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PASS!  作者: 寛世
第三章
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59/61

未知の模擬戦 19






(…あれ…なんかすっごく聞き覚えが…)



 その言葉を聞いた途端に、()()()の無機質な音声が俊輔の脳内に蘇った。



『──…一、集中力がない。能力はリラックスした状態で行使できることがベスト。通常時と行使時の切り替えスイッチを…』

『───想像力がない。雷の形や、どこにどう墜とすとか、具体性がない。想像力は力になる、己が能力をよく知り学…』

『知識や経験を積むために簡単な任務を受けて、早急に目標を作るべきでは……──』

『…少し力みすぎ。その能力はもう貴方の体の一部なのだから…』

『───五、自信を持って。『雷の能力を使える自分』に、自信と誇りを…』



 …ああ、そうだ。忘れるはずもない───半年くらい前に受けた、初めての第三の地球(ここ)での授業。今でも教訓にしたり参考にしている言葉。ブチギレる海野少年と白いボードに気儘で自由なAI、そして様々なアドバイスをくれた()()()()()()()


「お、オンライン参加だった人?!」


 気がつけば俊輔は叫んでいた。彼は正解と言わんばかりにくるりと回ってツインテールとスカートを翻し、笑顔でピースのポーズをとる。その所作がどうみても女子にしか見えず、脳がバグを起こしそうになる。聴き心地のよいテノールが余計に脳を混乱させてくるから始末が悪い。


「あったりー!ほら、新しい子にはお世話(ちょっかい)を掛けたくてね!まあちょっとアドバイスするの早かったかな?って思ったケド…あの時のあたしの行動は正しかった」


 彼は自信に満ち足りた眼差しで俊輔を見ていた。頭のてっぺんから靴の先まで、全身を見定めるようなじっとりとした視線に、思わず背筋が伸びる。それに、なんだか……


「あの日よりもはるかに強くなったね」

「お、オンライン参加の人…」

「長くて草、あたしの名前は倉良。倉良 聖良(くらら せいら)。倉ちゃんってカワイく呼んでねー!おほん、第三の地球にようこそ、新たな同志よ。()()はキミを認めよう」

「えっと、はい…はい…?」


 うん?我々…?ああ、チーム『氷の国』ってこと…?

 倉良少年の言葉が気になったが、俊輔は背後から急に這い出てきた悪寒にそれどころではなくなった。何事かと注意を払いつつさりげなく斜め後ろを見てみると、それは結界を展開している海野少年から溢れていた。見慣れた光景、鬼降臨である。今にもブチギレそうな彼を見て、振り返らない方が良かったと俊輔はちょっとだけ後悔してすぐに前の二人に視線を戻した。

 こうなった海野少年は少しだけ面倒…大変だと言うことを、この半年間で嫌と言うほど知っているから。


「俺はなあ、めちゃくちゃ腹立ったんですけど?!倉良さんよお!!テメェは来たばっかのやつに何言ってんだ?!ってな…!」

「え?!それ、海野くんが言う〜〜?!兵器だの人間じゃないだの正気でいろだの…キミだって言ってたよね?!はい人のこと言えませーん!あたしの同類でーす!」

「なわけあるか!!含まれてる意味が違うだろうが!!」

「そんなん知らんし佐原井くんだってわかってないと思うけどーー?」

「んな」

「あはは、間違いないね!でもさ、茂樹っちなりに気を遣ってのことだよ?早めに知っておいたほうが良いこともあるしさ」

「気持ちはわかるよお〜〜?だからつまり、あたしのも同じなわけ。イコール同類」

「う〜〜ん?まあ、広い意味だとそうなのかな?」

「なに納得してんだ湖礼。はあ、テメェと一緒にされるとかマジ最悪」

「あたしのセリフなー」

「俺を侮辱する天才がよ」

「褒められた!」

「褒めてねーよ!!」


 隣にいる湖礼少年がフォローのために口を挟むが、あまり意味はなかった。彼は眉を下げて困ったように笑う。二人の間に火花が散って見えた。

 一見すると緊張感のないように見える会話だがその実、この場にいる全員、警戒は解いていない。隙を見せると一瞬で決着がついてしまうような…そんな空気があった。相手はただでさえ情報の少ない、まさに未知のチーム。攻撃パターンも能力の詳細もわからないし、油断はできない。


