056 打ち上げ
自室で休養し、夕方になってようやく活動を開始する事ができた。
駅前で凛と真壁に合流する。
顔を合わせると、凛は相馬の姿を見るなり、感極まったのか瞳に涙を溜めて抱きついて来た。
通行人に見られて少し恥ずかしかったが、子供をなだめるように背中を叩いてやった。
背後から「へぇ誰でもいいんだ」と聞こえた。怖い。
西岡チームの事は、各々折り合いを付けてきたようだった。
もちろん完全に割り切る事はできない。一生忘れる事も無いだろう。
対立したとはいえ、目の前で理不尽に奪われた命。
そうなる前に、分かり合える道は無かったのだろうか。理解するために出来ることは、全てできたのだろうか。
何度も繰り返し後悔してしまう。
しかし、それぞれ心にしこりを残しながら、それでも前を向く事を決めた。
少し時間は早かったが、以前にも使った居酒屋に入った。
相馬翔太、須藤玲奈、石上凛、真壁透、今回の戦いを乗り越えて、生き残った面々。
控えめに乾杯をした後、戦いで重要な役割を担ったが、ほとんどその場にいられなかった真壁に話をしてやる。
「マジですか。タマキさんがー・・・。他の奴らも死んで・・・いや、すみません。悲しいとかじゃないんですけど、頭の整理が。僕も含めて、ロクな死に方できないだろうなとは思ってましたけど、さすがに意味が分からなくて」
真壁は長谷川に虚偽の情報を流した後、現実に戻り、待機していた張本をダグアウトに向かわせていた。
その後は、自分も再度あの世界に入ろうとしたが、上手くいかず結果を待っていたらしい。
「本当にありがとうございました。透さんがこちらに付いてくれていなかったら、かなり危なかったと思います」
「い、いやいや!ていうか凛さん、歳近いんだから敬語やめましょうよ」
「じゃあお言葉に甘えて。って透くんのそれも敬語だよ」
頭を掻いて笑う真壁と凛。意外と相性は良さそうだ。
歳が近い仲間ができて嬉しいのだろう。
話をしていくと、真壁は「しばらくは安心して夢を見られますね」と言った。
どうやらコートの男は、意識ある者を狙っているが、連続して何人も殺す事はほとんど無いという。
今なら理解できる。初めは天災のような存在に感じていたが、同じ人間というのであれば、現実での生活があるはず。
そう頻繁に現実で原因不明の遺体が出ては、何か不都合があるのだろう。
話の通じ無さと、あの巨体で怪物のように思っていたが、意外と理性的であるようだ。
今回は同じ会社から三人も死者が出たのだ。原因不明とはいえ騒ぎになる。
「マジか!もっと早く分かってたらなー。言ってもしゃあないけど」
「確かに、これからはニュースも要チェックだね」
「そうですね。少しでも安全な日が分かれば助かります」
今回の騒動で様々な事が明らかになった。続けてあの世界の事を知るために、この機会を逃す手はない。
「まずはタケさんってやつから調べよう。あの三人の中で、唯一素性が分かる人物。だよな玲奈」
「うん、亡くなった時にニュースで見たし、会社と名前は分かるよ」
ため息をつく須藤。ドリンクをマドラーで回し、無表情でそれを眺めている。動いてグラスに当たる氷の音が虚しく響く。
命の恩人だと思っていた人が、突然よく分からない存在になったのだから無理もない。
「それではあっちの世界で会社を調べる仕事は僕に任せてください。場所さえ分かれば、たぶん入り込めますんで」
「じゃあ私はこっちで過去のニュースとか追ってみます。玲奈さん、後でその人のこと教えてくださいね」
複雑な心境の須藤を気遣ってか、率先して行動してくれようとする凛と真壁。
相馬は申し訳なく思いながらも、任せることにした。
重くなりそうな空気を察してか、凛がグラスを高く掲げる。
「さて、とりあえず飲みましょう!気にするなと言われても無理ですが、あんな目にあってもせっかく無事だったんですから!」
「ま、確かにな。久々に頭からっぽにして楽しまないと、何のためにあんなに痛い目に合ったのかもわかんないしな」
「ふへっ、頭空っぽなのは今だけ?」
「あはは、玲奈さんって結構言うんですね」
「そうかな?でも翔太にだけね」
夜は更けていく。
辛い思いは十分にした。
無理はしているが、それでも明るく振る舞う。
そうしているうちに本当に楽しくなって来る事を信じて。
こんな日もあってもいいだろう。
今まで以上の苦難が待ち構えているであろうこの先も、なんとしても生き残る。
楽しい時間をたくさん作ろう。辛い事があっても、その先には幸せが待っていると信じて。




