未知の模擬戦 16
栗茶色の髪を持つ優しげな少年は、にっこりと人が良さそうに笑った。
「僕の名字は春戸。あそこにいる暑苦しい奴とそこの陰気くさい奴の仲間だよ…能力は見ての通り『炎』。物体を通して炎を操れるんだ、よろしくね?」
「は、はあ…佐原井です……一応、雷と砂を操れます」
「佐原井くん、僕は地球から一年前に来たんだ」
「!」
「年齢的にも一つ年上かな?それで、どうだった?君は半年前に第三の地球に来たと聞いたよ…」
「どうだった、とは…」
「もちろん、地球の様子さ!」
彼はそう言うと高らかに笑顔で両手を広げ、鞭をほっぽり出した。手放された鞭が地面に落ちて音を立てる。
(そんな簡単に武器を手放すなんて!)
───な、何を考えているんだこの人、正気か?それとも、これも何かの作戦、だったりするのか?どうしよう、どうするべきなんだ…?!
俊輔は右手を構えながらも、内心は大いに混乱していた。
(敵意は、感じない。真野くんみたいに正面からぶつかって来る方がわかりやすいなんて、夢にも思わなかった。これは、相手に乗った方がいいのだろうか?そうすれば、海野くんが回復する時間を稼げる…?というか今攻撃しても少なくても雷は落としても弾かれる…あ、でも、今は武器がないからいけるのでは?いやでもそれってなんか卑怯では…それに早く湖礼くんに加勢したい…あの赤髪ヤンキーの先輩は、強いし…そして何をするにしても、瓦礫が邪魔で動きにくい…!)
春戸と名乗った少年の思いもよらぬ行動に、俊輔は体ごと固まってしまった。簡単に言うと、想定外のイレギュラーで思考がうまくまとまらず脳がエラーを吐いた。
「!佐原井先ぱ」
「あー…あれは本当に気になってるだけっぽいかも」
「?!いつの間に…っ」
いち早く俊輔の異変を察知した竹谷少年が目を離したその僅かな時間で、灯屋少年は竹谷少年が展開していた引力場から抜け出していた。短めの髪を軽く掻きながら、彼はふーっと息を吐きながら諦め顔で言う。
「いや、微妙だな。あいつ読めなすぎるんだわ。人のこと仲間だと思ってるのかもわからんし、扱い雑だし。…うん、ぶっちゃけ二問目まではノーカンでいいと思う」
「戦闘中にのんびりと質疑応答することが問題なんですが…それより、今、どうやって俺の引力場から抜け出したんですか?結構なGがかかっていたはずなんですけど」
「慣れっすわ、君のお兄さんにはよくお世話になってんの。あー、目を離したら引力場?が不安定になるみたいだから、気をつけた方がいーかも」
「…それは、ご教授どうも」
「やる気満々なところ悪いけど俺は早く帰りてーのでリタイアするからお構いなく…やることないし…じゃ頑張ってね、若人。『降参しまーす』」
「ちょっ…!くそ、あの人はまた…っ!」
少し離れたところで竹谷少年の悔しそうな声とシュン、という電子音が聴こえる。どうやら方がついたらしい。
俊輔は迷いに迷って、少しだけ質問に答えることにした。作戦Sから逸れるし、その行動が正しいのかはわからないけれど。多分、竹谷少年もフォローしてくれるはずだ。とはいえ警戒は解かない、いつでも雷は堕とせる。
海野少年は何も言わずに、俊輔の後ろで成り行きを見守っていた。秋山少年もまた、存在感を殺して身を潜めていた。
「様子というのは、具体的に何が知りたいんですか?」
「!嬉しいね、答えてくれるんだ!ありがとう、君みたいな子は好きだなあ。まずは、君のいたクラスの人間の割合、わかる?」
「えっと…二十人のクラスで…全員、人間だと思います」
「そうなんだ…ところで、人間は人と話すときって目を合わせるでしょ。一瞬瞳孔が青く光るコは人造人間か自動人形、あるいは人工機械なんだよ」
「!…は……え、嘘だろ…じゃあ…半分は、そんなこと…」
「気づいちゃった?僕らの時代にはもう人間が少なくなってるってこと!」
「う、はい…」
「…おい佐原井!そいつの話を聞かなくていいから!もう雷ぶっ飛ばせ!!」
「あはは、ひどいなあ」
「趣味悪い人に言われたくないですね!佐原井!!」
───なんでこの人は、今こんな話をするんだ?
というか、クラスの大半が…まさか、人間じゃない?
真後ろから聞こえているはずの海野少年の声が、どこか遠くに感じる。目の前の人間が、続けて質問をしてきた。
「なかなか話す機会がないからさ。そうか、もう既に半分も…ちなみに、空はどうだった?」
「えっと、基本的に黄土色で…土煙や粉塵がすごい多いです…たまに、雨が降った日は、青い空が見えます」
「…僕がいた時も、そんな感じだったなあ。青空が見えるならまだ大丈夫か。教えてくれてありがとう!じゃあ、最後の質問」
「はあ…」
「しっかりしろ佐原井!聞こえていないのか?!なんで言いなりなってるんだ、3つも戦闘中に聞いてくるとか変だろ!答えるなよ?!」
足に微かな衝撃を受け、はっとした。気がつけば海野少年が俊輔の片足を掴んでいた。
そうだ、今は考えなくてもいいことだ。しっかり相手のペースに乗せられてる。しかしどういうことか、なぜか目の前の男の言葉に答えなきゃいけない気がしていた。
「う、うん!ごめん、ありがとう!なんかぼーっとしてたかも…!」
「正気に戻ったならいい!とにかくあいつの質問に答え「『鳥を殺すのは剣か?炎か?』」
「は…え、鳥…?」
「ば、馬鹿!答えんなって言ったのに!!チッ、対焔結界展開!」
「で、あっちは、止めなくてもいいのか?…厄介なことに、なるが…ってえな」
「うん…っボクは知ってるし、その上で何事も、経験した方がいいと思う派なんだよ、ねっ!」
「司令塔とは、方針が食い違ってるようだな!」
「はは、茂樹っちはちょい過保護なとこあるから、さっ!イヤほんと裂記くんしぶといな〜〜」
「テメェもな…!」
「『勝利を齎す破滅の剣』、起動」




