048 お泊り会2
「泊まっていく・・・?」
「そうだよ。今さら気にする?私んちにも泊ったじゃん」
「いや、うちは来客用布団とか無いよ」
「あー、布団までは頭が回らなかったなぁ。うん、まぁいいよ。このベッドってセミダブルでしょ。あ、でもそうなると睡眠の邪魔か・・・。当初の目的が・・・」
何やらブツブツと思案しているのが聞こえるが問題はそこじゃない。今いったい何を提案しようとしていた。
開いた口が塞がらない。
須藤はたまに行動力がバケモノじみている。こうなると倫理観なんてものは無くなり、なまじ仕事ができるものだから、準備や実行に移るのが尋常ではない早さで、置いてきぼりをくらう。
「あ、サポートはしてあげたいけど、申し訳ないんだけど、あっちの方の期待には応えられないんだけど、大丈夫?」
「あっちってどっちだよ!求めねえよ!」
「うへ、そう強く言われると女としての自信がなぁ」
本当に善意100%なのが逆に手に負えない。これが打算的であれば対応のしようもあるが、純粋な思いだけに無下にも出来ない。もう自分が折れるしかないのだ。
「サポートはほどほどに頼むよ・・・」
「任せて!翔太の背中流すくらいまでは覚悟して来てる!」
「それも結構です〜!」
食事も作ってくれると言うので、素直に甘えることにした。というより有無を言わせず彼女の中で決まっている事らしい。
前回は凛と行ってもらったスーパーに二人で行く。
リクエストを聞かれたので、カレーと答えると、時間が足りないらしく、キーマカレーになった。相馬には調理時間の違いは分からなかった。市販のルーに加え、いくつかスパイスらしき物も買っていた。
話している内容や、手慣れた買い物っぷりを見るに、料理はやはり得意なのだろう。
帰宅すると早速調理を開始し、いつでも食べられるようにしてくれる。
狭い部屋なので匂いが充満し、すでに空腹を覚えたが夜まで我慢らしい。
「っていうか玲奈もあまり疲れるような事するなよ。お前らも暇なわけじゃないんだから」
「翔太に比べたら大した事ないって。あと大変なのは透くんか。そういえば監視は?」
「今日はしてないってよ。さすがに今夜のことがあるしな」
真壁とはこまめに連絡を取り合っていた。あまり根を詰めると良くはないのだが、西岡達を裏切ったのだ。気弱な真壁としては念には念を入れて今夜を迎えたいだろう。
(俺が作戦の要とはいえ、こんなゆったり過ごしてるの悪い気がしてきたな・・・)
須藤は掃除や洗濯に手を出し始めた。それは何か違うんじゃないかと思ったが、本人も楽しそうに集中しているので好きにしてもらうことにした。
とはいえ、狭い部屋で男の一人暮らし。しかもほぼ寝るためだけの部屋は、大したやりがいもなく、あっという間に手持ち無沙汰になる。
何かやる事はないかと、ウロウロと部屋の中を探す須藤を座らせる。
そこからは会話を挟みつつ、テレビや動画を観て過ごした。内容は正直あまり入ってこなかったが、無音には耐えられそうになかったり
マッサージと背中を流すのだけは丁重に断った。
日が暮れると、待ちに待った食事が振舞われた。
かなりの美味しさで、おかわりまでして腹が重くなったが、この体をあの世界に持って行くわけではないので問題は無い。
そしていよいよ睡眠時間となる。長谷川から連絡が来た時に胸を満たしていた不安が、嘘のように消えている。
(これなら、やれるー・・・眠れさえすれば)
床に寝るという相馬の提案はもちろん却下される。
かといって、須藤を床に転がしとくのはプライドが許さなかった。
お互いなかなか折衷案を見つけられず、結局は観念して二人でベッドに入る。
「よし、寝るぞ」
あえて言葉に出す。気合いを入れたのもそうだが、眠れる気がしないので、自分に言い聞かせた意味合いもある。
用意してもらったアイマスクを着けて、ゆったりとしたBGMが控えめな音量で流れているのを聴く。
今まで眠る際に何かに頼るということはしていなかったが、すぐに慣れて心地良さを感じる。
だが、いつも一人しかいない部屋に、もう一人いて、その姿が見えないというのは少し緊張する。
ベッドが軋み、布団に入って来る気配。
なるべく壁に寄ってスペースは空けてあるが、狭くは無いだろうか。
「うひー、あったかーい」
「・・・・・」
「さすがにまだ眠ってないでしょ?」
「まぁな」
アイマスクをしているので表情は見えない。
せっかくスペースを広めに開け渡したというのに、普通に身を寄せてくる。布越しに体温が伝わってきて気恥ずかしい。お互いに布に包まれていない手が当たると、伝わる肌の感触に緊張してしまう。
手の置き所に困り、壁の方を向いて須藤に背を向ける。
(これならなんとか眠れそうだ)
と思っていたが、背中に当たる感触。須藤が密着してきていた。
それも今度はあの日のように背中ではなく、正面を向いて、背中に抱き付くような形で。
しかもこれは夢では無い、現実だ。
「ちょ、玲奈さん?玲奈さんで合ってる!?見えない!怖い!ドッキリで石上あたりに変わってたらどうしよう!」
「ふへっ、あんなにゴツゴツしてないでしょ!」
頭の後ろから聞こえる声は間違いなく須藤の声。
「大人になっても、こういう接触って落ち着くことない?」
「お、おう、そうだな」
背中に顔が当たる感触。
「ふっ、嘘つき」
どうやら心臓の音を確認していたらしい。
正解が分からず、下手に動きを取れない。向き直って抱きしめ返すのが正解なのかもとは思うが、距離感を間違えると取り返しがつかない。なんせ相手は行動力のバケモノ。特に深い意味は無く、本当に子供をあやすような想いでやっている可能性がある。
「・・・流石に誰にでもこういう事するわけじゃないからね」
「お、おう。ありがとうな」
「頑張ろうね・・・」
そして訪れる沈黙。
入眠用として用意してくれたBGMだけが小さく聴こえる。
いや、耳を澄ますと須藤の呼吸音が聞こえる。
(え、寝た?)
すぅー・・・すぅー・・・と一定のリズムで聞こえて来る呼吸音。
(はっっや!!この状況で!?しかもさっきまで喋ってたのに!?ぇえー、どうすんのこれー)
相馬に抱き付き、背中に耳を当てたまま眠ってしまい、完全に動きを封じられてしまった。
いつもは秒で眠る事ができるが、この日生まれて初めて頭の中で羊を数えた。