 ───戦いはすでに始まっている。屋上の扉を破った時から。

 僅かに視線を倉良少年から上に向けると、頭上を覆い尽くす水の天幕がゆっくりと逆巻いていた。驚きを表情に出さないように、今度は下に視線を移す。氷のカーペットが、いつの間にか一面の水になっていた。


(…いつの間に?!)


 俊輔は思わず声に出しかけたが、寸での所で抑えることに成功した。見ていた限りでは二人とも能力を使っている素振りも、予備動作もなかった。そして今も、自然体のように見える。何かをしているような動きは何もない。


「あたしと海野くんが同類なのはともかく、アドバイスが役に立ったんなら先輩として嬉しいね〜〜!」

「あ、あの節はどうもありがとうございました!ずっとお礼が言いたくて…」

「えへへ、いーってことよ」

「な、に、が!先輩としてだ!確かに佐原井は助かったんだろうけども!俺はあの時の態度、上から目線!忘れてねえからな!ここでぶちのめしてやる!!」

「んも〜〜五月蝿いなぁ、海野くんはおまいうだしキレっぽくて怖すぎ。そんなんだからチームの勧誘も上手くいかないんじゃないの?助けて雪ぃ〜!」

「よし、殺るぞあいつ。俺の分まで全力でいけ、容赦も情けも一切いらんからな、前衛二人」

「まぁまぁ茂樹っち落ち着いて!言われるまでもなくやるから、さ!」

「と、とにかくやるだけやってみるよ」

「頼りにしてる、思いっきりやってこい」

「うん…!」

「おっけー、任せて!」


 どうやら相性がよろしくないらしい海野少年と倉良少年の言葉の殴り合いが終わると同時に、隣から微かに風が流れてきた。海野少年に後ろから軽く肩を叩かれ、さらに気合が入る。俊輔は深く息を吸った。

 いよいよこの戦いで決まる。この大会の勝者が。


「倉良、貴方の問題は貴方が片付けて」

「それはそう!そんなわけで、ここからはガチだからよろ〜」


 倉良少年が挑発するような表情を浮かべ声高らかに右腕を振り上げた。


「まずは腕鳴らし的な?」


 彼が指をパチンと鳴らした瞬間、頭上の水の天幕が大きく揺らぐ。逆巻く水が獲物を圧し潰すかのようにいくつも柱を形成し、その真下にいる俊輔たちを目掛けて次々と垂直に襲いかかってきた。ドシャリと派手な水音と共に何本か耐水結界に命中したが、結界は難なく水を弾く。弾かれた水は柱の形を崩して床に散った。

 しかし、天幕の水から絶え間なく柱が降り注ぐ。激しい勢いを伴っている割に一本一本にそこまでの威力はないようだが…量が多かった。水は、俊輔たちの周囲に広がっていた。

 そして広範囲の水による攻撃は、結界の中からの視界さえも奪う。


「ちっ…多いな…防戦になりそうだ」

「な、何も見えないんだが海野クン大丈夫なん?!」

「耐久は問題ない。隙が見えるまで待」

「あら、見えないの?じゃあもっと見えにくくしてあげましょう」

「なんなら壊してあ、げ、る」


 凛と透き通った「雪姫」と呼ばれていた少女の声が聞こえたかと思うと、水が降り注ぐ結界の上部に…霜が降りた。かと思いや、瞬きする間に結界がピシピシと氷結し始めた。あまりの氷結の早さに海野少年が驚きで目を見開く。秋山少年の青い顔がさらに青くなり、俊輔は固まった。


