表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
集合的無意識が私達に与える影響について  作者: 10MA
夢での邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/81

050 コロッセウム2


スタジアムに到着し、グラウンドの中央へ足を進める。

コートの男は付いてきていない。

そもそも連れて来る気も無かったわけだが。


グラウンドから客席まで見回したが、人の姿は見えない。

客はもちろんのこと、西岡の姿も見えない。


しばらく周囲を確認していると、控え選手のベンチ、いわゆるダグアウトから伊藤が出て駆け寄って来る。

だんだんと距離が近くなり、表情が見える。どうやら眉間に皺を寄せ、怒っているようだ。


「おい、あいつはどうしたんスか!?」

「もう少し待てって。それより玲奈と凛は?」

「そんなの知らないスよ」


伊藤が出てきた場所とは別のダグアウトに視線が向いたのを見逃さなかった。

その瞬間に全力で駆け出す。風を切る音に混じって、背後で伊藤が何か叫んでいる声が聞こえる。

だがもちろん付いては来られない。


「翔太!」

「こっちです!」


物陰から顔を出した二人を背に、グラウンドへと向き直る。予想通り、ダグアウトの中には見張りはいないようで安心した。こうなると壁に囲まれたこの空間は、心強い要塞となる。

伊藤は大声を張り上げながら、大股で距離を詰めて来る。


「んなっ、トオルはどうしたっスか!!」


たまらずついに相馬達の前で真壁の名を叫ぶ伊藤だが、当然答えは返さない。

そしてダグアウトの中では、妙な位置に立つ須藤と凛。

お互い反対側の壁に背を付けて、ダグアウトの中を注視している。

その様子を見た伊藤が異変に気付く。


「何・・・?あっ!ハヤト!来るな!!」


叫ぶがもう遅い。影がゆらめいたかと思うと、突然ベンチに座った張本が現れる。

どういう話を聞いて来たのかまでは分からないが、想定外の事態に混乱しているようだ。


「え、なんで、社長は?」


その隙に、凛が手に持ったスプレーを張本に向けて噴射する。


「なぁっ!?」


使ったのは石上兄に持たされている護身用の催涙スプレー。

背中を丸め、手で顔を覆い、咳き込む張本。とてもじゃないが動ける状態ではない。

苦しむ張本を、須藤と凛の二人がかりでロープで縛りあげる。

背を向けているので音しか聞こえないが、その尋常では無い咳と、うめき声にはさすがに同情した。

伊藤は相馬に立ち塞がれていて動けない。


「くっそがぁー、何が起きてるんスかあ」

「トオル君が裏切ったのでしょう」

「タマキさん・・・そんなまさか」


長谷川が忌々しそうに言いながら、伊藤の横に立つ。


「玲奈、凛、出て来るなよ」

「うん、気を付けてね翔太」


背後では一仕事終えた須藤が金属バット、凛がスプレーを構えて敵の突撃に備えている。

ロープは移動用に使うであろう車に用意しておき、バットは事前に、スタジアムに飾られているものを確認してあった。催涙スプレーは凛がいつも持って歩いているため、当然のようにこちらの世界にも反映されている。ここまでは全てが順調だ。


「はぁ。まさか飼い犬に手を噛まれるとは。相馬氏がコートの男を予定通り誘導したと報告してきたのはトオル君。ハヤト君に位置を伝えるのもトオル君の役割でした。つまりそういうことですよね?」

