067 行動開始
目を覚ますと現実での日曜日。
西岡のオフィスに来ているが、社長席に人の姿は無い。
島になった席には相馬の他に、須藤、凛、真壁が座っている。
昨夜は夢を見ていない。
夜は眠るのが遅くなったが、朝早く起きる羽目になったのは、鳴り止まない着信音のせいだった。
電話の主は真壁透。話があるから来て欲しいとの事で、この部屋に集合する事になった。
この部屋はそのうち引き払うつもりではあるが、とりあえず今はそのまま残っている。
西岡達の件は事件性が無いということで、不気味な程にあっさりと警察は手を引いた。
真壁の話では、以前からこのオフィスで死人が出ても、ほとんど騒ぎにならず、ニュースになっても、その記事もすぐ消えてしまうらしい。
「あの女か?」
「たぶんそうですね」
凛から聞いた新井武臣が死んだ時と同じだ。
やはりあのタマキが、何かしら暗躍している可能性が高い。
「このオフィスも探ったんですけど、ほとんど何も残されていませんでした。現実でも、あっちでも。ほとんどの情報はタマキさんが管理していたんですけど、ご覧の通りで」
真壁は長谷川環が座っていたデスクの引き出しを、ガラガラと音を立てながら開けていく。
引き出しの中は全て空だった。
机の上には筆記用具や、本が数冊置いてある。
本のタイトルは、ごく一般的に販売されているデザイン関係の専門書で、相馬達の役には立ちそうに無い。
「僕達のデスクには元々大した情報はありませんでした。パソコンはそのまま残してくれたみたいですが、綺麗に初期化されていました」
「徹底していますねー」
このオフィスから得られる情報なんて、元々期待はしていなかったので問題無い。
しかし、こうなる事を予想して、いつ実行する時間があったのかと思うと怖いものがある。
監視カメラでも付いてるんじゃないかと、部屋を見回してしまう。
「みんな凛から新井武臣の話は聞いてるんだよな?」
全員が頷く。特に須藤の様子を気にかけたが、大丈夫そうだ。真剣に話を聞こうと集中している。
まずは凛が口を開いた。
「あの後も調べたんですけど、あの会社について詳しくなるばかりで、夢の話なんか全然出てきてません。すみません」
「凛さんが謝る事じゃないって。僕はあっちの世界で実際にその会社に入り込んでみました。結果として収穫はほぼ無しです。新井武臣の会社は、名前だけが残ってるような状態で、別の会社に買い取られています。当時の社員もほとんどいないようで・・・」
簡単に行くとは思っていなかったとはいえ、ここまで何も手掛かりが掴めないとは。
敵ながらタマキの手際の良さには恐ろしいものを感じる。
「どうする翔太?このままだと八方ふさがりだよ。やっぱり私があの二人のどっちかの場所を突き止めるしかー・・・」
「ダメに決まってるだろ。それなら俺が跳びまわって誘い込む」
「二人ともオトリになるようなマネはダメですよ!・・・私の案を聞いてもらえませんか?本当はまだ全然話せる程の中身は無くて、言うか迷ってたんですけど。現実であの二人のどちらかと会えませんかね?できればタマキさんの方が話が通じそうで良いんですけど。現実でも会ってたんですよね?」
そう言って真壁を見る凛。
「確かに・・・。あっちで会わなければ命の危険は無い。のか?」
確証は無い。現実でも事件を闇に葬れるほどの影響力を持っている。しかもスタジアムの時の口ぶりでは、現実世界のために夢の世界を利用しているようだった。おそらく現実で全くの無害という事は無いだろう。
しかしそれでも、もし戦闘になったとして、あの世界でのように動けるはずがない。
「そうだよな、俺だって現実であんな動きはできない。きっとあいつらだって」
「問題はどうやって探すかだよねぇ」
「前使ってたメッセージそのまま生きてたりしない?」
「ダメですね。アカウントが消えています」
全員で頭を捻るが良い案は浮かばない。
沈黙が続く。時折、須藤が考えを整理するように、あえて言葉にしていてくれるが、事態は進む気配がない。
「私達が見つけ出すのはかなり難しそうだもんねぇ。夢の中みたいに誘い出すしか・・・。でも夢じゃないから誘い出す手段も使えない。あの人が食いついて来そうな事ってなんだろう」
(玲奈の言うとおりだ。あいつの興味、関心、目的・・・。いや、考え方を逆にすれば案外簡単な話じゃないか)
「あいつ好みのエサを用意できないなら、あいつがされて嫌な事をすればいいんじゃないか?」
「と、言いますと?」
思いついた案を全員に伝える。
全員の協力が不可欠だ。危険も伴い、現実で行動する以上は日常生活にも支障が出る。
三人とも頷いて聞いてくれてはいたが、後半の方は表情が引きつっていた。
「・・・って感じなんだけど。あれ?俺おかしい事言ってる?」
「翔太の性格の悪さに引いてるんだよ。よくもまぁ平気でそんな提案できるね・・・」
「でも翔太さん。それをやって、あっちの世界で狙われたら同じことじゃないんですか?」
「そこはタマキの有能さに賭ける。もし俺の考えが的外れなら、かなり分の悪い賭けになってしまう。お前達に強制はしない。ここで降りてもいい」
話している間、須藤の顔は見れなかった。きっと不満そうに話を聞いているはずだ。
なんせ運命共同体なのだ、こう聞かずとも答えは決まっているだろう。
「いえ、翔太さんの話に乗りますよ。そういうのは得意ですからね!」
「私もです!本気を見せちゃいますから少し時間をくださいね!」
「ありがとうな、みんな」
横から須藤のため息が聞こえたが、特に何も言わなかった。
心の中で謝罪と感謝を伝える。
それから凛と真壁に詳細を伝える。二人はやる気十分で、案は出したが、あまり詳しくない相馬に代わって作戦を補足してくれた。
成功したら何を話そうか。タマキの目的は具体的には分からないが、あの世界を『ナワバリ』と言っていた。おそらくは、あの世界こそが居場所だと思っている西岡のようなタイプだ。この世界から脱したい、無くしたいと思う自分達とは目的が違う。
無理に協力関係は望ます、まずは何を置いてもこの世界の情報が欲しい。
それからさらに時間をかけて話し合い、この日は解散した。
西岡のオフィスを出て、須藤を家まで送っていく。
日曜日の街中は賑わい活気がある。人混みは好きではないが、街が賑わっているのは嬉しい。
「うまくいくといいねぇ」
「お、良かった。さっき不穏な空気出してたからまた何か言われるのかと」
「思ったよそりゃ。でもあの二人の覚悟は分かるからねぇ」
「さすが相棒。感謝だよ」
「あ!そういえば昨日の!凛ちゃんすごかったんだから!」
油断していた。今日は完全に夢の世界での頭に切り替わっていて、それどころではなかった。
「電話でさぁ『どうなったんですか?好きなんですか?意識したのはいつから?』って怒涛の質問!あんなにグイグイ来る凛ちゃんは初めてだったよ・・・寝不足」
「ははは、ごめん。玲奈ならうまくやれるもんだと」
「若さには勝てないよぉ~。ちなみに今後は翔太に聞くように言っといたから」
「我が相棒ながら恐ろしい・・・さすがだ」
「仕事は早く、確実にだからね」
思ったより簡単に許されたと安堵したが、どうやらすでに仕返しは済んでいたようだ。
さらにやり返そうかとも思ったが、いたずらっぽく笑う姿に免じて許すことにした。




