未知との接近
(なんだよ、それ……人間じゃない、って)
「とりあえず学園へ行こう、すぐそこだからさ!」
「あ、うん…」
言われるがまま少年に手を引かれ、もう片手に少ない荷物を引き摺りながら力なく歩き出す。もう何も考えられなかった。…考えたく、なかった。
(人間じゃないなら、なんだっていうんだよ)
───少年の言う通りに一般的な街並みの、大きな通りをまっすぐに歩いていく。すると、程なくしてゴシック調の大きな門が見えた。奥には教科書の中でしか見たことのない、かつては世界遺産と言われていたらしい、とある国の城のような大きな建造物が俊輔の眼の前に現れた。多分、これが学園で、このだだっ広い敷地内も園内なのだろう。
「一名様いらっしゃーい!」
「……なんか変じゃないかな、それ」
「まあまあ、細かいことは気にせずー」
少年に連れられるまま、門をくぐる。湖礼少年は掴んでいた手を離し、バッと両手を広げ声高らかに楽しそうに学園について語り始めた。この学園の設備や、街のこと、ちゃんと休みもあることなど……生活に欠かせない情報だ。
一方の俊輔はというと、正直それどころではなかった。短期間に色々なことがありすぎて、脳が理解を拒否していた。もう何も考えたくないし、いっそ夢であってほしい……彼が少年の話を右から左に聞き流しつつ、ぼーっと歩いていた、その時。
「あっ危ないシュンスケ!」───少年が声を上げた時には、もう遅かった。
「おい、どこ見て歩いてやがる」
「………え、本物の不良?初めてみた」
「はあ?」
どん、と肩に鈍い衝撃が走る。ぼやっとしていた俊輔は前から歩いてくる人影に気付かず、当然避けることもできず、そのままぶつかってしまった。しかも長身で赤髪で人相が悪そうな、いかにも、な男に。
(余談だが、今ここで俊輔は生まれて初めて「不良に絡まれる」という体験をした。彼が住んでいた地球のエリアの住人はみな真面目な人ばかりで、規律を乱す不良と呼ばれる人間はいなかったからだ。今思えばこれも機械による不穏分子の管理、なのだろうか)
思わず謝罪よりも感嘆の声が先に出てしまい、アッこれはまずい!と我を取り戻した時には、すでに遅かった。相手は既に顔に青筋を立て怒りをあらわにしていた。あこれおわったかも。
「………本物、だあ?人にぶつかっておいて、いきなり何言ってやがる。まずは謝罪だろうがよ、違うか?」
「まっ、まったくその通りですよね、すみませ」
「声が小せえ!!あんだって?!」
「す、すみませ」
「あ??!」
生まれて初めての恫喝に、今にも泣きそうになってきた。知らない星で、知らない土地で、誰も知り合いがいなくて、頼れる人もいない、ひとりぼっち。そんな現実が、現状の彼をさらに追い詰めた。
(は、話がまるで通じない?!不良怖い、もう絶対近寄らないでおこう…それよりこの状況、どうすれば…俺も悪かったけど、ここまでキレなくても…ああ、もう、だれか…!)
「はいはい、ストップ!ストップ!ごめんねえ、彼、転校生なんだ。今ココにきたばっかだから何も知らないんだよ、ここは一つボクの顔に免じて許してあげて」
「こ、湖礼くん」
「ボクがいるのに、いきなり怖い思いさせてごめん。大丈夫、なんとかするから」
青ざめる俊輔を見て慌てて湖礼少年が割って入り、庇うように前に出た。その様子を見ていた相手は眉をピクリと上げると、盛大にため息をついた。俊輔の肩がびくっと跳ね上がる。
湖礼くんと知り合えてよかったと心の底から俊輔は思った。一人だったらきっと、泣いていたから。
「湖礼テメェ、わかってねえな」
「ん?と、言いますと?」
「来たばっかなら尚更、此処での礼儀を教えてやるべきだ。ちょうどいい、俺が教えてやるよ」
「それは今ボクが教えてるからいいの!もー、裂記くんはもっとカルシウムとった方が良いよ。オススメ教えようか?」
「うるせえな、余計なお世話だ。いいからどけ、テメェごと燃やすぞ」
「やだ。避けたらシュンスケが燃えちゃう。だから、仕方ないからボクが相手してあげよう!」
少年の言葉に俊輔はギョッとしたが、少年は一瞬振り向いて不敵な笑みを浮かべて「任せて★」とウインクした。本当に大丈夫なのだろうか。男はというと少年の言葉で少し溜飲が下がったらしく、先ほどよりも幾分か落ち着いて見える。
「良いだろう。ちょうどテメェの能力のデータが欲しかったところだったんだ」
「ボクは嫌だけどね…君の能力とは相性最悪だし」
「だからデータが欲しいが欲しいんだよ。で、やるのか?」
「はいはい、せっかちなんだから!…じゃ、始めようか」
───ざわり。瞬間、二人が纏う空気と二人の周囲の空気が変わった。何かを試すような真剣な眼差しと、雰囲気。
(肌が、痛いくらいピリピリする…!というかなんかここにいたら危ない気が)
「うん、危ないから十メートルくらい離れてて!」
「やっぱり?!わかった!!」
「えらい!」




