075 アーケード3
「あっは、レナちゃんも来たんだー!やっほー!」
タマキは相馬に背を向け、須藤に向けて高く掲げた刀を無邪気に振っている。
相馬は弾かれたように須藤に向かって跳ぶ。
一歩、二歩、三歩、もう少しで届くというところで、タマキが振り返り、その刃を振るう。
「っ!」
まるでバットを振るように、力任せに横殴りに振るわれた刀を、すんでのところで横に跳んで避ける。
「あ、今のは惜しかったねぇ!もう少しで真っ二つにできたのにー!」
「お前ら!玲奈になんかしたらぶっ殺す!」
「おーこわいこわい。でも立場わかってる?」
刀を肩に担いで、須藤と張本の元へ近付いていく。
「これ生きてるの?」
「殺してないつもりです。すみません、ミスりました」
「ふーーーん。ここで待機しててねって言ったよね」
「そうなんですけど、この女が邪魔をして!」
張本は何かを責められているようだ。何が起きているかは理解できない。
須藤の出現は予定外の事だということは分かる。それで何か不都合が起きたことも。
だが今はそんな事はどうでもいい、二人の足元で倒れる彼女をどうやって助けるかだ。
今すぐ飛び出したいが、失敗すれば確実に二人共死ぬ。
奥歯が割れるのでは無いかという程に噛み締め、二人を睨みつける。
「でも『待て』すらできないなんてー、ねえ?」
タマキは刀を張本の顔に当て、話し続ける。
張本の顔は青ざめて見えるが、抵抗はしていない。
狙いはアーケードでの挟み撃ちか、物陰からの不意打ちだったということか。
「わざわざ手を抜いて、一度通り過ぎたここに追い込んだのか」
「そそ!アタシとしてもそれくらいのミッションでも無いと燃えないしね!それに運良くハヤトくんがショータくんを斬れたらおもしろくない!?ボスを目の前に、ザコにやられて悔しそうな顔見たかったな〜!」
言葉も交わしたくは無いが、話して少しでも須藤から意識が離れる事を期待する。
地面に倒れ、少しも動かない。
早く無事を確認したい。
時間をかけている場合では無い。
打開策を考えてはいるが、何も浮かばない。
刀を持った二人、全力で跳んで同時に倒すのは無理だ。しかも片方はあのタマキ。自分と同等の動きができる。
「さて、お話はここまでにしよっか。レナちゃんは生かしといてあげるからショータくんは死になよ」
「本当にその約束を守るならそれでもいいけどな」
「うふふふふ、せいかーい」
口角を異常なまでに上げた、あの笑顔。
その不気味さに、鳥肌が立つ。
もう玉砕覚悟で突っ込むしかないのだろうか。
脚に力を込めた瞬間、アーケード内に低い音が響く。
三人共にその音に気が取られた。
どこから聞こえる?何の音だろうか?
