈夫か?」

「うん、傷は無いからね。痛いだけ。翔太もこんな感じなんだね」

「いでで、立てるか?」

「ふっ、そっちこそなんだけど」


痛みがなるべく顔に出ないように、ゆっくりと立ち上がる。

感覚の無い左腕はほとんど使い物にならなかった。

体の中身が金属に置き換わったのでは無いかと思うほどの重さと、ギチギチと軋む関節。


「大丈夫ですか?」


顔に出さないようには努めたが、明らかに鈍い動きを察した真壁が立ち上がり、体を支えてくれる。

立ち上がってさえしまえば、金属のようになった脚でも問題無く、姿勢を維持できる。

立ち上がるだけで息が上がった。


須藤はいまだ座り込み、相馬を見上げている。

無言で手を差し伸ばすと、その手を取り、膝を立て、唸るような声を出してようやく立ち上がってきた。

手を引く重さに、片脚にはほとんど力が入っていない事が伝わって来る。

立ち上がってもよろめく体を、凛が支えてくれた。


「大丈夫ですか?私の肩使ってくださいね」

「ありがとー。松葉杖とか欲しいかも」

「翔太さんも起きましたし。病院に行きましょう。タクシー呼びますね」


真壁はスマホを操作し、電話をかけ始めた。

凛は須藤に肩を貸して、リビングから廊下へと出ていく。どうやら外に出るために着替えをするようだ。

こう動く事は決まっていたようで、今はこの頼もしい二人に素直に甘えるしか無い。


真壁は電話を切ると、廊下へと続くドアが閉まっている事を確認し、相馬へと向き直る。

そして顔を近付け、声をひそめる。


「玲奈さんの脚は、下手したら今後ずっとあのままかも知れません」

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