「ッハァ??!!なんだそりゃ!?」

「だだだめくない?!?!」

「ああ、やばい!純粋に()()()で負けた!!耐水耐氷性だぞクソが…っ!!湖礼、()()()()()()頼む!」

「はーいお任せ!!……うーん、合わせ技、厄介だねえ」


 海野少年が叫んだ直後、完全に氷結された結界は全体にヒビが入り、さらに上から水の柱に押し潰され、簡単に割れてしまった。…水に押し潰される!───そう思った刹那、待ち構えていた湖礼少年が『風』を操り、水と粉々にされた結界を空気中に分散させる。凄まじい突風が周囲を吹き抜け、あたりには気持ちの良い冷えた風と、空気中の氷の粒が僅かに残った。


 水による攻撃が止まり、天幕の水はかなり減少した。しかし、床とカーペットには水が満ちている。海野少年の眼差しが厳しくなった。黒髪の女子生徒が風に靡く髪をさらりと撫でた。

 

「うん、気持ち良い風…さすが湖礼」

「えへへ、そうでしょ」

「はははっ脆い!脆すぎるよ海野くん!そんなんじゃみんなを守れないよぉ?よくイキれたね〜もしや、連戦で頑張りすぎたのかな?十分な力を発揮できていないね」

「ぐうう…腹立つ…!言い返せねえのが余計に…!」

「ペース配分下手っぴ?でも待ってあげなーい、次はこれ!水の槍的な…あー…あたしも名前つけようかなー、技に」

「名前は大事だものね。名を与えることで形になるものもあるし…わかりやすくて便利かも」

「雪、良いこと言う〜〜!しかもカッコいいし、テンションもアガりそうだしね!でも、敵にも次どの技くるってバレちゃいそう…それは怖くない?」

「それもそう。貴方が選んで」

「はぁい!」

(海野くんの結界をこんないとも簡単に)

「じゃ、次は下からね!」


 驚く時間も考える時間もない。当然だ、戦場で敵は待ってくれないのだから。

 倉良少年は人差し指をこちらに向け、パチリと指を鳴らす。その瞬間、広がっていた床の水と水のカーペットから複数の鋭い矢のようなものが形成され、こちらに向けて飛沫を撒き散らしながら恐ろしい速さで飛びかかってきた。


「竹也!」

「はい!目障りな槍共が!!」


 海野少年の掛け声に、後ろで控えていた竹也少年が『引力』の能力で水の槍を地面に押し潰した。水は槍の形を失い、元に戻った。床にまた水が広がる。

 倉良少年は一瞬目を細めたが、笑顔で続けた。


「おお、あの範囲攻撃を一撃で?やるう〜〜!キミ、若いのに凄いね!」

「どうもです」

「でもまだまだ出せるよ〜!さっきの倍!これも捌けるかなあ…えーと、命名『あたしのアクアスピアーず』」

「関係ありません!それくらいなら余裕で……っ!」


 立て続けに激しい水音と衝撃が周囲に響く。驚いた竹也少年が振り返ると、背後から水の槍による攻撃を受けており、海野少年が耐水結界でそれを弾いているところだった。


「あはは!背中ががらあき!最低限でもイイから見えてる範囲だけじゃなくて自分の周りにもその『引力場』を展開した方が良かったかもね!海野くんが間に合ってなかったら、キミ今のでリタイアだったしい?」

「っ!!」

「揺さぶられるな!結界を解いたら全員間髪入れずに攻撃を仕掛けろ!湖礼と竹也は倉良、佐原井は夜都見(やとみ)をやれ!!」

「…っ了解です!天幕と、床の水の対応します!」

「よろしく竹也!ボクは倉良(あいつ)をめちゃめちゃにボコってくるね!!」

「え〜〜?できるかなあ〜?風が水を??え〜〜?どうやって?」

「できるよ!忘れてるかもだけどボクはトゥーフェイス!それに、次に君と戦うときはぜぇーったいにボコボコにするって、ずっと前から決めてたからね」 


 湖礼少年が笑顔で告げたその刹那、海野少年が結界を解いた。竹也少年は宣言通りに『引力』で天幕の水と床とカーペットの水を広範囲に固定した。負荷が相当掛かっているようで、額や首から次々と汗が流れ出ている。長くはもたないかも…と湖礼少年は横目で確認してから、ヘッドフォンを首にかけて『風』と『音』を纏って飛び出した。