タマキと張本の背中の向こうに、その音の正体が見えた。
少し遅れて、二人も自分達の背後から音がしている事に気付き振り返る。
「は!?なんで車が!?」
アーケードを突き進んでくる一台の白い車。
反射的に道の端に逃げ出す張本。
タマキは車の方を向き、背を向けている。
何が起きているのかは分からないが、その隙を逃さない。
溜めた脚の力を解放し、タマキへと突っ込む。
何の工夫も無い体当たりだが、不意を突かれて対応ができずに、店舗のシャッターへ派手な音を立てて吹っ飛んで行った。
シャッターは大きく歪み、その前にタマキが苦悶の表情で倒れる。
本来なら絶好の追撃のチャンスだろうが、何をおいても須藤が優先だ。膝をついて抱き抱える。
それと同時に、けたたましいブレーキ音を立てて車が近くで停まったが、それも構っている場合では無い。
「おい!玲奈!玲奈!」
「あー、大丈夫。全然意識ある」
開いた目が合って、思わず強く抱きしめる。
須藤も相馬の背中に手を回して、子供でもあやすかのように軽く叩く。
車のドアが開く音がして、声がした。
「玲奈さん!翔太さん!乗って!!」
「凛!?」
「早く!!」
須藤を抱えて後部座席に乗り込む。
ドアが閉まった瞬間に、全力で踏み込まれるアクセル。
タイヤの音を鳴らして、車は急発進した。
窓から後を見ると、タマキはシャッターの前で座り込んでいて、張本は何か叫んでいるが聞こえなかった。
ひとまず危機は脱したらしい。
腕の中の須藤に改めて声をかける。
「おい!大丈夫か!?」
「そんな泣きそうな顔しないでよ。油断させるために死んだフリしてただけ。痛っ」
「どうした!?どこかやられてるのか!?」
「やり合った時に、ちょっと足をね・・・」
急いで須藤の脚を見ると、右の靴が真っ赤に染まっていた。
裾を捲ると足首の後を斬られていて、出血がひどい。
「なっ!?待ってろ。止血する!」
言ったものの、使えそうな布なんて持っていない。
周りを見回すが、綺麗な車内には無駄な物はひとつも無かった。
「玲奈さん怪我してるんですか!?ちょっと待ってくださいね!」
凛は後ろを振り返る余裕も無いようで、前のめりでハンドルを力いっぱい握っている。
車の速度が徐々に落ちて、最後にガクンと停まった。
とっさに片手を助手席に突っ張って、衝撃に耐える。
「ごめんなさい!大丈夫でした!?」
そう言いながら、助手席にあるバッグからハンカチを出した。それを受け取り、須藤の足首にきつく巻く。
正しい止血方法なんて分からない。自分の無知に腹が立つ。
「ありがとうね翔太、凛ちゃん」
「いいって、無理に喋るな。凛ちゃんごめん、適当な駐車場に車を停めてたらエンジン止めて、ライトも消してくれるか」
「はい!」
凛はすぐに車を動かし、駐車場に停めてくれた。
ちょうど良い具合に、背の高い車に挟まれる形になった。しかもほぼ満車になっている。これで息を潜めていれば、しばらくは大丈夫だろう。
「なんで二人共ここに?」
「ごめんなさい!どうしても気になっちゃって。透くんと話して、様子だけ見にこようって話になって・・・」
「ごめん、私も張本が刀を持って待ち伏せしてるって聞いて、思わず・・・」
「なるほど、透か」
凛は夢で、須藤は現実で、それぞれピンチを知って駆けつけてくれたようだ。
「無茶しすぎだって・・・でも、ありがとな」
来て欲しくなかったが、心の底から安心している自分がいる。
顔を見られただけでも心強い。
現実で待っているであろう真壁にも、心の中で感謝をする。
「後は俺に任せてくれ。玲奈の血が止まっていない。このままこっちにいるのは危ない。それにさっきのでタマキが玲奈の能力に気付くかも知れない」
「大丈夫なの・・・?」
「ああ、大丈夫だ。あっちで待っていてくれた方が、絶対に帰るって気持ちになれる」
何か吹っ切れたように笑顔で答える相馬に、須藤は少し安心したようだ。
「私は残ります!車もありますし、何かお役に立てるかも!」
「いやいや、免許無いんだろ?世話になって、こう言うのも何だけど、運転も危なっかしいしさ」
「うっ、それは、すみません」
「もう十分に助けられたよ。透にも無事を伝えてやってくれ。あと『ありがとう』って」
「・・・分かりました!どうかご無事で!」
「気を付けてね、翔太」
両手を広げる須藤。
凛が見ている事は気にならなかった。
迷う事なく、その手の中に飛び込むように、抱きしめる。
しばらく無言で、そのままお互いの存在を確かめ合うように腕に力を込めた。
名残惜しいが体を離す。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、待ってるね!」
元気に送り出してくれる声に勇気をもらう。
虚勢であろうが、それが嬉しい。
決着に向けて、心を決める。




