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集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢での詭謀

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073 アーケード

「だからなんで俺はあの状況で眠れるんだよ」


目を開けると駅前のロータリーに立っていた。

眠る直前の記憶を呼び起こす。

須藤の息遣い、温もり、そして唇の感触。


驚く程に恐怖は無い。

周りを見回すと、自分以外の姿は無い。

どうやら今回ばかりは参戦しないで欲しいという願いは聞き入れられたらしい。


「何がなんでも生きて帰らないとな」


あれだけ死を覚悟していたのに、今はその恐怖が嘘のようだ。

玩具を買ってもらった子供のように、とにかく早く帰りたくて仕方が無い。

ロータリーから改札を目指して歩く。時間は深夜だろうか、辺りは暗く、誰ひとりとして歩いていない。

ビルの明かりもほとんど無く、遠目に見えるマンションや、駅前のホテルの窓のいくつかが明るいだけだ。

目的地に到着するが、駅にはシャッターが下りていて中には入れなかった。


「おはようショータくん。よく寝てるかな?」

「よう、待たせたな」

「ううん、私も今来たところよ。あははははは」


振り返るとタマキが表情も無く立っている。

先程の笑い声はどこから出したのだろうか。


「一人か?」

「そういうショータくんこそ。レナちゃん、リンちゃん、トオルくん、誰も来てくれなかったの?薄情ねえ」


そう言いながら、近くの花壇まで歩み寄って行く。

屈んで、花壇の影から長い棒を取り出した。

そしてその棒から、銀色に輝き、周囲の光を反射させる細長い何かが引き抜かれた。


「日本刀・・・?」

「そう。これが1番得意なんだよねー」


鞘を地面へ放り投げると、乾いた音が闇夜に響いた。

両手で柄を握り、相馬へ向ける。

まだ間合いに余裕はありそうだが、次の瞬間には体をその刃が貫いていそうな緊張感。


「武器の持ち込みが許されるなら先に言っておいて欲しかったな」

「思ったより余裕なんだね」

「最強のステータス上昇魔法かかってるからな今」

「ふーん。まぁ、死んで?」


瞬間、タマキが跳ぶ。

余裕があったはずの間合いを一瞬で詰め、踏み込んだと同時に刀を突き出す。

それを身を捩ってすんでのところで躱した。

そう来るとは読んでいたが、それでもギリギリになった。

腕をめいっぱい伸ばして繰り出された突きのリーチは相当にあり、後ろに跳んでいたら終わっていた。


しかしその初撃を躱せた事で好機は相馬に巡ってくる。

伸び切った腕と踏み込んだ脚では、すぐ次の攻撃には入れない。


「そんなもん持ってんじゃねえ!」


刀をつま先で蹴り上げる。

刀は主人の手を離れて飛んでーー行かなかった。

それどころか、ほとんどその位置から動かない。


「んなっ!?」


好機はタマキに巡る。

刀を横殴りに、力一杯叩きつける。

速度だけに特化させ、刃を返す手間すら惜しんだ一撃は峰打ちになる。

斬れる事は無かったものの、とっさに体を庇っ腕には激痛が走る。


「やっぱり結構動けるよねショータくんって。何かやってた人?」

「学生時代に空手と居酒屋でバイトを少々な」

「ふーん。おもんな」


そう言うと同時に振りかぶって大振りの一撃。

これは後方に飛んで躱す。

更に一歩踏み出し、下ろした刀を跳ね上げての連撃。これは横に大きく跳んで躱す。

足が地面に着き、顔面めがけて拳を振るうもタマキは最小限の動きでそれを避ける。

その瞬間に、下がった腕を見逃さない。

刀をめがけて思い切り蹴りを入れようとするが、素早く腕を振られて不発に終わる。

一旦大きく跳んで距離を取る。

背後にロータリーの柵があるのが見えた。追い込まれる前に飛び越えておく。

二人の間を鉄の柵が分ける。

どちらにとっても、一歩で飛び越えられるので問題にはならない。

だが、さすがに空中で軌道は変えられない。

