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集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢での詭謀

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058 石上家の

相馬は会社を出ると、いつも通りネクタイを緩める。

今夜は特に待ち合わせもしていない。

西岡達と決着がつき、コートの男もすぐには動かないだろうという束の間の平穏。

とは言え、事態は何も進展していないとも言える。

仲間が増え、敵が現れ、戦い、その中であの世界での経験と知識だけは増えた。

でもそれだけだ。何の解決にもなっていない。


明らかに敵意を持つコートの男を何とかできても、須藤の能力がバレたら、次はタマキが敵に回る。

そしてそのあとに何人、そんな危険人物がいるか分からない。

終わりが見えない。

いまだに死はすぐ隣にあって、解決の糸口も見えていない。

そして次こそは、自分が殺す側にまわっている可能性もある。

やはり、あの世界自体をどうにかしない限りは解決には至らないのだと思い知る。


(かなり危険だけど、世界に適応してるだの、ナワバリだの言ってるあいつらから話を聞くしか無いんだろうな)


考えながら歩いていると目的地まであっという間に感じる。

もう少しで駅というところで、見知った顔がいた。

石上凛。周りにいるのは女友達だろうか。凛は周囲の子達よりも頭ひとつ出ていて、スタイルも日本人離れしていて分かりやすい。

邪魔しては悪いと思い、声をかけずに通り過ぎる。


「あ!翔太さん!」


見つかった。周りの女の子達の視線が集まって居心地が悪い。こうなるから素通りしたかったのだ。

しかし、声をかけられたのに無視をするのは印象最悪だ。

退勤後だと言うのに、営業職として自分のスイッチを入れる。


「おう、り、石上さん!お疲れ様〜!お友達と遊んでるのかな?楽しんでね、あはは!」


会心の出来だ、愛想の良い爽やかな年上の社会人を演じられただろう。

後は凛が勝手に、この見知らぬサラリーマンの素性を説明してくれるはず。

ところが凛は小走りで寄ってきた。

そして小声で


「え、どうしたんですか?ニコニコして。どこか悪いんですか?」


と心配そうに言った。

この子も言うようになったな、と感慨深い。

表情から察するに、本気で心配しているのだろう。怒る気にはなれないが、この感情を言語化するのは難しい。

少し離れたところでは、友人達が相馬を見て何やら囁き合っている。この値踏みされるような視線が嫌なのだ。


凛は、再び小走りで友人の元に戻り、何やら話すとまた戻って来る。

友人達は手を振って、駅とは逆方向に去って行った。


「お友達行っちゃうけどいいの?」

「はい、ちょうど解散するところでしたから。翔太さんは?」

「帰りだよ。兄ももう帰ってるんじゃないかな。凛ちゃんの家は駅の向こう側だよな?」

「そうですよ。お兄ちゃんは今日は遅くなるって言ってました。丁度いいからタケさんの事調べようと思ってたんです」


ストイックさに頭が下がる思いだ。

正直空腹で、今すぐにでも座って食事にありつきたいが、ここは歳上として、仮にもリーダーとして言うべき事はひとつだろう。


「俺も手伝うよ」


そんな言葉に体は反旗を翻す。

『ぐぅ』と腹が鳴った。


「ごはん、行きます?」

「行きます・・・」


凛に先導され、いつもはあまり行く事のない駅の反対側へ。

細い路地を通り、雰囲気の良い小さな店に入る。

お気に入りの喫茶店にも似た、レンガ造り風のシックなデザイン。店の前のボードには、やたらに上手いチョークで描かれたピザの絵と、おすすめメニューの案内。

凛によると、友達とよく来ているらしい。イタリアンレストランと言うと敷居が高く感じるが、ピザやパスタを気軽に食べられ、写真映えする見た目で学生に人気なんだとか。

気後れする相馬を置いて、凛は先へ進んでいってしまう。仕方が無いので観念して付き従った。


「おじさんと、こんなとこ来て大丈夫?」

「あはは、翔太さんそこまで歳変わらないじゃないですか。兄とも何回か来たことあるんですよここ」


美男美女であれば絵になるであろう。

しかしくたびれたサラリーマンにはいささか不似合いな気がした。とりあえずネクタイを締め直す。


「何食べよっかな〜」


機嫌良くメニューを(めく)っている姿を見て、真似るようにページを捲る。

意外と気になる物が多く、結局何品か頼んでシェアする事になった。

注文を終えて向かい合う。ふとこんな風に2人きりになるのは、ほぼ初めてな事に気がついた。

状況を考えると、なぜか笑えて来る。


「同僚の妹の女子大生と、夢の中で会って、現実で2人でメシかぁ〜」

「あは、確かに謎ですね。不思議な縁もあるもんです」

「凛ちゃんが良い子で助かってるよ。改めて付いてきてくれてありがとうな」

「いやいや、こちらこそですよ。それと、『凛』でいいですよ。玲奈さんに合わせてくれてるんでしょうけど、呼び辛そうにしてるなぁ〜って思ってました」

「あ、本当?実はそうなんだよね。助かる」


頭の中で考え事をする時は「凛」と呼んでいた。大人になってからの『ちゃん』付けは、慣れていない相馬には少し辛い。なんだか浮かれているような気がする。


「じゃあ凛、改めておつかれー」

「お疲れ様でーす」


料理が運ばれて来て、ソフトドリンクが入ったグラスを合わせる。

凛はピザをカットしたり、サラダを取り分けたりと手際よく動いている。

何もしないのもバツが悪いが、きっと凛も相手にやってもらうと気まずいタイプだ。素直に頼む事にした。

「ありがとう」と受け取って口に運ぶ。


「めっっちゃ上手い!」

「ですよね!?よかったー」


心底嬉しそうに笑う顔は、いつもより少し幼く見えた。

そして当然ながら、石上兄にどことなく似ている。

そんな事を考えて顔を見ていると


「なんか付いてます?顔」

「ぁあいやいや、やっぱ兄弟だな。似てると思って」

「ぇえ〜、それ玲奈さんにも言われましたよ。嫌ってこともないけど、嬉しくもないし、リアクションに困るなあ」


手に持ったフォークを動かしながら、口を尖らせる仕草が可愛らしい。初めの頃を思うと、随分と打ち解けたように思う。


「よく言われない?似てるって」

「言われないでも無いですけど、父親は違うはずなんですけどねぇ〜」

「え?」

「あ」


「言っちゃった」とイタズラがバレた子供のように舌を出す。

デリケートな所に踏み込んだかと、謝ろうとしたが、凛の言葉で遮られる。


「あー、全然そんな重いやつじゃないですよ。でも兄には私が言ったって言わないでくださいね」

「まぁ、約束する。そんな話になる気もしないけど」

「あは、確かに」


凛は、なんてことのない世間話のように身の上を語り出す。

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