「なっ、裏切ったってことスか?」

「正解ですよタマキさん。あなたも戦いますか?」

「いいえ、私に戦闘能力はありませんので。任せますよシュウ君」


そう言って立ち去って行く。戦えるタイプには見えなかったとはいえ拍子抜けだ。

伊藤は肩を回し、やる気十分といった様子だ。

残った伊藤に構えを取るとほぼ同時に、スタジアム内に怒号が鳴り響いた。


「貴様らああああ!!許さん!許さんぞ裏切り者めがあああ!!」

「ーっ!」


なんという声量。真横で叫ばれたかのような錯覚。

姿を現した西岡は、離れた客席からこちらを見下ろしている。


「シュウ!今すぐそいつを殺せ!!」

「はい!!」


言われてすぐに、真っ直ぐに走り向かって来て、跳んだ。

勢いのまま、相馬の顔へ狙いを定めた蹴りが飛んでくる。

余裕で(かわ)せるのだが、そうするとそのままの勢いでダグアウトに入り込まれかねない。

そこまで考えた攻撃かは分からないが、事実として受けるしかなくなった。

両腕を顔の前で組むと、すぐに伝わって来る衝撃。

めいっぱい身体を硬直させて耐える。

伊藤は着地すると、そのまま深く身を沈め、足払いを狙う。

それを跳んで避け、ついでに良い位置にあった頭を蹴り飛ばした。

体を大きく曲げ、白目を剥き、気が飛びそうになっている所を着地と同時にもう一度蹴り飛ばす。


「くっそがぁ、チョーシ乗りやがってぇ。もうキレたからなあっ!」

「頑丈だなおい」


鼻血を拭いながら立ち上がってくる。目は血走り、とても正気とは思えない。完全に頭に血が昇っている、


「屋上ん時とは違えっ、手加減無しだ!」


あっという間に距離を詰めて来る。

しかし相馬はそれに合わせるように、真上に飛び、空中で両膝を抱えるほど曲げて十分に力を溜めていた。

そして絶好のタイミングで、その力を両足に乗せて解き放つ。


「ぎぇっ」


伊藤は短い声を上げて、ずいぶん長い距離を飛んでいった。

今度は立ち上がって来ない。


「うわ、死んでないよな」


駆け寄って首に手を当て、脈を確認すると無事に動いていた。

地面の上であれば、ビルの3階くらいには飛び上がれる程の力を込めた屈伸。現実なら致命症だろう。


「良かったー。生きてる」


須藤達の方を向き、腕を挙げて頭の上で大きく丸を作り無事を伝える。


その瞬間、足元に何か降ってきた。


「なんで包丁?」


グラウンドに刺さる包丁、地味だが人生で一度も見たことの無い光景に固まる。

しかし頭の中ですぐに心当たりに辿り着き、客席を見る。

西岡が大きく何かを振りかぶっていた。

何かは分からないが、急いでその場を跳んで離れる。

さっきまでいた位置の近くに、また新たな包丁が刺さっていた。


「おいおい危ねえなあ!味方にも刺さるぞ!」

「敗北した者なんぞ仲間では無い!貴様は死ね!」


続けての投擲(とうてき)。今度は細長い刺身包丁。

西岡の剛腕から放たれる薄く細長いそれは、とても目で追い切れるものでは無い。

攻撃自体はまるで何でもかんでも投げる子供の癇癪(かんしゃく)のよう。

だが人間には、傷付くと命に関わる血管や、内臓がたくさんある。こんなものでも下手をすれば、掠っただけでも終わりだ。

想像して額を汗が伝う。

高所から途切れることなく放たれる刃物は、かわすだけで精一杯。

西岡の隣には長谷川がいた。足元から刃物を取り出しては、ご丁寧に柄を向けて手際よく渡している。


(どんだけあるんだよ!見えないから終わりが分からねえ)


「翔太!大丈夫!?」

「大丈夫!隠れてろ!顔も出すなよ!」


「大丈夫」と強がってみたが、打開策は見つからない。

強いて言うなら、弾切れを待つくらいだろうか。

しかしほぼ見えていない弾道を、勘で避けているだけ。いつまで続けられるか自信がない。


「ははは!黙ってあの男を連れてくれば良かったものを!あれに少しでもダメージを与えるためにと用意した小細工だが、お前にとっては致命的だったなあ!?」


何度も繰り返される投擲。近寄れない。

地面を蹴って離れた瞬間、自分の残した足跡に包丁が突き刺さる。


(今のは危なかった!手慣れてきてやがる!)


足が何かにぶつかる感覚。(つまず)き、無様に地面に転がる。


「え?」


倒れながら、スローモーションのように見えた景色の中、足元には伊藤が倒れていた。

ずっと客席にいる西岡を見上げていて、誘導されていた事に気が付かなかった。


「翔太さん!早く起き上がってください!」

「ははは!無様だな!馬鹿が!」


放たれた包丁は、見事に大腿部に突き刺さる。

自分の体に刃物が突き立っている。どこか他人事のように見えた光景だが、何も考えず急いで引き抜くと激痛が走った。


「ぐっ、いってえなぁ!」


追撃を警戒し立ち上がるが、とてもさっきまでのように跳べる気がしない。

脚は繋がっているはずなのに、力を込めると傷がある箇所の痛みに力を持っていかれ、使い物にならない。

我慢というレベルの話ではない、込めたはずの力が勝手に遮断されるかのような激痛。


「ようやく脚が止まったようだなぁ?では、決着といこう」


西岡が客席から飛び降り、グラウンドに降りて来る。

さっきまで望んでいた状況だが、正直今は遠慮したい。


「さぁ、処刑を始める」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