安易に飛びかかると、手痛いカウンターを食らう事は目に見えていた。


「ねえ、さっきから刀ばかり狙ってるけど、アタシに情けかけてる?」

「情けじゃ無い。話がしたいだけだ」

「この期に及んでまーだ覚悟が決まってないんだ?ナメるのも大概にしてくんないかなあ?ねえ?」

「誰にも死んでほしく無いんだよ!こんな理不尽な世界で!たとえあんたがどんなに悪いやつでも!」

「はぁぁぁぁぁ」


大袈裟なため息を吐き、狂ったように頭を掻き始める。

その動きがピタリと止まり、獣のような目が爛々とこちらを見つめている。


「いい事教えてあげるよ。アタシね、死んでるの」

「ここに落ちる時に死んでるって話なら・・・」

「違う。ここでも、よ」

「っ!?生き返る、のか?」

「まさか、死は死よ。落ちた意識をこの世界に繋ぎ止めているだけ。体は死んでいる」

「それは、おかしい。お前とは現実でも会ってるだろ」


タマキは無表情で押し黙る。

何かを考えているようにも見えるが、真意は分からない。


「まぁ、いいか。別にあんたにこの世界の(ことわり)を理解させたいんじゃない。死人に気を遣わずに殺す気で来いって意味よっ!」


相馬に向けて、猛然と走ってくる。柵は飛び越えず、素早く刀を振るう。

鉄製の柵は短くなり、金属音を響かせて地面に落ちた。そのまま速度を緩めずに突っ込んで来る。


「バケモンがっ!」


振り下ろされた刀を、地面に転がるように避ける。

丁度、近くの地面に転がる鉄の柵だった棒を持って立ち上がり、構える。

しかし敵は立ち止まらずに、余裕の表情で歩いて近付いてくる。

向けられた鉄の棒を切った張本人なのだ。そんな物は何の脅威にもならない。


「まあそれはそうだよな!」

「悪あがきを・・・」


鉄の棒を投げつける。回転しながら飛んでいく棒を見届けず、タマキに背を向けて走った。

背後から金属のぶつかる高音がする。鉄の棒を避けずに、刀で弾いたようだ。


数秒でロータリーを横切り、商店が並ぶいつものアーケードへと入る。

到底人間には出せない速度で走っているはずだが、(はや)る気持ちに追いついて来れない体は、まるで水中の中を走っているように重く感じた。


(こっちで体が重く感じるなんて)


真っ直ぐに延びたアーケードを駆け抜ける。

後ろからタマキは付いてきているだろうか。振り返る時間が惜しい。とにかく今は走る。

すぐ背後から音が聞こえた気がした。何の音かも考えずに、勘だけで大きく跳ぶ。

透明な天井の真下に掛かった、鉄の棒を掴んで、ぶら下がる。

下を見ると、自分のいた位置で刀を振るった後であろうタマキがいる。

跳んでいなかったら、体が真っ二つになっていた。


「やっぱりスタジアムよりは、こういう場所が向いてるね、お互いにっ!」


膝を深く落とし、刀を下段に構えて跳び上がってくる。

相馬はそれを察知し、近くの棒に素早く移動した。

高く響く金属音が鳴る。入れ違いで元いた場所で振るわれる刃は、さっきまで掴まっていた鉄を斬った。

睨むような目線を向けながら、落ちて行くタマキ。しかしすぐにまた来るだろう。すぐに更に隣の棒へ、さらにその隣へと止まる事なく乗り移っていく。


「この猿がぁ!」


追って来ず、下で叫んでいる。

刀を持っているため、手を使って高い所を移動はできない。

相馬は無視して移動を続ける。走って追ってくるタマキ。

刀で高所の攻撃は難しいようだが、同時に相馬も何もできない。今降りたら確実に串刺しにされる。


ならばと上を見る。

次の鉄棒に飛び移った勢いのまま縦回転し、足が上を向いた瞬間に手を離した。

勢いよく透明の天井を蹴破って、アーケードの上に出る。

さっきまで頭上から浴びていた光が、今度は足元を照らし、頭上には暗闇が広がっている。周囲の光のせいか星は見えない。

息を整えていると、少し離れた場所で固い物が割れる音がした。

タマキが自分と同じようにパネルの枠に立っている。


「さて、死に場所はここでいい?」


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