065 裏話〜決戦前の珈琲〜
デートの約束をした次の日。須藤玲奈は自室で1人、コーヒーを飲みながら考えていた。
頭の中にあるのはもちろん相馬翔太の事である。
今日はいつも飲んでいる物とは違う、特別なコーヒーを淹れた。結構高い。
良いことがあった日や、逆に落ち込んだ日にも飲んでいたが、今日なぜこれを淹れたのかは自分でも分かっていない。
感情の正体は分からないが、気持ちを落ち着かせたかったという事だけは自覚がある。
「デートか・・・」
呟いて、コーヒーをひと口含む。
今までも考えないでは無かった。
もちろんデートという言葉を使っただけで、深い意味は無い可能性もある。
でも相手はあの相馬だ。現実では抜けている所もあるが、夢の中での頭のキレと行動力は別人のようだ。この一連の行動にも何か意味があるのかも知れない。
「ふへ。なんなんだあいつは、二重人格かよ」
1人でいるのに思わず声を出して笑ってしまった。
自分でも何をこんな事で悩まなければならないのだと思う。もういい大人なのに。
しかし悩む理由に心当たりもある。
異性という以前に、命を預ける仲間という関係が出来上がっている。
夢で会うまでは、ただの同期としてそこそこ仲も良かった。
他の人間に比べて、自分に対して興味が無い所も気が楽で、好感が持てた。
思えばあの時の方がまだ恋愛に発展しやすかったかも知れない。
とはいえ当時は、お互い興味が無いからこそ、そうはならないという矛盾があるが。
須藤にとって今の関係はあまりに強固で、今になって恋だの付き合うだのと言われてもピンと来ない。今更この関係をどう定義付けるというのだろう。
相馬の事は好きだ。人間として。
それもかなり上位に位置していて、完全に心を許している。その感情を恋だなんだとと、青臭い言葉で表現して欲しくないとすら思っている。
そして今までに無い言葉にする事が難しい関係をどう扱っていいか分からず、暴走してしまった 所もある。
家に押しかけたり、抱きついたり、一緒に寝たり。
冷静な時に思い出すと少し恥ずかしい。
こんなに壮絶な経験を共にして、理解を深めた相手がこの先現れるかと言えば、可能性はあまりに低い。
全てが無事に終わる日が来たとして、命を預けるような関係が必要無くなったとして、自分はどんな理由があって彼の隣にいるのだろう。
違う男性の隣にいる自分は想像が付かない。
そして違う女性の隣に立つ相馬はー
「なんかイラっとするなぁ」
となると、答えはもう出ているのかも知れない。
固まった気持ちを飲み込むように、コーヒーも一気に飲み込む。
「あ、少しもったいなかったな」