 一方、俊輔は混乱していた。


「え、やと…?!待っ、だだだだ誰?!」

「雪姫って呼ばれてる女の苗字!彼女の能力は未知数が多い、気をつけながら接近して一気に決めろ!」

「りょ、了解!!?」


 同じく結界が解けた瞬間に光速移動を使用しようとして誰のことか分からず一歩出遅れた。未知数なのに接近して大丈夫なのか?と、一瞬頭に疑問が疑問が浮かんだが、すでに足は彼女───雪姫に向かっていた。彼女に手が届く範囲に光速移動をし…かなり躊躇はしたが…右腕にありったけの『雷』を溜め、そのまま攻撃しようとして、


「簡単に近寄れると思わないで」

「っ!」


 ピシリと、一瞬で。文字通り、空気が凍る。


(今、何かに触れかけた…!)


 その何かに、雷を纏った右腕を氷漬けにされかけた。いや、下手したら全身を。咄嗟に数メートルほど光速移動をすることができたおかげで、間一髪避けることができたが…もし失敗していたら、今頃全身を氷漬けにされてリタイアしていたかもしれない。


(…しかもこの辺、めっちゃ寒い…っ!)


 俊輔は驚きと恐怖と寒さでどうにかなりそうだった。更に光速移動を立て続けに使用した反動が足にきて、倒れそうになるのをなんとか気合いで持ち堪える。今倒れたら間違いなく終わるのが目に見えている。接近できないのであれば雷を墜とすしかないと右手を翳したところで、彼女が口を開いた。


「あの…説明いる?」

「し、してくれるんですか?」

「転校生なんでしょ?湖礼も倉良も貴方に優しい…なら、私も優しくしてあげないと…」

「…?」


 ……戦闘中なのに?というか、あの二人と仲良いのか…?倉良…くんの方は同じチームだからわかるけど…湖礼くん…?幾つもの疑問が頭に浮かぶが、今は時間稼ぎができるならなんでも良い。足の疲労を少しでも回復させることができるならば。動ける方が勝率は上がるはず…。俊輔は腕を下ろし、話を聞く体制をとった。

 それを見た彼女は説明は苦手なんだけど、と付け加えて腕を組んで続けた。


「これは、氷の結界。えっと、私は『氷』の能力(アビリティ)が使えて、冷気を操れるの。倉良の()()でできた氷の結界…を、最大半径一メートル以内に展開していて、それに触れたらすぐ凍る。厚みも自由に変えられるし、あと電気も雷も通さない」

「通さない…?」

「そう、らしいの。私は湖礼と違ってあまり勉強が得意じゃなくて…あまり詳しくないのだけど、氷は絶縁体…らしくて」

「絶縁体…」

「そう、絶縁体…らしいよ」


 彼女は儚げに微笑んだ。涼しげな目元が美しい。氷なだけに。

 鼓動が激しく動悸した。嫌な予感がする。彼女は今、雷を通さないと言った…しかも一メートル以内には、氷の結界がある?…ということは、『雷』を使用した接近戦は自滅するようなもの?まずは氷の結界とやらをなんとかしないと、まともに攻撃が通らないということか…

 …どうしろと?


「貴方、私と相性が最悪かも…運が悪いというか…可哀想だし、もう終わりにしよう」


 哀れみの眼差しと共に、俊輔の周りの空気が凍てつき始めた。そうだ、氷の結界だけではない。彼女は冷気を操作できると言っていた。


「…っ!」


 さらに数メートル下がって彼女から距離をとっても、お構いなしに寒さが忍び寄ってくる。こうなったら駄目で元々と手を翳し雷を彼女を目掛けて墜としたが、案の定、結界に阻まれてシュウ…と蒸発するかのように消えてしまった。


「だから言ったのに。その雷は届かない、私には」

(放電も落雷も接近も…う、打つ手が…!せっかく、ここまできたのに…!)


 ───俊輔が絶望しかけたその時、動く影があった。



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